第184話返る年の二月廿日より(3)

さすがに自分の部屋の前では、斉信様はもしかして御簾を引き上げてしまうような予感もするので、そんな不安で過ごすことは憚られる。

ということで、梅壺で東面の半蔀を上げての対応です。

私(清少納言)が

「こちらです」

と声をかけると、さすが斉信様、艶やかな姿で近づいてくる。

桜襲の綾のの直衣が言いようのないほどお見事、裏地の艶もサラサラとして、とてもいい感じ。しっかりと濃い葡萄染の指貫には藤の折枝が一面の置き乱れたように織られている。下着の紅色や絹地の光沢もキラキラとして、本当に美しい。

さらにその下には、白や薄紫の衣が幾重にも重ねられている。

そして、狭い縁なので片足は地面の下げ、上半身を簾近くに腰をおろす。

その姿といったら、まるで物語絵の中に出てくる佳人そのものだと思う。



返る年の二月廿日より(4)に続く。

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