お見合いデスゲーム(終)


「もう、はずれなさいよ!!」


 クリスが去って数刻。桜子が僕を拘束しているものをはずそうと奮闘しているが、全くはずれる気配がない。それに、今蹴っているのは拘束具ではなく僕の足だ。


「パスワード……何かヒントがないですか?」

「さすがに紙に書き残すという古風な方には見えなかったのだけれど……」


 背後では、PCと格闘している香美乃と菜夕。どうも先程クリスが破壊したタブレットが操作端末だったようだが、母艦はPCに違いないからだ。

 その3人は動けるのだからクリスを追うことは可能。だが、恐らく彼女らが追っても無駄……動くべきは僕しかいないのに……!


 横を見れば、先程まで透過していた窓がまたミラーに戻っていて、僕の涙と鼻水を浮かべた酷い顔が映っている。こんな顔をクリスが見たらなんと言うだろうか。『ただでさえ酷いお顔でしたのに、磨きがかかっていますね。どうか次は、逆方向に磨いていただきたいものです』……こんなところだろうか。

 思えば、こんなセリフが想像出来てしまうほど、僕はクリスと一緒にいたんだよな。その結果が、クリスにあんなことを言わせるもの……。僕はいったい、何を見てきたんだ? 彼女のそんな素振りなんて見たことはないが、クリスは隠すタイプだろうな……。


 何より悪いのが、僕が何も言葉を返せなかったことだ。ありえないだろ……女性経験が薄い、というだけじゃなんの言い訳にもならない。だけど僕は、いったいなんと返せばよかったんだろう……?


「香美乃! あたし達に配られたこのタブレットを、壊れたタブレットの代わりに出来ないの!?」

「分かりませんが、やってみるです!」


 パスワードが分からなかったんだろう、香美乃は対戦相手をPCからタブレットへ変更する。もっとも、普段動画制作でPCの操作に慣れているとはいえ、知識のベクトルが違うはず……これを解除するのは難しいだろうな……。


「……解除するのは難しい……?」


 なら僕は、いったいどうやったら解放される? クリスは言った……明日まで通報するなと。であれば、少なくとも今日には解放されるようになっているということだ。そうでないと、僕は通報することすら出来ない。自動で解除される仕組みなのか? それとも、後で使用人達がここに来るよう段取りをしてあるのだろうか? いや、それならさっきまで給仕係だった使用人達がすぐここに来ればいいだけで……。


「……なあ、皆。給仕係、見ていないか?」

「そういえば、フルーツとデザートをいただいて以降、見ていないのだけれど。コーヒーはクリスさんからいただきましたし。私、最後のプチフールを楽しみにしていたのに……」


 プチフールは、11品目あるフルコースの最後に出る小さな洋菓子で、一口サイズのケーキ等だ。甘いもの好きの菜夕らしい発言だ……が……?


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「!?」


 それを聞いて、思わず出た大きな声。3人ともこちらを振り向いた。


「今回のゲーム、フルコースに沿ってゲームは進行……11品目を5つの行動指示の中では制覇出来ないから、1ターンに2品目出すことで解決しようとした……。けど、結局9品目目のデザートまでで、10品目目のコーヒーは思考タイムで出された……。

 ここまでやっておいて、最後のプチフールを出さないなんてありえるのか……!?」


 いつもは頭で考えることが多いが、今は口から出て止まらない。クリスが消えて焦っているということもあるんだが、これは、


「あたしはクリスがどんな人か知らないけど、もしうちの使用人が、そんな中途半端なことしたら即刻クビだわね!」

「コースによってはコーヒーで終わったり、コーヒーと洋菓子がセットで出てきて終わったり、というものもあるので、一概には言えないと思うのだけれど。でも、変だと思います」

「私も少し変だなとも思うです。調べた以上のことが言えなくて申し訳ないのですが……」


3人の意見も聞きたいと思ったからだ。……頭で考えることが多いとは言いつつ、なんだかんだクリスと相談することも多かったからな……。

 桜子、菜夕、香美乃の話。確たるものはないもが、やはり同じ意見か。



 ならばもう……彼女らを……そして、クリスを信じるしかない。



「クリィィース! ゲームは終わりだああぁー!! 最後の料理を持ってきてくれええええぇーー!!」


 だから、叫んでやった。轟く、なんて言葉じゃ足りない。車を数十個組み合わせる程の声で。どこにいたってクリスに届き、君を逃がさないぞという思いを込めて。



「……それくらい、ご自身で用意されたらいかがですか?」


 聞こえた。返答が聞こえた。

 それは僕の叫びに反して、あまりに近い所から。


「クリス!」


 ミラーに戻っていた窓。再度透過状態に戻れば、クリスが僕を一点に見ているではないか。クリスは去ったと見せかけて、単に隣の部屋に移動しただけということ。そしてその手には、僕、菜夕、桜子、香美乃、そして明樹斗用と思われる、5つのプチフールがあった。


「お持ちしましたよ、飛鳥。……やはり、気付かれましたね。さすがと言っておきますが、上辺で言っているだけです」


 上辺だけ……ね。なら、いつも無表情なお前が笑顔なのはなんでだよ。


「ありがとう」

「いただきます」

「ありがとうございますです!」


 見合い相手達はそれを受け取ると、クリスと入れ替わる形で元の丸テーブルに戻った。

 クリスは、明樹斗の分まで机に置き終えると、僕を見る。


「……これはあれかな、クリス。先日僕が明樹斗とやりあった時、血のりの件を隠していたこと……その意趣返しかな」

「バレましたか。あれは本当に傷付きましたからね」

「やはり……か。まだ誰も、裏切り者特定ゲームの終了宣言をしていないから、君は裏切り者を演じ続けた……さっきの言動は全て嘘だ」


 クリスは無言で頷く。お互い言葉少なくだったが、迎えの挨拶はこれで充分だ。


「なら、明樹斗もなんともないんだな」

「ええ。あれは天海家の男特有のチキンっぷりが遺憾なく発揮された結果です。

 例えば目隠しされた人に、『これは数百度に熱された鉄製の棒です』と告げてそれを当てると、実際にはただの木の棒にも関わらず熱いと感じることがあるそうです。私は最初にマネキンを黒こげにしましたが、あれも演出です。マネキンに仕掛けがあるだけ。ですがあれを見れば、明樹斗が座っている椅子も強力な電気椅子だと思い込み……実際に痛いと思う程度の電流を流してやれば、あのザマというわけです」


 ということは、明樹斗もしばらくすれば目を覚ますか……。床に伏した雛実の方がダメージは大きそうだが、まあ大丈夫だろう。


「さてクリス。そろそろこの拘束解いてくれないかな?」


 なんだか、あっさりと解決してしまった。一時は本当にクリスを失ったと思い、焦り死ぬかと思ったのにな。


「いえ、それはこの質問に答えていただいてからです」

「質問?」

「成宮菜夕。冴島桜子。影山香美乃。26名いた見合い相手、最終的に残ったのは3名です。飛鳥は、誰を選ぶのですか? 今日であれから2週間……お見合いの期限ですよ」

「あ」


 しまった。まだ焦り死にしかねない大問題が残っていたんだった……!


 僕がこんなことをしたのは、父から言われた、26人の見合い相手から1人の結婚相手を2週間で選べ、という無茶振りからだ。そうしてここまで来たが、ここからどうすればいいんだ……!? もうゲームは終わったし、そもそも今日決めないといけない!



 なんて考えていると、フルコースを終えた彼女らが、またこちらに来て、動けない僕を囲う。


「なんだか面白い話をしているのが聞こえたのだけれど」


 菜夕……。


 美人さで言えばこの3人の中でも……いや、26人の……それだけじゃない、国民全員の中でもトップクラスといえる。しかし性格は冷たくて曲がっている……かと思っていたが、言ってしまえばただの恥ずかしがり屋だった。そして先日のデートで、僕が菜夕だけを選んだと思っていたようで、OKの返事をくれそうだった……。


「ふふん? 大きなグループの跡取り同士っておっきな壁があるけど、その程度の困難、あたしとなら乗り越えられると思わない??」


 桜子……。


 トップクラスという言葉を使うなら、見た目の幼さがそれだ。18歳以上しかいないはずの見合い相手達の中に小学生が紛れたようだった。しかしそれゆえに見た目のかわいさもありつつ、色々と豪快ながら気品も兼ね揃えたすごい奴。今も言われてしまったが、僕に興味がないわけではなさそうだ。


「私だけ……普通の家庭で育っていて申し訳ないんですが……」


 香美乃……。


 誇るのは、そのあまりに大きな胸。いわゆるロリ巨乳と言われる見た目で、ドジっ子なんて属性も持っているな。最初こそ危なっかしかったが、大器晩成タイプか。この中じゃ、一緒にいて一番安心出来る空気を持っていると思う。今日は香美乃の自宅にお呼ばれしたから、僕を悪く思っているということはないはず……。



 ……選べない。選べるはずないだろ!?


 だいたい、なんで僕なんかに興味を持てた? お見合いデスゲームを主催しておいて何だが、そんなものを主催した僕を、訴えてもおかしくないだろ!? ……まあ、この3人はデスゲームでないことに気付いていたみたいだが……。けど、こんなバカみたいな企画を立てる奴をなんで……!

 いや、今は自分を卑下したって仕方ない……ここは真剣に選択しないと全員に失礼で……。


「ねぇ、悩んでいる所悪いんだけど……さらに悩ませそうなこと、言ってもいいかしらん?」


 ……本当に悪いぞ桜子、これ以上僕をどうしようと……。


「桜子ちゃん。もしかしたら、私も同じことを考えているかもしれないのだけれど」


 菜夕もか!? となると、まさか……。


「たぶん飛鳥さんも、いつもだったら気付けていたと思うことですが……」


 やっぱり香美乃も!!


「なら、言いだしっぺのあたしが代表して言わせてもらうわ! あなたは明樹斗を負かした時、クリスが全てのタブレット情報に対して裏切ったから、裏切り者だと分かったー……というようなことを言っていたわよね? けど……さっきって、どうだった?」


 桜子が一歩前に出て、投げかけた質問。


 さっきとは、どのさっきだ? この言い方だと、明樹斗との勝負の件じゃない……なら、その後……クリスが暴走した件か? あの時クリスは、明樹斗を殺したフリをしたり、あたかも僕が他の奴とくっつくのを嫌っているような態度を取ったりしたが……。


「あああ!?」


 そうだ、そうだそうだ……香美乃の言う通りだ……なぜ僕は気付けなかった!? いや、気付くはずがない……クリスにあんなことを言われている最中だぞ!?

 クリスがゲーム後に行った行動……僕はクリスが裏切り者としての行動を取ったと思ったが、あくまで裏切り者はタブレットに送信された情報に対して裏切るだけ……。だけどあの時クリスは、タブレットを破壊していたんだ……裏切るものなんて……嘘を吐く対象がないじゃないか!


「く、クリス!?」

「どうしましたか? アホ面さげて。何か困ったことでもありました? ……ああ、アホ面はいつものことでしたね。……まあ、知り合って私が、一番長いですし?」


 長いですし? ってなんだ!? そういえばクリスは、冷たい目のお嬢様で巨乳という、言うなればそっちの3人を合わせたような存在で……いや、だからなんだ!? 間を取ってクリスを選びます☆ なんて言えるわけないだろ!?


 右に桜子、左に香美乃。後ろには菜夕がいて、さらに正面にはクリス。ただでさえ拘束されているのに、これじゃあ本当に逃げ場がない! あ……香美乃は玄武っぽいし、桜子は朱雀……菜夕は青龍だろうな。なら、クリスは白虎で……。……なんて現実逃避している場合じゃないんだ!!


「飛鳥くん。期限は今日なのでしょう? ならば、潔く決めた方がいいと思うのだけれど。選ばれなくても、別に傷付きませんし?」


 なら、せっかく目を合わせてくれるようになったのに、逸らさないでくれ菜夕!


「飛鳥! もしあたしを選ばなかったら……天海グループと冴島グループの取引、なくなっちゃうかも?」


 このたった2週間の出来事で、他の全てを巻き込む脅しをするな桜子!


「飛鳥さん。選ばれたパターン、そうじゃないパターン……どっちの場合でも投稿する動画が決まりましたです……」


 どっちも少し興味があるじゃないか香美乃!


「飛鳥。私は飛鳥の専属メイドですし。どうあっても長いお付き合いになる気がしますが」


 僕がどこに行っても付いて来る気か、クリス!


 さらに僕に詰め寄ってくる4人に、僕は答えを出さなくてはならないのか? なんだこれ……よほどこの状態の方がデスゲームじゃないか!



 ん……? デスゲーム……?



 ……そうだ、僕はこれまで何をしていた? そして父も、もしかしたら祖父だって、同じことをしていたのかもしれない。ならその時、たった2週間であっさりと決められたものだろうか? 無理だ。少なくとも僕には出来ない。


「……決めた。決めたぞ。僕は決めた。ああ、決めたとも」


 分かっている。これを言えば、今ここで嵐が起きるということは。だけど、僕が取れる行動なんて、これしかない!


「クリス、菜夕、桜子、香美乃……君達で……いや、もっと他の奴も巻き込んで、デスゲームをしてもらう! そして勝ち残った奴を、僕は選ぶことにする! そうと決まればクリス、準備だ!!」


 要は、クリスを入れただけで振り出しに戻る、というやつ。ああそうとも、クリスに散々言われたチキンだとも。父については絶対に説得してやる! 香美乃が言っていた過去の情報を出せば何も言えないはず!!


 さぁ、覚悟は出来ている。なんとでも僕をなじるがいい!!


「あら。それは少し面白そうだと思うのだけれど」

「そうね! なんだかんだ、あなた達とのガチ勝負ってやれてないし?」

「最初は恐かったですが、色々楽しかったですし……。クリスさんも入るなら、尚更です」


 ……あれ? 思っていたのと全然違う反応なんだが?


「……飛鳥」


 いや、まだクリスがいた。最も鋭くえぐってくる、僕のメイドが……


「私がゲームをするのであれば、準備側をするのは反則です。それくらい気付いてください。そこに伸びている雛実でも使えば良いのではないでしょうか」


……僕のメイドらしくない!?


「ですが」

「え?」


「その選択肢は最悪です。一体何のための2週間だったのですか?

 私がいったい、どれだけ苦労をしたと? 先程少しやり返した程度では全く収まらない程度には腹が立って立って湯を沸かすどころかマグマを生成出来ますが? そんな状態なのに優柔不断っぷりというかチキンっぷりさを遺憾なく発揮されて、ああ本当に血筋とは恐ろしいですね。

 もういっそ、飛鳥でない方を賭けて4人でゲームをした方がよほど有意義なのではと思えてしまいますが。ああ本当に情けない。本当に困ったものです。私の眉を見てください、への字どころかカタカナのコの開口部を下に向けたくらいになっていませんか?」


 ……やっぱり、僕のメイドだった。いつも以上に、クリスはクリスだ。


「ですが……」

「ん?」

「それだけダメダメな飛鳥お坊ちゃまなのですから、私がずっとお傍にいて差し上げますよ」


 なのに、最後はにっこり笑顔で、僕に一礼をくれたんだ。


「あ、ちょ! だからそれはデスゲームで決めるって言ったでしょ!?」

「まあ、デスゲームと言いつつ、デスしないとネタバレしているのだけれどね。どちらにしても、本気で行いますが」

「でも私達以外にも人が増えるなら、今度は勝ち残れないかもしれないです……。けど、譲りませんです!」


 それを抜け駆けと感じたのだろう。3人が3人とも、挙手して発言した。


「とにかく、だ! またデスゲームを行う! これは決定事項! まずは父の説得をするが、絶対成功させる! クリスは、雛実の協力を取り付けろ!」


 嵐が巻き起こることなんて、分かっていたこと。ならもう、もっと激しくするまでだ。


「ゲームは1カ月後に開催するから、参加者も見繕え! 以上!!」


 今度のゲームで、またこの3人……そして、クリスは活躍するのだろうか? はたまた、彼女達さえも苦戦させる猛者が現れるのだろうか。そして明樹斗や、さらなる他の天海家の者達は、どう出るのだろうか。

 


 何も分からない。


 だけど……楽しみだ。


【完】

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