第34話 また討伐っすか?

――翌朝

 同時作業が増えてきたが、俺は基本指示を出しているだけだから、今のところ特に問題はない。レンガと道具作成は小鬼に任せておけば問題ないだろう。俺はモルタルとアスファルトの実験をやりつつ、畑の様子を見に行こうと思う。

 道具が整えば、本格的に工事が始まる。全て同時作業になるが、まあ期限は無いから確実にこなしていこう。しかし、大規模な工事をしていくには素材の入手元へ道を拓きたいところだな。

 どちらにしろ木材は必要なんだし、鉱山、石材、粘土、アスファルトの入手場所へ舗装した道ができればなあ。


 そんなわけで、現状運搬がどれほどのものなのか小鬼の村長に聞きに行くことにした。


「村長、鉄などの運搬に台車を使っているんですよね?」


「ええ。そうですぞ。道具は続々と準備が進んでおりますぞ。明日にでもできた分から配っていけます」


「おお、もうそこまで進んでるんですか。道が無くても台車が使えるもんなんですか?」


「一応、草を刈る程度はしておりますぞ。いくら森林といっても木が密集してばかりではないですからな」


「なるほど。現状でも台車は使えるんですね。いや、鉄鉱石や粘土を運ぶのに道があればと思いまして」


「そうですな! 道があれば相当効率がよくなるでしょうな」


「あと、台車の車軸を鉄に出来れば台車が長持ちしそうですね。いずれは......ですけど」


「夢が広がりますなー。明日から粘土も堀り始めましょう。例のモルタルでしたか? 小鬼の者を何名か送ります」


「助かります。今日も頑張りましょう!」


「そうですな!」


 明日からレンガ作成が始まるのか。いよいよ街造りスタートってわけか。少しテンションが上がってきたぞ!

 完全内政モードに入っていた俺に水を差す輩がやって来た......そう。ベリサリウスだ。



 俺はベリサリウスに呼び出されたので彼の元まで来ると、彼は「よく来た」と俺を労ってくれた。


「御用でしょうか? ベリサリウス様」


「ああ、一つ目巨人が出たと聞いたのだ」


「どの辺りなのですか?」


「うむ。ハーピーが言うには旧小鬼村より南方。魔の森の切れ目と近い場所だと聞く」


「冒険者と会うかもしれませんね。放っておいてもよいのでは?」


「ふむ。それでもよいかと思ったのだが、私が他に手が取られている時にどこかの集落へ襲い掛かってこられるとな」


「なるほど。その一つ目巨人なるモンスターはそれほど強いのですね」


「そう言うことだ。まあ、冒険者が討伐してしまっているのならそれでもよい。私たちは楽が出来るからな」


「了解しました」


 ここはベリサリウスと一緒に確認しておいたほうがいいだろう。ティンと飛龍に乗ったロロロに加え昨日からハーピーも空からの監視を行っているが、冒険者達の行動範囲は限られている。

 彼らは魔の森で野営することはほぼない。一部腕に自信のある者や向こう見ずな者が野営をすることがあるが例外だ。

 だからサイクロプスの位置が魔の森の外から日帰り出来る距離ならば、冒険者に発見されていて討伐に向かっている可能性が高い。しかしベリサリウスはそれでも構わない討伐しよう、と言っている。


 冒険者に討伐が見られたとすれば、噂が人間の街まで届くだろう。そうなれば冒険者側から何等かの接触があると思う。友好的ならいいが......


「ベリサリウス様、先ほど強いと聞きましたが、一つ目巨人はどれほどのモンスターか聞いていますか?」


「ああ。ヒュドラ程度らしい」


 災害級かよ! これは倒すと必ず話題になる。


「そうなるとベリサリウス様、もし我々が討伐し、冒険者に見られた場合、彼らの間で噂になりますよ」


「ふむ。プロコピウスの考えを言ってみよ」


「もし大きな噂になった場合ですが、人間の街で何等かの反応があると思います。最悪我々を危険分子と判断し仕掛けて来る可能性もあります」


「そうだな」


「もう一つ、好印象を得た場合、冒険者と多少交流できるかもしれません。その場合、人間の持つ道具や植物の種などの物資が入手できるかもしれないです。上手くいけば人材まで来るかもしれません」


「確かに、そうなればローマの発展に寄与しよう」


「その通りです。上手く転べば利益は大きいと判断します。しかし、仕掛けて来るような事態になった場合ローマはまだ建設し始めたばかり......」


 俺はそこで言葉を切る。冒険者の噂になることで戦争を仕掛けてくるような連中ならば、いずれ仕掛けてくるだろう。結局ここで噂になろうがなるまいが、戦争になり人命は失われる。

 確かにこちらの準備が整っていることが望ましいが、俺の目の前に居るのは誰だ?

 彼が準備不足程度でどうこうなるような人なのか?


 否。


 ベリサリウスを敗れるものなど、居ない。俺はそう信じている。


「しかしベリサリウス様なら、例え人間が挑んで来たとしても鎧袖一触でしょう」


「ははは! プロコピウス。相変わらず豪胆よの。私だけではない。お前が居るならば万の戦士にも勝る!」


「私など......」


 俺はこれほどの英雄に褒められ顔が熱くなる。そこまでの働きを俺はして来たのだろうか......

 ベリサリウスは俺の表情を見て大笑いすると口を開く。


「では、ティンを連れて飛龍まで来るがいい。行くぞ、プロコピウス」


 え、やっぱり俺も行くの? 気が進まないんですが......ベリサリウス一人でいいよね。あ! そういうことか。冒険者がいた場合の折衝役か。



◇◇◇◇◇



 ベリサリウスとティンと共に飛龍に乗ると、南へ舵を切る。飛龍はベリサリウスが操り、俺がその後ろにしがみつき、俺の肩の上にはティンが乗っかっているいつものスタイルだ。

 

 旧小鬼の集落を過ぎる頃、遠目で巨大な人型を確認することが出来た。森の高い木々の合間からでもその姿が確認できるほどの巨体だ。これは体長二十メートルを超えるだろう。ヒュドラと同程度のモンスターと聞いていたが、サイズまでヒュドラ並とは......

 

「ベリサリウス様。あの人型の巨体でしょうね」


「うむ。あれに違いない」


「ヒュドラより背が高そうです! でもベリサリウス様とピウス様なら! きっと!」


「ははは。ティンよ。任せておくがいい。プロコピウスよ。近くに飛龍で降りるぞ」


「飛龍から攻撃しないんですか?」


「ああ。この前のデュラハンが手ごたえ無さ過ぎてな。今回は我が身のみで挑む」


 ベリサリウスがわざとハードルを上げて来るのに俺は開いた口が塞がらない。飛龍を使って空中から攻撃しても勝てるのか分からないのに......空中からの加速を使わず倒すとか言ってる。


「プロコピウス。お前もやりたくてウズウズしているところすまないが、私一人で行かせてくれ」


「了解しました。ご武運を」


 ここで、不安視するようなことは俺もティンも言わない。ベリサリウスの身を案じることもしない。無茶を彼が言っているのは分かってるが、彼なら平然とあのビルのような巨体を倒してしまうんじゃないかと、自然とそう感じてしまう何かが彼にはあるんだ。

 これこそ将軍ベリサリウスの凄さなんだろう。勝利の予感を配下に感じさせるんだ。無駄にハードルをあげるところは玉に瑕だが、彼がやると言うからにはやってのけるだろう。


 飛龍で一つ目巨人から少し離れた場所へ降下し、まずは周辺に危険がないか索敵していると、見知った顔を発見した。

 以前拘束した例の冒険者達だ......これは事情が聞けるかもしれないぞ。

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