#125 Modern Lies(現代的虚偽)

『と言う訳で本日午後三時。世界的に名の知れた文豪である肩書も持つ父とのアポイントメントを取り付けましたのでよろしくです! あっ…住所は後ほど送りますので…』


 一通りの説明を受けた後、新山ニイヤマ彩乃アヤノは頼んでもないのにつらつら語ってから、自分勝手にそう締めた――そう、閉めようとしたけど遮った。

 いやいや待ってよ。愚人で凡人たる身の上に降ろした展開が些か早過ぎるし、なんなら思いっ切りに雑過ぎる。


 何はともあれ、まずは質問タイムだ!


「まずさ、アポなんだけど…どういう感じで取ったの? 彩乃さんの事だ、何かイイ感じに彼女のことを含めて、隠してから曖昧に言い包めたんだろ?」

『え? えぇ、まあ…はい。はいはい。大枠の大雑把な解釈では、大体概ねそんな感じですね』

「なにそれ、同調がアバウト過ぎて超不安なんだけど…」


 煮え切らないにも程がある声音におののく気持ちが沸き立つ。なんなら目の前に選択肢が見えるよ。追求するか否か…よし、だな!


「ちなみに参考程度にフワッと概略だけをぼんやりと教えて貰っていいかな?」


 是と申し上げたものの、男らしさとは縁遠い僕の喉を通り抜けた言葉は酷く迂遠うえんで何とも頼り無い。


 それに対して返答は真っ直ぐで、勝負から逃げない男らしいキレがあった。


『父には『姉の彼氏がちょっと物申したいらしいんだけど、少し暗い時間ある?』って尋ねましたね』

「些か悪意満載にも程が無いっ!?」


 そりゃあ僕がこれから行う所業と現状を思えば、そこまで大きく逸脱いつだつはして無いのかも知れないれけど。

 もっとこうさぁ…切り取り方――いや、それ以前に色々含みとか解釈の余地とかの想像性を持たせた上で様々なオブラートに包んで、日本人らしい忖度めいた言い方でなるべくカドとかトゲを減らす努力を試みようぜ…。


 どっと披露と心労を前借りした男がいたりしたけども、多分彼女には関係ないんだな。


『その分多少、荒れているかも知れないですが、頑張ってください。アラタさんならイケます!』

「ああクソ…大変頼りになる義妹シスターを持てて幸せったら無いなもう…!」


 せめてもの反撃とばかりに、皮肉を満載に込めた応答をしたものの…弾む声の裏でほくそ笑む、電波の向こうの表情が見える様だ。恐らく僕が肩を落とす様も筒抜けなんだろうなぁ。


「もうそれはいい。今更追求しても仕方が無い事だ」

『お? 何やらかなり前向きで男らしいですね。惚れ直しましたよ』

「ソロレート婚は諦めてくれ。それよりさ、旧川フルカワ幸恵ユキエの好物とか教えてよ。せめてもの手土産にするから」


 返す刀の溜め息は予想出来たことだ。気にするな。

 それよりも最低限の挨拶と謝罪の意を込めた持参品の方が大事だ。


『そうですね…京都祇園で一五〇年続く老舗料亭の茶碗蒸しとかでしょうか?』

「…わーお。地元で容易に入手可能なものにして欲しい」


 タイムリミットまで間もなく、ただでさえ時間が限られているのを考慮して欲しいと泣いてお願いする。


 すると代替案として近場で手に入る『栗まんじゅう』が提示された。そうそう、そういうの。ソウルフード的なやつが欲しかったんだよ。僕も、まだ知らぬ彼も。


「それともう一つ質問があるんだけど、いい?」

『はいはい、私は義兄あにの奴隷ですよ〜』


 軽いなクソ…いえ失礼。言葉が少々暴力的になってるな。緊張してるのか? 緊張しているよ!


 マイクから遠ざかり、こほんと咳払い。気持ちと口内のリセット。


「僕の金髪カミイロってさ…。黒髪クロに戻した方がいいかな?」


 迫真の悩みを打ち明けた。


『は??』


 おかしいな? 電波が悪いのかな?

 もう一度繰り返す。


「僕の髪色キンパツを地毛の色になおした方がいいか…」

『いや聞こえてますよ。何度も言わないでください』


 耳に当てたスピーカーからは「うむむ…」と低く唸る声が響く。

 ああ…分かるぜ、僕も昨晩めちゃくちゃ悩んだからな。その果てに答えが出なかった超難問だ。


 しかし、流石は年下ながらも人生経験豊富な男女間のスペシャリスト。僕とは違い、十数秒で答えを導き出した。


『べつにそのままでいいとおもいますヨ? ありのままをぶつけることが大切です』

「そっか! 色々とサンキューね。吉報を届けられる様に頑張るよ!!」


 いやあ、そうだよな。ありのままを見てもらわないと意味が無いもんな。偽りの姿で本音を分かち合える筈も無い。


 若干棒読みだった気がするけど気にしないぜ!

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