#91 Answer Song(僕の返答)
【The Hammer Heads】
それは
バンド名をそのまま流用しただけの実に捻りの無いタイトルは、全八曲入りでフルともミニとも言えないどっちつかずとも言える容量のアルバム。
定義は曖昧でも、当時の僕達は全力で挑んだし――幸いにも周りのスタッフに恵まれた結果――
そう言えば、モヒカン青年がアルバイトする外資系レコードショップに置かせて貰える程度にはセールスを上げた作品。
「そう、そのアルバムです。普段は行かないCD屋で姉は偶然にもその一枚に――より詳しく言うなら、その中の一曲に心を奪われたのです」
僕の想い人の妹が言うには、前述のレコードストアの『地元バンド特集!』みたいなコーナーでポップについた――画素数のイマイチな、ガラケーで撮影したような画質の写真を見かけたのがそもそものキッカケらしい。
「その時の、姉の姿は良く覚えています。かつて無いテンションで私に電話をかけてきましたからね」
と言うのがその妹の談。
特設コーナーに飾られた写りの悪い写真の真ん中に立つ二人の男に見覚えがあったのだと言う。
「その後は凄まじいものがありました。勿論CDを購入して帰ったらしいのですが…自宅のパソコンを駆使して公式サイトをブックマークして、SNSもすぐさまフォローしたと言っていました」
「マジかよ。アプローチが現代っぽいだけで普通に熱心なファンじゃないか…」
個人的な下心とか恋心とかは除いて、何と言っても純粋に感謝だ。
というのも、そういう行動を起こしたのは彼女だけで無く、名も知らぬ大勢の方々の支えとか助力があってのメジャーデビューなのだから。
これはマジでモチベーション上がらないとか言ってる場合じゃないよな。改めて背負っているものや支えてくれているものの大きさと重さを感じる。
彼女を含めた
「その後はずっと活動を追い掛けていたみたいですよ? ライブには行ったことないらしいですが…」
「ああ…彼女には、それが正解だな」
僕達のライヴに来てくれるファンの六割位は男性だ。彼女の性質でそういった場に行くのは余りオススメ出来ない。
昔からの熱心なファンの妹は上品に紅茶を啜り、締めの話題に入る。
「そうして年月は微妙に流れて五日前、貴方に――ちゃんと、お目にかかったのです。そして、今や告白されるまでの関係に至った姉の心境はもう…今更言葉にするまでもありませんね?」
「いやでも、そうは言っても。それでも断られたけどね…」
確かにそこまでを知っていた彩乃さんの立場からすれば、些か予想外の結末になったと考えても不思議は無い。
そして、僕はどう行動すべきか…答えは固まりつつある。
オレンジジュースを飲み干して決意の程を目の前に座る女性に伝えた。
「だから、僕は身を引くよ。そして、これから家に帰って…すぐに東京へ向かうことにする。お姉さんには――申し訳無いけど、君の方から宜しく伝えて欲しい」
「はあっ?」
これが君から話を聞いた上で僕が出した結論。
どう行動するかは僕の自由のはずだろ?
驚愕の表情を浮かべる彼女に僕はそう言った。
自由に採択して、そう述べた。
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