第36話 さあ山へお帰り

 脚を集中的に攻撃していくベリサリウスにサイクロプスは抵抗するも、硬い脛当ては彼の前では役に立たず、拳を振るっても、脚で蹴り上げても、ベリサリウスに躱されてしまう。

 遂にはサイクロプスは立っていられなくなり膝をつく。


「人の勇者よ。不敬は詫びる」


 な、何とサイクロプスが喋った!


「お主、会話出来るのか」


 ベリサリウスはサイクロプスの声を聞くと攻撃の手を止める。


「山へ戻り、こちらへは来ないようにする、それで手を引いてくれまいか?」


「ふむ。私としてはそれで構わん。山とはハーピーが住む山か?」


「よく知っておるな。その山だ」


「ならば約束してくれんか? ハーピーを襲わず、デュラハンが出れば討伐すると」


「人の勇者よ。そなたはハーピーと友垣を結んでいるのか?」


「ふむ。見せよう。ティン! プロコピウス! こちらへ来るがよい」


 ベリサリウスが俺たちを呼ぶので、俺とティンは恐る恐る彼の元へ向かう。


「ほう。ハーピーか。なるほど。了解した。約束は守る」


 サイクロプスはハーピーのティンを見て納得した様子だ。しかし、俺を見ると視線が俺に固定される。


「お主......何者だ? 人の勇者は太陽の加護を受けておる。其れに相応しい勇者たった。しかし、お主は......」


「サイクロプス。見えるのか精霊が」


 俺の問にサイクロプスは答える。


「うむ。人の勇者とお主、面白い。何かあれば頼って来るがよい。気が向けば手を貸そうではないか」


 サイクロプスは愉快愉快と言った風に笑い声をあげる。


「ベリサリウス様、あの山にはリッチが居ます。手を出さぬようにいたしますか?」


 俺はベリサリウスに向きなおり、彼に問う。

 以前デュラハン退治を行った際に、ベリサリウスはリッチに罪は無いと放置したんだ。


「うむ。そうだな、プロコピウス。お前は実に気が回る、サイクロプスよ。山に住むリッチにも手出し無用で頼む」


「分かった。本当に面白い奴らだな」


 ハハハと大きな笑い声を上げたサイクロプスは、傷口を気にした様子も無く山の方向に歩いて行ってしまった。


「サイクロプスは喋るんですね......」


「そうみたいだな。少し驚いたわ」


 俺の呟きにベリサリウスは豪快な笑い声をあげている。豪胆にも程があるだろー!

 サイクロプスは約束を守ってくれるんだろうか。恐らく言われた通りにしてくれると思うけど、万が一の時にはベリサリウスが倒してくれるだろう。

 先程の闘いを見て俺は、彼ならば討伐可能と確信したから......全く規格外過ぎるよ。この人。


「プロコピウス、ティン。先程の冒険者のところへ戻るか」


「はい!」

「了解しました!」



◇◇◇◇◇



「......というわけでサイクロプスは去った」


 俺はガイア達四人の冒険者に経緯を説明したが、彼らは信じられない様子で目を見開いていた。事実彼らもサイクロプスが去って行く姿は見えているのだけど、人が己自身のみで災害級のモンスターを退けた事が未だ飲み込めないんだろう。

 俺だってベリサリウスが初めて退けたモンスターがサイクロプスなら、同じ様に飲み込めなかったかもしれない。しかし、今更彼の事で驚愕する事はあっても、彼だからなあと納得出来るようになっている。


「べ、ベリサリウスさん、あんた英雄か!」


「英雄?」


 ガイアの言葉にベリサリウスでは無く俺が応じる。


「あ、ああ。冒険者の最高峰トリプルクラウンを超えると言われる伝説の存在......それが英雄だぜ」


「トリプルクラウンが何の事か分からないが、まあベリサリウス様の武技に追随出来る者はいないだろう」


「トリプルクラウンの冒険者パーティならば、先程のサイクロプスでさえ退ける事が出来るかもしれない......しかし、あのお人は一人だぞ!」


「まあ、今更だそれは。ともかくティモタを引き取ろう。その為に戻って来たんだ」


「あ、ああ。ティモタ、行くのか?」


 ガイアがエルフのティモタに目をやると彼は決意を込めた顔で神妙に頷く。


「ティモタ、先に言っておく。我々の友人には多数の亜人がいる。それでも構わないんだな?」


「はい。その覚悟です」


 俺の言葉に即答するティモタ。何が彼をそこまでさせるのか。太陽と月両方の加護ってそこまでのものなのか?

 俺は興味も命あってのものだと思うけどね。


「ガイア、一つ頼みがあるんだが聞いてくれるか? 報酬は準備出来るものならしよう」


「ん。何だ? 金は持ってるのか?」


「いや、そうだな。貴金属が無いか探しておく。無ければ......鉄くらいしかないな」


「鉄か......ベリサリウスさんが持っているような長剣なら報酬として悪くないな」


「なるほど。長剣か準備できるよう動く」


「貴金属でも長剣でもどっちでもいいぜ。んで、依頼って何だ?」


「ああ、ガイア達は街へ戻るんだろう? 酒場や冒険者の噂を集めてくれないか?」


「だいたい理解したぜ。ベリサリウスさんの噂があればさぐってこいってことだな」


「察しが良くて助かるよ」


 ガイア達は信頼できるかまだ分からないけど、ティモタがこちらに来るのだから、他の見知らぬ冒険者に頼むよりはマシだと思う。だから彼らにベリサリウスのことが、街で噂になっているか探ってもらうよう依頼したんだ。

 何となくだけど、彼らは俺の依頼通りの動きをしてくれる気がしているんだ。報酬も具体的に求めて来たし。仕事として受けてくれてる。仕事ならばクライアントの要望に応え、彼らは報酬を得るって言っているんだろう。

 問題は彼らと取引する場所だな。


「場所はどうする?」


「飛龍で魔の森の外へ出ると目立つだろ?」


「ああ。そうだな。まずは七日後、噂を届けに魔の森へ来るか」


「なら、時刻は昼頃。目印になるようなものはあるか?」


「オルテガに魔法を空に打ち上げてもらうか。それで分かるだろ?」


「いい方法だな。それで頼む」


 日時が決まっていれば、信号弾代わりの魔法を打ち上げてくれればハーピーの誰かが発見できるだろう。さてサイクロプス討伐が吉と出るか凶と出るか。

 ハーピー達の監視はもちろん継続し、街の声はガイア達に届けてもらって人間たちの動きを少しでも把握できればいいな。


 帰りはティモタを飛龍に乗せるから、ティンには空を飛んでついて来てもらった。まあ。今回も棒立ちしているだけで終わったからよかったよ! そのうち敵が二体いたりしたら、「今度は一人ずつやろう。プロコピウス」とかベリサリウスに言われるとまずいな......

 俺もこっそり剣や弓を握ってみるか。しかし、触ったこともない俺が多少武器を振ったところで何の効果も無さそうなところが悲しい。



◇◇◇◇◇



 ローマに戻ると、作業は順調に進んでいるようで何よりだった。懸念材料だった道具も配られはじめ、台車なども増産していかれることだろう。ベリサリウスが小鬼の村長へ報告へ行ったので、 俺はティンにティモテをローマについて案内するように頼み、ほっと一息をつく。


 俺は気になっていたマッスルブ達の作業を見に行くと、小鬼の村民とマッスルブ達が石灰岩、粘土、大型の金づちなどを準備してくれていて、俺が来るのを待っていたそうだ。

 おお、実験用の道具が全て揃っているとは......さっそくセメント作成を試してみようじゃないか!

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