#25.5 Adolescent Love(青い愛)
前回までのあらすじ。
卓に着いた四人の男女から二人離席したよ。
小学生の算数みたいな計算だ。
さて、残りは何人かな?
――って、いやいや!
いやいやいやいや…マジでどうしよう? さんすうのおべんきょうなんて心底どうでも良いくて小数点以下の些事だろ! 小数点の概念すら理解出来ない義務教育課程の幼き良い子はさっさと帰れ! 歯磨いて寝れ! ここからは数字を概念として扱う大人の時間だろっ!
振り回されるばかりで主体無く流さ続けた僕はここに来て、ここまで追い詰められて初めて――極限までに困り果て、例年以上に混乱して、かつてないほどに退行せんばかりに錯乱している。
そりゃあ現実的に食事を平らげた後の飲食店に永劫居座ることは常識的に選択出来ない。うん仕方無い。まあいいだろう。
常識的かつ道徳的な判断故に離席し、カフェもどきの飲食店から退店をすることになる。食ったら出る。そんなの色々と当たり前だ。
だが、その結果こうなると誰に予測出来たか、否何人にも出来なかったはずだ。不可能だ。不可避だ。
なんなら、むしろそうであって欲しいものです。
にしてもまさか、気軽な気持ちでここに存在する僕は、初対面の根暗が二人取り残されるなんて夢にも思っていなかった。
面識のない男女が早々に楽しくお喋り出来て、愉快でお洒落な時間を過ごすことが出来るなんて有り得ない! そんなの都市伝説めいた空虚な妄想だろ! 少なくとも僕には縁もゆかりも無い大事件だろうが!
故にそれは未体験者の僕にとっては夢物語と相違無い。妄言とすら言えない完全なるフィクションだ。以上証明終了。完全なるQED。あるいはAET…恐らく無関係の単語だな、うん。
などと右往左往する脳味噌を総動員しながら情けなく、救いを求めて嘆いた所で敷き詰められた現実は決して覆されることがなく、右から左に極めて滑らかに滞りなくスクロール。世界の時計の針を止めるには電池を抜くしか無いのだろうか?
一目惚れに狂う僕にとっては願ったり叶ったりな理想的状況に近いとは言え、降って湧いた幸運を素直に享受出来ないのは僕の狭量かつ劣等な感性故なのか、それともただ単に言い訳がましい臆病者で小市民なだけか?
そんなの証明出来る訳ないよ。
でも恐らくそれは両者を含んだマーブル模様のコイン的な事由から構成される故なのだろうけど、その現象の付加価値を事象的な概論と位相による結果だけで語れば、そこに明瞭な差異はなく概ね同質であり普遍性と伴った蓋然だ。
なんて意味不明な泣き言を積み重ねるだけで、一歩たりとも歩を進めない僕を見かねたのか――僕のツルツル頭の奥の方――僕の中に住んでいる
【相も変わらず女々しい言い訳ばかりで満足か? 欲しいものを欲しいと言えない、最悪の不自由の果てにクソみたいな不幸を背負うのか?】
もっともだ。もちろん、そんなの御免だ。
なんせ僕は絶対的な『解答』を求めてやまないのだから。ここで倒れる訳にはいかない。道半ばにも程があるよ。
【冷静になれ。世間が必要としているのはお前の声と歌だけだ。それ以外の要素は僕で無くとも構わないし変わらない】
空虚かつ知った風な強い刃で主人格を非難するのは、偏った客観視を持った観察者気取りの
そう言い張る心の奥底で、本能的な部分がそれを享受しているのだとしても、口先だけでも僕は頑として認めない。
それならそれも良いさ。セラヴィ。レット・イット・ビー。ケセラセラ。それが
やがて騒ぎを聞きつけた他の
「それよりセックスしようぜ。あのでかい胸、ケツ! たまんねぇ!」「何でもいいけど、早く曲作れよ。この休暇で一曲書かなきゃいけない」「そもそも童貞に何とかなるレベルの女なのか? なんつーか凄く攻略難易度高そうだ」「ギャルゲーですらwiki無しではバッドエンド直行だね」「その…学校で噂とかされると恥ずかしいし」「どうせ上手く行ってもろくでもない日本経済の煽りを受けるから意味無いだろ」「僕はあの指にどうかされたいよ」「どうでもいい。自分以外は全部他人だ」「ぷるぷるの唇が一番だね。吸い付きたい」「線香花火って綺麗だよな」「音楽は無価値の芸術だ」「てか帰りたい。漫画読みたいゲームしたい」「大音量で叫ぶのがお前の罪だ」「酒飲みたい煙草吸いたい」「彗星は堕ちて燃えるだけ」「ユメを見れるだけ幸せだ」「どうせ女なんて皆ろくでもない」「彼方も此方も架空の空だ」「あるいは可能性があるのかも」「それは絶対に叶わないし、成就しない」「人魚姫の泡や明石の御方に等しい感情だよ」「賢者は無能だ」「大願叶った末に宇宙崩壊とかにきっとなる」「お前は決して特別じゃない」「お前もロックスターなら女の一人や二人、豪快に抱け! そして酒池肉林じゃ!」「てか前提、僕はロックスターなのか? モテないギターボーカルはスターなのか?」「暗い曲と捻くれた歌詞じゃあ違うだろ」「恋詩ならばポップスターか?」「悠一に聞いてみろよ」「佐奈さんでも良いかもな」「駄洒落ラップでヨーヨーやらされるぞ」「てか腹減らね? 食い足りねぇ」「女子は少食なんて幻想だ」「はいはい全部虚構だ」「どうせ失敗する。断言する」
纏まりと協調性に欠ける、僕の散らかって一貫性の欠如した人間性を象徴するみたいな形の散文的で自己本位な自分会議。
されど欠片も進まない不毛な対話は留まらず、気狂いみたいな無価値な舞踏をエンドレス。
結果、具体的かつ有益な結論の影も形も見えない、一向に進展しない無意味の堆積。
ということで強行採決!
まずは現状確認。
僕が立っているココは、僕の荒野みたいな人生におけるホットな鉄火場であり、これから
僕はこれからその不器用な手練手管を持って、彼女に想いを伝え、その果てに――その果てに?
その果てに僕は彼女とどうなりたい?
告白して、オッケーされたい?
そうして仲を深めて行って…手を繋いで、抱き締めて、キスをして。
挙句その先に進んで、動物の様に互いの身体を求めあって重ねたりして。
体液を混ぜ合わせて、彼女と二人で創り上げる快楽に身を浸す生活を送ることになればそこが終着で、僕の求めた結びとなりうるものなのか?
違う!
それは僕が否定した世界に氾濫するありふれた形だけの偽物で、それらしいだけの贋作じゃないのか?
うるせえ!
取り敢えずの皮算用なんか要らない。そんなの掌に入った後で考えることだ。今は進め。立って歩け!
生憎、小柄な錬金術師みたく鋼の脚は持ち合わせて無いが、彼女に伝えたい全てがある。それだけで十二分なはずだ。
「あっ! あ…のさ……」
ここまでの散らかった思考に要した時間は一秒足らず。驚きと乖離が産んだ歪みのジャネー。
香ばしい空気に包まれた飲食店を出た店先で、親友に置いて行かれた僕は、同じく連れ合いに取り残された彼女に有らん限りの勇気を、最後の一滴まで振り絞りながらコトバを掛ける。
僕の投げ掛けた不格好な呼びかけに反応してその女性的な魅力に膨らんだ身体はこちらを向いてくれたが――華奢な首から上――その下方向に固定された目線を含んだ頭は少し僕から逸れている。それらを僕に向かせるのが、第一の目標かな?
「その…新山さん、さえ良ければ…その、あの。うん。あー、何ていうのかな」
死に体ながらも身振り手振りを交えながら、決死に言葉を紡ぐ僕の姿は恐らく不格好で滑稽で、失笑ものであったと思う。不器用過ぎて失う笑いすら起こらないのかも知れない。
それでもレベルゼロの僕は懸命に話す他に術を持たない。
スマートさが絶無で死ぬ程格好悪い。大丈夫気にすんな、十年経てば笑い話になるし、百年後には誰も知らねぇよ!
「だから! そのさ。もし良かったら、その。悠一と妹さんが合流するまでの間、お暇なのであれば――」
僕と一緒に行きませんか?
やっとの思いで絞り出して紡ぎ出した
そのたった一言を告げる為に僕が振り絞って使ったエネルギー。
きっとそれこそが恋の魔法で、何よりも掛け替えの無い
とかだと素敵で良いなあ~。
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