第199話職の御曹司におはしますころ(1)

清少納言先生:今日から職の御曹司の少し長い話になります。

舞夢    :了解しました。それでは訳をしてみます。


中宮様が職の御曹司におられた頃のお話になります。

西の廂の間では、不断の読経が行われるということで、仏画などをお掛けし、僧侶たちがおられるのは、当然のこととなります。

さて、そんな読経がはじまり、二日ほどたった頃になります。

縁の下から聞き慣れない女性の声で

「まだ他にも御仏の御前の供物のおさがりをいただけないのでしょうか」と聞こえてきます。

それに対して僧侶の一人が

「何故なのですか?まだ御読経も終わっていないのですよ」などと答えているのです。

私たちも誰なのか不審に思いまして端の近くに出てみました。

すると、目に入ってきたのは、年寄りの尼姿の者。

かなり黒ずんだ衣を身に着け、なんともうす汚れた格好なのです。

私(清少納言)は、

「どういうことなの?何を言っているの?」と聞くのですが

尼姿の者は声を気取らせて

「私も仏弟子でございます。それなのに御仏からおさがりをいただきたいと申しましたところ、ここにおられる御坊様が出し惜しみをするのでございます」と答えます。

ただ、その物の言い方はサバサバとしていて、どことなく品を感じます。

私としても、このような人はただ突っぱねるだけではよくない、身なりはともかく明るい性格だと思いまして

「他の物を食べずに、ただ御仏からのおさがりだけを食べるとならば、それは本当に素晴らしくありがたいことです」と言うのですが

尼姿の者は

「いえいえ、他の物を食べないということはありません。他に食べる物がないのです。ですから御仏からの供物をいただけないでしょうか」と言うので、菓子やのし餅を袋に入れて渡すと、途端にすごく仲良しになり、様々な話をすることになりました。


清少納言先生:はい、そこまで。

舞夢    :清少納言先生の別の側面ですね、意外です。

清少納言先生:私だって、仏心はあるのです、話が合えばそういうこともあります。


職の御曹司におはしますころ(2)に続く。


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