お見合いデスゲーム(2)


「よしよしよーし! では雛実ちゃんが! あっちの3人名にタブレットを配ってきまーす! 裏切り者がこれで決まるんだぞ☆」

「いや、待ってくれ」

「はいー?」


 ゲーム開始直前。雛実が見合い相手達のいる隣の部屋に行こうとしたため、止めた。理由は簡単で、


「君は明樹斗の専属メイドだろ? 父がこのゲームをやれと言ったのかもしれないが、僕としてはまだ半信半疑。なぜなら、あまりに明樹斗は落ち着いていたし、ゲームの対象はやはり見合い相手達3人。

 ならば、先日の延長だと僕が考えてしまうこと、自然だと思わないかい? その状態で、最も重要な裏切り者が決まるタブレットの配布を、雛実が行うことを許すわけにはいかない」


明樹斗が最初から裏切り者を知っている、という状態を作りかねないからだ。


「はっ。んなら、その役はテメェんところのメイドにやらせるかぁ?」

「当然だ。ただ、それだけでは不十分。君は先日のゲームで、僕とクリスや見合い相手達との通信やメールを傍受していた。だから、クリスが主体で動いても結局同じかもしれない。明樹斗のタブレットに、あってはならない情報が表示されるかもしれないと、僕は危惧しているということだ」

「それは心配すんな。テメェのメイド、全員が見ている情報を一度に見られるタブレットを渡す。まぁ? 俺のタブレットの情報と、そっちのメイドが見る情報……違うモンに差し替えられるかもしれねぇがなぁ? それでも気になるってんなら、テメェが使いたいタブレットを選べや」

「……分かった。なら、雛実をクリスに変える、それだけでいい」


 要求出来るだけしてやろうと思ったが、最低限クリスが動くならそれでいい。もちろん、クリスから情報をもらうなんてことは、絶対にしない。


「つーわけでそこの年増、テメェはお役御免だ」

「んだから誰が年増だっつってんだ金髪野郎がよぉ!?」

「どっかの誰かみてぇな日本人形黒髪オンナよりマシだっつーの。その上超猫被りでマジキメェ」

「はぁ? アタシの口調モロパクってる奴に言われなくねぇっつーの」


 ……明樹斗と雛実は呑気なもんだ。僕とクリスが阿吽の呼吸だなんて言っていたが、そっちの方がよほどだ。


「では、タブレットを配布しますので、成宮菜夕様、冴島桜子様、影山香美乃様、こちらにお越しください。先程ご説明したルールも、すぐにこちらのタブレットに送信されます。必要でしたらご利用ください」

「あれ」


 明樹斗達の茶番を見ていたら、いつのまにかクリスがゲームを進めていた。明樹斗もすでに切り替え、雑談を終えたようだ。


 すると、椅子が回転して見合い相手達がいる部屋の方を向く。僕や明樹斗のタブレットは、すでに椅子の隣にあるテーブルに置かれていた。


 一方、タブレットを受け取る彼女らは三者三様だ。


「はい了解! 桜子様が絶対にぜーったいに! 裏切り者が誰なのか暴いて見せるんだからね!」


 桜子はタブレットを奪うようにして他の2人に宣言しているし、


「あっ……す、すいませんです!」


香美乃は操作中に落下させるし、


「……了解です」


菜夕は少し見ただけですぐに視線を離すし。


 桜子はああ言っているが、自分が裏切り者の可能性もある。

 香美乃はタブレットPCを所有しているんだから扱いには慣れているはずで、そこから何かしてくるかもしれない。

 菜夕はただ他の2人を見ているだけだが、いつもの観察だろう。


 こうして改めて3人を見ると、1人1人違った魅力があっていいな。先程まで、いわゆるデートをしてしまったが、僕程度には吊り合わないものを持っている。


「ただいま、皆様に1ターン目の情報を送付いたしました。タブレットでご確認ください」


 クリスの宣言で、見合い相手達は再びタブレットに注目した。


 それと同時に、隣の部屋には新たな使用人が現れる。丸テーブルを囲んでいた3つの椅子、その後ろに立ち、見合い相手達が近付くと一礼した。クリスもこれくらい慎ましかったらいいんだがな。


「成宮菜夕様、こちらへどうぞ」


 そうして、椅子を引いて彼女らの着席を促した。桜子と菜夕は、テーブルに置かれたナフキンを膝の上に引いたが、香美乃はしていない。かと思えば、他の2人を見て、付けるのが正しいと気付いたようだ。


 すると間もなく、使用人がドリンクを持って現れる。見た目はワインだが、ノンアルコールであることが雛実から伝えられた。次いで、前菜とサラダもテーブルに並ぶ。それらは、僕や明樹斗の元にも運び込まれたため、拘束は足だけになっていた。


「これは……本来は前菜が終わってからサラダだ。しかし、行動指示は5つ……その間にフルコースが終わるような措置かな。11品目あるからね」

「そうだなァ? 最後の晩餐ってやつだ」

「明樹斗……君のね」

「……はっ」


 明樹斗は一瞬だけその鋭い目付きで僕を見たが、すぐにグラスにやって一気飲みした。

 さて、こうして出揃ったということは、最初の行動が始まる。明樹斗との空中戦なんてやっている場合じゃない。



「あなた達! マナーって言葉をご存知かしらん? 今出てきたのは前菜とサラダ……本来は別々に出るものだけど、フルコースの始まりってことなのよねー。なら、ちゃーんとしたマナーで食べてあげないと、お料理に失礼なわけよ!」

「お食事の際に大口を開けてお話している、桜子ちゃんに言われたくはないのだけれど」


 食べ方はあまりに美しいのに、その口から出る言葉は美しくない桜子と、それに対抗する菜夕。この2人は、まず前菜に手をつけた。


「マナー……フルコース……検索……」


 しかし、ここで配ったタブレットではなく、自身のPCを取り出した香美乃は違った。PCを操作しながら、ドリンクに手を伸ばしたのだ。


 これは……情報開示をしないといけないようだ。僕は明樹斗に気付かれぬよう、皿で隠すように情報開示スイッチを押した。もっとも、この状況なら……


「うひゃ☆ これはこれはこれは! きーっとみーんな、情報開示しちゃいますいよねー! アタシがゲームに参加していたとしても絶対するもん♪」


と雛実が言うように、全員が開示したことだろう。実際、明樹斗は堂々と、見合い相手達も各々のタイミングで情報開示ボタンに手を伸ばしているのが見て取れた。フリだけ、ということもないとは言わないが、このターンだけはそうじゃないと言い切れる。


 なぜなら、タブレットに表示される行動指示……それが、果たして全員同じ内容なのか分からないからだ。今回、菜夕と桜子は前菜から、香美乃はドリンクから口にした。

 それは一見すれば、誰かが指示内容と異なる行動を取った……つまりは裏切り者であるように見える。だが、そもそも個々の行動指示が異なっているがための行動の相異である可能性もあるんだ。


「どうせこのターンは、みんな情報開示しているんでしょー? 感想は?」


 見合い相手達も、僕と同じように考えたんだろう。桜子がドリンクを口にしつつ、会話のきっかけを投げる。


「1ターン目の行動指示。それはどうやら、全員同じだったようですね。その内容とは、“ドリンクから食せ”でした。とすれば単純に考えれば……香美乃ちゃんは裏切り者ではなく、私か桜子ちゃんがその可能性がある、ということでしょ」


 桜子と同様に、ドリンクに手を伸ばしたのは菜夕。彼女の言う通り、情報開示によって明らかとなったのは、行動指示の内容は全員同じということだった。


「そ……そうですね。このゲーム、裏切り者だと、飛鳥さんや明樹斗さんに誤解させられれば、それでも私達にとっては勝利に等しいですから。ですので、菜夕さんか桜子さんのどちらかは、裏切り者ではないのに行動指示を裏切ったです……」


 最後に口を開いた菜夕は、また菜夕らとは逆に、今度は前菜に手をつけた。その後、サラダにも手が伸びる。



「明樹斗に飛鳥様! 裏切り者が誰か分かっちゃった感じですかー?」

「るせぇ。この時点で分かったら苦労しねぇんだよクソアマ」


 雛実の問いに答えた明樹斗に同感だ。口に出すつもりはないがな。現状、彼女らが口にした通りのこと程度しか、僕にも分かっていない。だが、行動指示は5つあるんだ。焦る必要はない。



「では、2ターン目の内容を送信いたします。お三方は、タブレットをご確認ください」


 彼女らが、サラダを食べ終える頃。クリスが僕らの後ろでタブレットを操作し、そう告げた。それを合図に、使用人がスープとパンを持って現れる。ドリンクが不足していれば追加もした。


「ねぇ菜夕に香美乃、知ってるかしらん? さっきの前菜は、食欲を増進するために、しょっぱめにしてあるのよ。じゃあ、このパンはなんだと思う?」


 桜子はパンを持ちつつも、口にしたのはスープ。2品目が同時に出てくる短縮版フルコースではあるが、食の順序は守っているようだ。


「あら、こちらのスープ、大変美味しいですね。そちらのパンは、そんな口に広がったスープをリセットして、次の料理に備えるためでしょ」


 答えた菜夕も、桜子に同じ。だが、


「正直に言うと、フルコースなんて経験したことはないですが、今調べたので理解しましたですよ。先程のサラダは、血液のバランスを整えるためですね」


またしても香美乃だけは違う動きをする。それは、ドリンクを飲むことだった。


 ……もう1度、情報開示をしておくか。

 前回も見た、それぞれが情報開示ボタンに手を伸ばす行動が、ほぼ同じ形で見て取れる。先程から見合い相手達が口を開く順番も同じだし、四方八方がデジャブだ。


「うひゃ☆ これはこれはこれは! きーっとみーんな、情報開示しちゃいますいよねー! アタシがゲームに参加していたとしても絶対するもん♪」


 雛実も、一言一句違わぬセリフデジャブをかましてくる。そのぴょんぴょんとした動きはどうにかならないのだろうか。


 だが、僕も明樹斗も雛実を無視したことで、ようやくの新行動が出た。

 さて、開示した内容だが……。せっかくの僕らの新行動、無下にしてくれたよ。また“ドリンクから食せ”とはな。彼女らの行動を見ても、前回の状況と同じ……香美乃だけが従い、菜夕と桜子のどちらかが裏切り者だと見える。


 ……まあ、そう簡単に事が進むといいんだがな。



「あ! 香美乃、それ全部食べちゃダメなのよー?」

「え……。あ、しまったです……何も付けなくても美味しかったからつい……。口のリセットですもんね……これでお腹いっぱいにしちゃダメです……」

「3ターン目の行動指示を送信いたしました」


 香美乃がうっかりパンを全て食べてしまい、桜子に馬鹿にされた時。クリスの事務的な声が響いた。


 この時点で、恐らくは全員が情報開示を2回使ってしまっている。よって、使えるのはあと1度だけ……迂闊には使えなくなってしまったということ。もっとも、1、2ターン目に連続で使ったことで、“行動指示は全員同じ”、と分かったんだ、後悔はない。

 3ターン目から行動指示がバラバラになるという可能性も低いはず。そうなってしまうと、情報開示が可能な3回だけでは、裏切り者は特定することがかなり難しくなるからだ。これはあくまでゲーム……クリアが可能でないといけないものであると考えれば、バラバラになるとは考えにくいということ。


「はい、またしてもクイズいくわよん?」

「桜子ちゃん。あなたが出そうとしているクイズ、見当がついたのだけれど。今まで料理は2品ずつ出てきたのに、なぜこの3ターン目は、魚料理1品だけなのか……でしょ?」

「せ、正解だけど別に悔しくないしー」


 3ターン目にもなると、菜夕は桜子の行動を心得たようだ。そして仲良く、出てきた魚を慣れた手つきで身をはずしていく。


「ええ……と、ナイフとフォークで……う、上手くいかないです……」


 さすがの香美乃も、検索結果だけでは経験値が追いつかず、あきらめてドリンクを口にしてしまった。


「香美乃、さっきはマナーマナー言ったけど……大前提は食事を楽しむことよん! 今はあたし達しかいないんだし、お箸を使ってもいいわけよ。言えば出してくれるはずよ」

「そ、そうなんですね……。もっとたくさん、色々なことを知りたいです。あ……さっきの桜子さんと菜夕さんのクイズですが、魚料理の次がソルベだから魚料理1品だけで来た、ですよね。魚料理を食べている間に溶けてしまうです」

「……せっかく良いこと教えてあげたのに、そっちはあっさり答えてくれちゃうわけね……」


 桜子は、色々と達観しているな。あの見た目で、あの性格なのに。正直、尊敬出来る部分もあるよ。

 さすがに今回、情報開示をするわけにはいかないし、他の奴らもそうだろう。なぜなら、今回もこれまでと同じ……菜夕と桜子は料理から手をつけ、香美乃はドリンク、となっていたんだから。まさかまた行動指示は、“ドリンクから食せ”だったのだろうか?



 そして次のターン。


「4ターン目の行動を送信しました」


 クリスの無機質な声が響いたかと思えば、


「やっぱりね!!」


それをかき消す桜子の声が響く。今回出てきた料理が、ソルベと肉料理だったからだろう。


「ここでソルベが出てくるのは、決してデザートじゃないわけよ! メインである肉料理を前に、もう1度を口をリセットするってことなのよね!!」


 桜子も桜子で、菜夕らにクイズを出しても無駄だと理解したのだろう、最初から解説で入った。そしてそのまま彼女は立ち上がり、開いた口を閉じない。


「今回あたしは、いきなり料理に手をつけないわードリンクからいくわけよ!! 理由は簡単……つまんないから! だって3ターンも終わったのに、毎回毎回毎回、みーんな同じような行動じゃない? あっちにいる飛鳥や明樹斗も飽きてるわけよ! ということでドリンクを……」

「あの。お食事中に不用意に席を立つことこそ、マナー違反だと思うのだけれど。じゃ、私もドリンクからいただきます」


 しかしそれは、菜夕により冷ややかにクールダウンし、


「え、あ……じゃあ、私もドリンクをいただくです」


氷河が広がった後には、香美乃がのほほんと温もりのある声で溶かした。


 このターン。3人の行動が初めて一致したんだ。だったらもう、3回目の……最後の情報開示を使うしかないだろう。先程僕は、行動指示は5回とも全員同じと結論付けたが、念のための確認というわけだ。


「……へぇ、全員ドリンクから食したと思えば、やっぱり全員の行動指示は、“ドリンクから食せ”だったってわけねぇ」

「そのようで」

「そうですね……」


 そして、それは明樹斗も含み全員同じ。それぞれタブレットを一瞥していた。


「さっきは菜夕の凍える風でやられたけど、あたしの話って、まだ続きがあったわけよ」


 タブレット確認の際、1度全員沈黙していた。それを破るのは、やはり桜子。菜夕に注意されたばかりなのに、また立ち上がる。だが、それは落ち着いたトーンで、


「ねぇ、この裏切り者特定ゲーム、あなた達はどう考えているわけ? このゲーム、あっちでガチ対戦している飛鳥と明樹斗、それとあたし達のゲーム……同じようで全然違うわよねー。飛鳥達の目的は裏切り者を見付けることよね。それ以上でも以下でもない。それじゃ……あたし達の目的も同じかしらん?」


ぐるりと、僕らを見た後に菜夕、香美乃に視線をやった。


「飛鳥くん達と私達の目的。完全に違う、とは言い切れないのだけれど。ですが、同じとも言えないでしょ。なぜなら、私達は自分が裏切り者だと誤解されても実質の勝利なんですから。つまり、裏切り者を見付けようが自分が誤解されようが結果は同じということ。さて。そこでこれまで従順に行動指示に従ってきた香美乃さんについて考えてみましょ」


 次いで、菜夕も桜子と同じような行動を取ったかと思えば、2人の視線は香美乃1点に注がれた。

 やはりこうなる、か。香美乃だけ常に行動が違うことで、さて、いつ彼女が責められるかと思っていれば。


「桜子さんに菜夕さんのおっしゃることは分かるです。裏切り者は毎ターン行動指示を裏切らないといけないですが、それ以外の人は何をしてもいい……裏切り者だと誤認させる行動を取らないとおかしい、ということですよね。それなのに、あまりに私は愚直な行動をしているから逆に怪しい……私が裏切り者にしか見えないです、と」


 それは香美乃も想定済みだったようで。肉料理を口に運んでから、2人に対して一歩も引かない。それどころか、


「付け加えますです。そもそもこのゲーム、とても中途半端ですよね。

 裏切り者は行動指示を毎ターン裏切らないといけない……なんて、いくらでも曲解出来てしまうです。

 例えばこれまでの指示、“ドリンクから食せ”ですが、グラスを口にして中身を傾けて飲んだフリだけをする……これは果たして、どう取られるのですかね。もしドリンクを飲んだという判定にならないのであれば、私はこれを利用して、正直者のフリをした裏切り者、もしくは、その裏をかいて裏切り者のフリをした人、と見えるかもしれないです。

 でもこれって、桜子さんにも菜夕さんにもいえることです。前菜を食べたフリ、スープを飲んだフリ、魚をほぐすだけほぐして食べたフリ……何でも出来るです。

 つまり、皆さん立場は同じってことですよね」


にっこりと笑顔で、このゲームの危うさを指摘するまでだ。


 そう……このゲームはあまりに穴が多いんだ。そしてそれは恐らく、全員気付いていて、意図的に用意されたもの……。


 だから僕は、このゲームが始まった段階でひとつの予想をしていた。そしてここまでの動きを見ている限り、それは当たっている。確証などないが、確信があるんだ。


「……はっ……」


 だが……そのことには間違いなく明樹斗だって辿り着いているはず。それにしてもこいつ、今日は静かだな……。最初こそ雛実とのやりとりをしていたが、それ以降一言も話していない。見合い相手達を注視しないといけないゲームだから、ということもある。だが、何か仕掛けているのか? いや、このゲームで仕掛けなんて打てるはずもないか……。


「それでは、5ターン目……最後の行動指示を送信いたします」


 そこに、またクリスの無機質な声が届く。これまではクリスとバカみたいなやり取りをしつつ、見合い相手達のゲームを見ていたから、何か寂しくもあるな。だがクリス、いくらなんでも毎ターン同じ行動指示というのはどうなんだ? 今回だけあえて変えてくるのだろうか?


「さって、ここに置かれたフルーツとデザート! どちらも食後のお料理だけど、フルーツの方が甘みとして薄いから、先に食べるのよ!」

「もう皆さん、情報開示は使い切ってしまいましたよね。なら、何をしても問題ないと思うのだけれど」

「あ……このショコラ美味しいですぅ……。あれ? 菜夕さんのはどこに? ……もう食べたんです!?」


 4ターン目で溜めていたものを吐いたせいか、最後のターンにも関わらず、桜子も菜夕も香美乃も、ただ目の前の物を楽しむだけになっている。

 だが全員、それらに手をつける前に……明らかにそれと分かる、“ドリンクを飲んだフリ”をしていた。情報開示はもう出来ないが分かる……また“ドリンクから食せ”だったのであろう、と。


「よっし! ぜーんぶのターンが終了したのでスイッチドカーン!」

「スイッチを押す時の擬音は、ポチッ、の方がいいだろ……。んだよ、ドカーンて……」


 5ターン目開始より10分程度。進行したのは無感情なクリスではなく、スカートを翻して一歩前に出た雛実だった。そして明樹斗は、やはり雛実と呼吸が合っている。


 同時に、雛実が作動させたのであろうが、僕らと見合い相手達を隔てていた壁が床に収納され、ひとつの部屋へと変貌を遂げた。『あたしだけを見ていたでしょーね?』と言っていそうな桜子のドヤ顔、僕の目を真っ直ぐに見てくれる菜夕、小さく手を振る香美乃……3人とようやく再会した気分だ。


「ここからは、裏切り者特定タイムとなります。成宮菜夕様、冴島桜子様、影山香美乃様は、5分後に裏切り者と考える相手をタブレットで入力した後、指さしていただきますので、ご準備ください」


 そこにクリスの声と、コーヒーが届いた。匂いで分かる、このコーヒーもクリスが煎れたものだ。


「なぁ、飛鳥よぉ? あっちの3人が特定した奴を発表されたら、次は俺らだよなァ? 誰が裏切り者か判断ついてんのかねぇ!?」

「当然だ。この中にいる裏切り者……僕は特定しているよ」

「はっ……くっはっはっは!」


 見合い相手達がタブレットを操作している際の沈黙。僕も明樹斗も、互いに自信しか見せない。


 ……当然か。僕も明樹斗も、勝つのは自分だと、信じているんだから。



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