#105 Airwalker(空を歩く)
一同揃って魂の抜けた顔をしているが本当に大丈夫なのだろうか? なんか普通に色々と心配になってくるぜ…。
しかし、彼達は一人の男として――色々未経験で経験不足の僕よりは段違いのステージ上に位置どる精鋭達だ。いかに酔いどれ風で信用できない
つまりだな、
「それで聞きたいのは作法というか、ハウツーないろはというか。或いはA to Zと言えば良いのか? 流通する市販の映像教材では分からない…実地に基づいた生の声を聞きたいんだ!」
巷で入手化膿な映像教材の八割は虚構だと聞くし、一般的な男女のアレコレを知りたいのだ。だって、アレだろ? 時間停止とか透明人間とかの大体はヤラセなんだろ?
しかし、それにしても『一般』を求めるなんて僕も変わったものであると自嘲的に笑いたい気分ですね。
「いやちょっと待て…セックス? 或いはジェンダー的な意味の?」
軽い頭を重たく抱えた仕草の真司が見せる意味不明な言。
何言ってんだよ、勿論違うよ。僕ごときがジェンダー論を吹っ掛ける訳が無いだろ?
「ジェンダーじゃなくてプレイ的な意味だ。夜のプロレスと言い換えても良い」
「靴下じゃなくて?」
「それはソックス」
くだらない大喜利やってんじゃねぇんだぞ。
全くアホな会話ばかりで一向に話が進まない。
そんな現状に少し苛立ちを感じ始めたが、先日自身を語った潤だけはまともな発言を行った。
「そういう所まで発展したんだね」
「そうなんだよ。実はさ――」
役に立たないドラマーとベーシストは放っておいて聡明なギタリストに現状を説明する。彼に今夜もしかしたらそういう感じになるかも知れないことを明らかにした。
「それでさ、皆はどういう感じでそれをおっ始めるの? 親しい女性に対して安直に『やろうぜ!』って直接的に誘うの?」
潔く開戦の宣誓をしてからお互いを弄り合うのか? だとすれば、ガチでスポーツ感覚が凄まじいことになるけれど…。
ヒントが欲しいと罰の悪そうに鼻の頭に触れる真司を見る。彼は少し呻いた後に性行為のいろはを声に出した。
「そりゃあそういう時もある…けど、大体は流れじゃねぇかな? ムードというか雰囲気というか。その場の空気でなんとなくだな」
「ふむふむ…真司の場合は主体性を持たずに流されるがまま女を抱く訳なのか…」
言い方を考えろと喚く真司から得られた貴重な意見を取り込みつつ、隣のミニマリストに話を伺う。先に聞く限り彼は僕にとって理想的な男女の付き合い方をしているので大変参考になるだろう。
「もうこの手の話題は口にしない。言っただろ?」
先日の第一回大会の際にそんなことを言っていたな。
自身の過去は話すのに現在は駄目なのかなと思わなくも無いが、まあ無理強いするのも良く無いし引き下がろう。
さて、残る一人はと言えば優雅にチーズとワインを嗜む当バンドイチの色男である田中悠一君。
僕の少ない交友関係において稀代のモテ男ではあるのだが、僕的にいまいち気が進まない。だって経験豊富過ぎて参考にならなさそうじゃん!
彼は口内で安物のインポートワインを遊ばせた後に、こくんと喉を鳴らして微笑んだ。
「さて…前回同様、親友の悩みの最後を飾るのはやっぱり俺をおいて他に無いよな」
「頼むから一般的な奴にしてくれよ? あんまり高度で深淵なのは困るからな?」
はてさてと首を鳴らす男前はどうにも信用出来ない感じだ。
フリじゃないからな? マジでポピュラーな奴をお願いしますよ?
一抹の不安を抱えつつも彼の言葉を待つ。
経験豊富な相棒が紡ぐ物語が、世間一般においてアブノーマルなもので無ければ良いことを祈るばかりだ。
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