#99 Secret Betrayal(密やかな裏切り)
今世紀最大に浮かれる僕のポケットから哀しげな旋律の名曲が流れ出したのは彼女の家を出てすぐのことだった。
鳴り響くこのゲームミュージックが鳴動している時点で相手は一人なんだが、出なければ駄目だろうか?
僕としては一秒でも長く、ようやく手に入れた幸福の醸し出す甘い余韻の中で暮らしたいんだけど……。
しかし、この狙った様なタイミングは先程の彩乃さんを想起させるし、何なら彼女が手を回した可能性すら普通に考えられる。
とすると、僕は既に追い詰められていると考えるのが無難だろう。
結論、出るしかないかなぁ…。
「もしもし? 何よ…」
『やったなアラタ! 聞いたぜおい。新山さんと付き合うんだろ?』
夜だと言うのに大きな声で幼馴染の色男は祝福の電話をかけてきたという訳だ。
しかし、『聞いた』という発言からソースは一人しかいないのも判明した。彼の行動の裏にはやっぱり彼女の息がかかっていたということだ。
「ああ、まあ何とかな。お前にもかなり助けられた。ありがとう」
『どうした? いつになく素直だな相棒。気にすんな。お前の足りない所を埋めるのがバディってもんだ』
うわ格好いい。何そのセリフ、ちょっと男前過ぎない?
けれどその理屈で行けば、僕は完璧超人の足りない所を埋めなきゃいけなくなるけど大丈夫か? 僕なんかに務まるのか? そもそも悠一に欠けてる所とかあるのか?
親友の考えさせられる発言で多少落ち込む僕に彼は一つのお誘いをしてきた。
『それでさ、今何処? バーで飲んでんだけどアラタも来ないか? 初の恋愛成就…その祝勝会と行こうぜ』
「え…? ん〜ああ…どうしようかな…」
大変嬉しいお誘いではあるのだが、今尚身体を蝕む昨日のヤケ酒の可処分所得があるからな…。余り酒を飲む気分でも無いっていうのが現状だ。お酒は飲んでも飲まれちゃいけないからな。
『そんで…二人の話を聞かせてくれよ』
それは渋る僕をいとも簡単に心変わりさせる魔法の言葉。単純な僕は意趣返し的に、惚気けさせて貰おうかなという気分になってきた。
「オーケー了解。行くよ。てかそっちこそ何処にいるんだ? いつもみたく『カンナバーロ』か?」
『いや、多分アラタは知らない店だ。GPS情報送るから着いたらまた連絡してくれ』
了承し、通話終了。程なくして親友の現在地を示すメールが届く。確認してみると存外近いらしい。これなら地図が無くとも行けそうだ。
目的地を馴染み深い実家から名も知らぬバーへと変更した僕の脚は相変わらず羽根のように軽く、くるくると回る。
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