第5章 お見合いデスゲーム

お見合いデスゲーム(1)


「ん……?」


 なんだ? 僕は……眠っていたのか? いや、眠らされて……。

 ……香美乃はどうなったんだ!?


「痛っ!?」


 動けない……!? どこだここは……周りは真っ暗で何も見えない……。少なくとも僕は座らされていて、手と足が椅子に固定されている……!?


「お? 起きました? 起きましたよね?? はい、ラーイトアップ☆」

「!?」


 次の瞬間、僕の視界は真っ白な世界に包まれ、瞬く間に収束し、今度はメイドが広がった。全体的に黒基調のメイド服で、髪も同じく黒。やけにスカートが短く、絶対領域って奴が眩しい。垂れ目がクリッとしていて幼く見えるが、僕に浴びせた拳を考えると、僕より年下ということはなさそうだ。


 こいつは……平沢雛実と言ったか? 僕を連れ去った犯人だが、どこかで見たことがあるぞ……? そしてさっき、僕を様付けで呼んでいたような……。


「おや。お目覚めですか。社長出勤ならぬ社長起床レベルですね」


 そうかと思えば、赤基調のメイド姿。


「クリス……!?」

「いちいち名前を確認しないといけない程、付き合いは短くありませんが」

「確認のため名前を呼んだんじゃない! ここは……?」


 見渡すと、右には大きな鏡、左には僕が座っているえらく堅い茶色の椅子と同じものが、誰も座っていない状態で佇んでいる。正面は赤と黒のメイドでふさがれていて完全には見えていないが……そちらも同じ椅子が見え隠れ。左側にあるものと違い、誰かが座っているようなのだが……。


「ねぇねぇ見ました見ました?? 阿吽の呼吸って言うんですかねー飛鳥様とクリスの会話! というか、ボケとツッコミ? アタシ達も見習いましょー♪」

「るせぇ年増」

「ああん? 誰が年増だってぇ!?」

「テメェだテメェ、雛実だ雛実。抱きつくな気持ち悪ぃ!!」


 星がいくつも飛んでいそうな口調から、火花をいくつも飛ばしそうなものに変貌を遂げた雛実。振り返って、僕と同じことになっている奴に抱きついている。えらく豊満な胸を押し付けているから、相変わらずそいつは見えない……。

 しかし、雛実について思い出した。こいつ、この前のゲームで、敵として仮面を被り……菜夕に捕まったあの女……! この高い声に高いテンション……間違いない……!


 そしてその雛実がいて、周り全てを突沸させるような声を発する男……こいつは……僕の正面にいるのは……。


「明樹斗……天海明樹斗!」


 僕の声に雛実が離れると、ようやくそいつが僕の前に現れた。明樹斗だって手足を拘束されているのに、足を組み腕を組み背もたれに全力でもたれかかっているかのような威圧を感じる。


「よぉ? 天海飛鳥」

「これは、君の仕業というわけかい」


 明樹斗は、僕に負けた。間違いなく、僕は勝った。僕と明樹斗が、己がプライドを賭けて勝負をした結果がそれだったんだ。にも関わらず、またこいつがしかけてきたなんて……。高い矜持を持った奴だと思っていたが、またのこのこと現れるなら勘違いだったということだ。


「いんや? 俺じゃねぇ。なぁ、雛実」

「だよねークリス☆」

「だそうですよ、飛鳥」

「……そんなリレーは求めていない!」


 明樹斗、雛実、クリスの、つまらないバトンレース。何がしたいんだ、こいつらは。


「あっは♪ ノリが悪いですよ飛鳥様ー! だってこれ、ご主人様がやれと命じたんですからー☆ だから飛鳥様もうちの明樹斗も、同じように拘束されてるぅーんだ!」

「その通りです。私が仰せつかり、明樹斗様の専属メイドたる雛実に伝言……この状況に至ったのです」


 それを言いつつ、雛実は明樹斗の斜め後ろに、クリスは僕の斜め後ろに立つ。

 そんな彼女らに対しては、『何も香美乃といる時に襲うような形を取らなくてよかったじゃないか』とか、『今まで呼び捨てだったのに明樹斗本人を前にしたら様付けするのか』とか、色々言いたいことはある。

 だが……そんことはどうでも良いと思えるくらい、意味不明なことがある。父はいったい、何を考えているんだ!?


「さーて、状況は飲み込めたかねぇ? んじゃ……まずはそっちを見ろや」


 正直、何を飲み込めたわけでもない。だが、勝手に90度右に回転する椅子と、これまで鏡だったものが透過して窓になると、僕はそこを眺めることしか出来なかった。


「香美乃……菜夕……桜子……!?」


 ガラス越しに見えるのは、円形のテーブルを囲んだ彼女達の姿。香美乃も僕と同じく連れ去られたことは知っていたが、他の2人も、とは……。

 

「あの3人、まだ飛鳥様のデスゲームは続いているんだぞーって伝えて、連れてきちゃいました♪」

「デスゲームの……? あれはもう、先日で最後のゲームだと伝えている……勝手なことを……!」


 雛実はウィンクに人差し指を立ててこちらを向く。童顔の彼女にはお似合のポーズだが、明樹斗には年増と言われていたし、本当に歳が分からないな……。


「飛鳥。この状況でお察しの通りだと思いますが……お察しでなければベビーシートから出直してください……今からあなたには、明樹斗様と1対1のゲームをしていただきます。ご主人様からは、先日のゲームで明樹斗様と飛鳥、お2人の力が拮抗していると分かったため再度状況を見たい、と言われております。奮ってご参加ください」

「それに飛鳥様! アタシは明樹斗と一緒に、あなた達が行っていたデスゲームを全て見ているんです!

 けど……肝心なピースが抜けていると思いませんでしたか?? あの勝ち残った3人……菜夕様、桜子様、香美乃様。この3人が直接戦うってシーンがなかったんです! アタシは見たい! 勝者がぶつかり合うところがー♪」


 クリスと雛実。2人の話で見えてきた。


「要は、菜夕、桜子、香美乃……3人にゲームをさせるのを見て、僕と明樹斗は別のゲームをする……そんなところかな?」

「はっ、よく分かってんじゃねぇか、さすがはアスカサマ。んじゃ雛実、あっちのお譲ちゃん達がお待ちかねだぜぇ? さっさとゲームの説明しろや」


 僕の問いに明樹斗が答えると、雛実がマイクを取り出す。どうやらそれは、僕らがいる部屋だけではなく、見合い相手達3人がいる部屋にも聞こえるらしい。


「はーい皆様お待ちかね! ゲームの時間がやーーって参りましたー! このゲーム、天海家がメイド、平沢雛実がお送りしまーーっす♪」

「ざけんじゃないわよ! いきなりこんな所に連れてきて……やるならやるで、ぱぱっとちゃちゃっとよ!」

「桜子ちゃんに同意します」

「そ、それに、もうゲームは終わったと飛鳥さんが言っていたです……!」


 だから、桜子、菜夕、香美乃……全員からブーイングが入った。


「あは、皆様楽しそうで何よりでーす♪ では早速ルールの説明に参りまっしょーー!」


 にも関わらず、雛実の耳には届いていないようで。こいつ、桜子以上にど真ん中を突っ走る奴か……。


「ゲームは! 裏切り者特定ゲーム! です!! 裏切り者は、後で配布するタブレットに送信される内容……それに対して裏切る必要があるんでーす♪」


 突っ走ったまま宣言すると、ガラスの半分がディスプレイだったようで、そのゲーム名が映し出される。反対から見ても同じように映っているのであろう、あちらの3人もこちら側を見ているのが分かった。

 そして、その裏切り者特定ゲームとやらのルールも表示されていく。



 そのゲームは、この中にいる裏切り者を見付けるゲーム。後程配布されるタブレットのうちひとつに、“君が裏切り者だ”と示す情報がゲーム開始時に送信されることとなっており、それを受け取った奴がその役を担うようだ。

 ゲームが始まれば、タブレットに情報が送信され、そこには行動指示が書かれている。情報が配信されてから次の情報が配信されるまでを1ターンとして、裏切り者はその間に記載の行動を裏切る……つまり異なる行動を取らねばならない。

 タブレットに表示される情報は、自分が受け取ったものしか見られず、あの3人同士はもちろん、僕らだって内容は分からない。ただし、1人3回……僕、明樹斗、菜夕、桜子、香美乃のそれぞれは、情報開示要求を行うことが許されている。それは、僕らはイスについたボタン、あちらの3人はテーブル裏にあるボタンを押すことで可能で、押せばそのターンに配信された情報全て確認が可能だ。開示された情報は、当然開示した本人しか見ることは出来ず、これもタブレットで閲覧が可能とのこと。


「……と言う感じです!

 最終的に、5つの行動指示が配信されて10分経過すれば、裏切り者特定タイムに突入でっす! その時点で皆様! 誰が裏切り者だったか当ててもらいまーす! この時! まずはそちらの3人同時に誰を指定するか発表していただきます! それを見た後、飛鳥様と明樹斗は、誰が裏切り者かタブレットで指定していただきー……同じく誰を指定したのか公開することになりまっす!!」


「ちなみに。成宮菜夕様、冴島桜子様、影山香美乃様は、もし裏切り者を特定出来れば、願いを叶えて差し上げます。なお、裏切り者本人は、他の方を騙せたら願いを叶えることとします。加えて、裏切り者ではない方は、自分が裏切り者だと誤解させることが出来れば、やはり願いを叶えて差し上げましょう。……明樹斗様と飛鳥、負けた方の力で」


 最後にクリスが締めると……というか、オトすと、しばしの沈黙が訪れる。全員言いたいことはあるだろうが、あっちの3人はあっちの3人で、僕は明樹斗と、それぞれ睨み合う。

 願いが叶う。なんてチープな言い方ではあるが、天海グループを前にした願いなら、たいていのことは叶ってしまうだろう。だから、真剣になったのかもしれない。


「はっ……」


 沈黙の中、90度回転していた椅子が元に戻る。また明樹斗と向かい合う形になれば、鼻で笑うそいつ。


「何がおかしい?」

「負けた方が願いを叶える、ねぇ? 俺らがさっきから座ってるこの無駄に硬い椅子。なんのためにあるか分かるかぁ?」

「……さぁ。拘束用……というだけではなさそうだ。とすると、まさか……」

「お察しの通りこいつぁ、電気椅子ってヤツでねぇ……。俺らのうち負けた方、そっちにドカンと一発いっちまうって寸法だ。んだから、負けた方が何かを成すなんて無理だよなァ?」


 明樹斗は、自分が負けると少しも思っていないのか、椅子を拳で叩きながら笑う。だが、負けると思っていないのは僕も同じ。


「……明樹斗、君の言わんとしていること、分かったよ。僕と君は、君というボスキャラを見付けるゲームをした……が。会話という会話、全て機械を通してで、実際に会うのは初めてだったね」

「くっはっはっは! その通りだなァ。……ところで見合いってのは、パッと思い付くのは男と女が結婚を望むために行うってなもんだが……こうして顔を見合わせるって意味もあるよなぁ? ……つーわけで」


 僕はあいつを、強く睨む。拘束されていなくても、目であいつを刺せるように。

 あいつも、僕を強く睨む。その目線で、僕を貫いてしまいそうな勢いで。


「僕と明樹斗の……」

「見合いデスゲーム、スタートだァ!!」




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