第417話うらやましげなるもの(2)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


ふと思い立ち、稲荷大社に参詣した時のことです。

中の御社のあたりまで登った時点で、とてつもなく苦しくなってきたけれど、それを必死に我慢して登っていると、全く苦しげな雰囲気を見せずに後ろから来た人たちが、どんどん私を追い越して参詣していく姿は、本当に素晴らしいと思います。

時期としては、二月の午の日。朝まだ暗いうちに家を出たのですが、稲荷の山の途中を歩いている時に、午前十時ぐらいになりました。

少しずつ暑さも加わるので、本当に苦しくなります。

今日みたいな暑い日ではなくて、もっと登りやすい適当な日もあっただろうに、何故参詣など思い立ってしまったのだろうと思うと、涙がこぼれてしまいました。

休もうとして座ってみても、なかなか落ち着きません。

どうしたものかと困っていると、四十歳を越えたぐらいの女性が、壺装束をすることもなく、裾を少しだけ引き上げただけの格好で

「私は、稲荷様に七度詣でをしています。そのうち三度はお詣りを済ませました」

「後の四度も苦しくはありません。午後二時には帰ることが出来るでしょう」

と道で行き交った人に話しながら下りていきました。

普通の場所であれば何も気にはしないけれど、その時ばかりは、あの力強い女性の身体に変わりたいと思ったことでありました。


※七度詣で:稲荷大社の上中下三社を一日に七度参詣して七日詣でに代用する。


うらやましげなるもの(3)に続く。

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