#121 Beyond the Beyond(向こうの向こう)

 相も変わらず進歩が無いければ成長も無い、ついで言えば準備不足が明らかでなんなら覚悟も微妙に決まっていない――そんな男としてカスみたいな僕が情けない心情を吐露して嘆いたのにも関わらず、そんなものは私に一切関係無いとばかりに罵声が跳ぶ。


「なんですか? その発言は私の痴態の再来を期待してのものですか? またしてもアラタさんは年下女性をブサイクに泣かして、みっともなくひざまずかせたいのですか?」

「なっ? そんな訳っ…は、訳は無い!」


 恋愛初心者ビギナーの僕にそんな特殊な性癖は無い筈だ。

 僕にあるのはせいぜい、気になる異性をちょっと困らせてやりたい位の可愛いもので、そんな上級者向けのプレイは欠片も所望していない。身に余る。


「勿論冗談ですが…既視感のある貴方の態度に、過去の醜態がよぎりました……」


 すっかり冷えた手羽先に箸を伸ばしてから、しゃあしゃあとして述べる新山ニイヤマ彩乃アヤノ。これはあれだな、もてあそばれてるな完全に。


「おいおい、そんなフラッシュバック…冗談でもやめとこうぜ。お互い…不幸にも、らしくなくて本心すがたを不本意ながらに晒したんだ」


 宮元新は柄にも無く悟って賢いフリをして、新山彩乃は隠していた姉への感情をのぞかせた。お互いキャラに似合わぬ姿を見せた日だ。


「ですね」

「ですです」


 年相応に苦い笑顔を作った彼女の言葉に同意してから話題転換。

 だって先程から全然話進んで無いからな。進捗が絶望的な感じ。


「でも実際、マジで僕に出来る事なんてあるのかな? 肉体交渉の為じゃなくて。もっと、愛する女性の為になんとかしたいとは思うんだけど…」


 こと問題は彼女の内面で、原因は過ごした家庭環境―――どちらにしても僕は蚊帳かやの外の部外者だ。干渉出来ることなのか?


「くぅ〜格好いいですねぇ…本当は姉の豊満なおっぱいに触りたいだけのスケベ男とは思えませんね」

「ひ、否定はしないよ…肯定もしないけど……」


 僕も男だからあの甘露の様な感触を何度も味わえるのならば勿論願ったり叶ったりではあるけど、全面的にそれを押し出すつもりは無い。マジで。最低過ぎるだろ。


「まあそれが限りなく正解に近い解答です。そして貴方が立ち位置故に干渉出来無いというならば――」


 部外者じゃなくて関係者になってしまえばいいんですよ?


「どゆこと?」


 僕の置かれた立場って無関係者だったの? 部外者ですら無くて、肉体は疎かまさか関係すら結んでいなかったのか…。


 あれえ? 一応新山彩夏アヤカの彼氏のはずなんだが…。違うのかな? いや、自信を持て、覚悟を決めろ! 大丈夫!


 少しばかり寂しい気持ちが湧いてきたが、確実に関係者である新山家の次女の打ち出したイカれた提案で吹っ飛んだ。


「ってことで明日、父に直接話を聞いてきてください。それで必要な情報は集まりますし、きっと活路は開けるでしょう!」


 想定外の突飛な提案に、ちょっと理解が追いつかないなぁ……。

 恋人の実妹に相談したら、その実父にたらい回しにされたぜ。これがお役所って奴か。


 どうやら僕は、反体制を謳った反大勢の音楽からどうにも抜け出せそうに無いな、これは。マジで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る