3人のプリンセス(4)


 菜夕のメールに、桜子の電話。そんな2人の後……最も遅くに連絡をしてきたのは香美乃だ。


 香美乃はアマレルでのゲームが行われた際、全ての番号を打つ勢いで……いや実際に打ってメールを作成し、僕に送ってきていた。そして今回も、彼女のメールはPCで打ったものを転送したであろうもの。やたらと“ですです”言っている、彼女らしいものでもあるのです。


『質問①:NGとなる質問をした場合の扱いは、質問がひとつ減るのですか?

 質問②:質問①がNOだった場合のみの質問です。YESの場合はこの質問は排除してくださいです。さて、質問②です。質問が減らないとすると、質問自体なかったことになる……再度の質問が出来るということですか?』


 香美乃から最初に送られて来たメールは、このようなもので、質問③だけなかった。質問①②の回答如何で決めるということなんだろうが……これはもう、こちらの回答を予想しているんだろう。何せ、香美乃がわざわざ2つに分けてきた質問……ひとつでも出来る内容だったからだ。どう見ても聞きたいのは②……なら、②を先にもってくればいい。

 そして、香美乃への回答は、質問①はNO、②はYES……つまり、NGとなった質問は、再度質問可能になるということだ。


 それを香美乃へと送ると、質問③が即座に送られてくる。やはり、と思ったね。回答がそれだと分かっていたから、あらかじめ質問③を打ってあったんだろう。そしてそれは本当に長いもので、僕も全ては覚えておらず、


『質問③:主催者さんは、男性で、10代で、私と出合ったことがない方ですか?

 質問③:前述の質問がNGだった場合、こちらに回答くださいです。

     主催者さんは、男性で、20代で、私と出合ったことがない方ですか?

 質問③:前述の質問がNGだった場合、こちらに回答くださいです』


こんな内容が永遠と続くものだった。ひとつの質問の中にはもっと多くの質問があったはずで、かなり面食らったよ。


 この香美乃の質問。質問に対する返答はYESとNOしか使えず、それが出来ない質問はNGとなり、再度質問出来ること……これを利用したものだ。


 ひとつの質問に複数の質問が取り込まれているこの方法だと、全てに対してYESかNOにならない限りは、NGとするしかない。

 例えば、『男性で、10代で、私と出合ったことがない方でしょうか』に対してなら、僕は男だからそこはYESだが、20代だし香美乃と会ったことがある……よってそちらはNO。質問全体で見れば、YESと答えてもNOと答えても整合が取れず、結果、NGと回答するしかなくなる。すると、再度の質問が可能となるから、次の質問も同じようにYESとNOが振り分けられて……となっていくんだ。


 すると最終的に行き着くのは、全てYESとなるか、全てNOとなる質問。前者なら、それはもう僕が主催者だと認めているまでに絞られているし、NOだとしても、それまでの条件から僕を導き出すことは難しくなかっただろう。


 結果的には、僕は香美乃の質問③に対して、YESと答えることになる。その質問は、質問③が始まって10度目あたりのメール……質問の数で考えると、数百個目だったと思われる、


『質問③:主催者さんは男性で、20代で、6日前にアマミューランド、1日前にアマビルディングで出会っていて、明樹斗さんという男性を討伐すべく動いて……』


と、まだまだ続くものだった。


 そこまで絞られたら、もう僕だと決定付ける以外ないだろう。だからもう、特定メールが来ても来なくても関係なかったさ。もっとも、香美乃も恐らくは、それがなくとも9割方僕が主催者だと気付いていたんだろうけどね。

 けど。正直なところ、質問を要望に変えてきた菜夕に、いきなり電話でカチコミをかけてきた桜子……そんな2人の行動は、僕としては想定外だった。この香美乃の質問の仕方こそ、僕が望んだベストな回答だったんだよな。



 だから、桜子と騒いだ翌日の今日……月曜日。香美乃が来るのを待っていても、全く緊張なんてしていない。他の2人に比べれば、やたら転ぶことと身体のとある一部分以外は全て普通の彼女だから。


 待ち合わせをしているのは、香美乃の家に近い公園。大きな広場があるようなものではなく、住宅街にポツンと佇む、滑り台とブランコくらいしかないもので。

 桜子は当然超お嬢様だし、菜夕も立ち振る舞いから育ちが良いのは分かる。別に香美乃の育ちが悪いと言うつもりはないけど、


「お待たせしてすいませんです! あ!」


テテテと走って現れ、早速転ぶ彼女を見ると、さらに安心出来た。


「大丈夫かい?」

「あ……はいです。えっと、お話ししたいことがあるので、うちに来ていただいても良いです?」

「え!? う、うちに!?」


 香美乃に対しては緊張しない。安心出来る。……そんなことを考えていた数秒前のことなんて、その一言で吹き飛んでいった。香美乃の家に? 女性の家に? 彼女のご両親にはなんと挨拶したらいいんだ?? 公園で話すとばかり思っていたから、なんの手土産も持ってきていないんだが……!?


「あ! 私は一人暮らしなので、気楽にしてもらえれば大丈夫です!」

「一人暮らし!?」


 両手を小さくガッツポーズのようにして胸の前に置き、こちらに前傾姿勢。大丈夫と言うが……そっちの方がまずくないか!? 女性の部屋に入ったことなんて、これまで1度も……クリスの部屋くらいだ……。けどクリスは他人とは思ってないし、そもそも香美乃と会ったのはまだ数回なのに!


「あの……お部屋はちゃんと掃除してきましたです……。あ、でも、お金持ちの飛鳥さんには、狭すぎる部屋だと思うので、無理にとは言わないですが……」

「い、いや、そんなことは関係ないんだ。ただ、いきなり異性の部屋に行くというのは……」

「? 何か問題あるんです?」


 無防備か。無防備なのか!? それとも、僕と同じで異性に対する経験がなくて分からないのか、逆に経験豊富でいつもこうなのか……。けど、きょとんと首を傾げる香美乃を見ると、ただの天然にしか見えなくなってきた。

 そういえば、最初のアマミューランドでのゲームでは、同じ色のボールを持った奴を探すため、男に限定して交渉を行っていた。あの時香美乃は、とてもおどおど挙動不審で、なんとかそれをこなしていた。やはり男には不慣れということだが、中盤以降それが見えなくなっていたな……。


「あ、あの……」


 僕がただ香美乃を見つめてしまっていると、香美乃が不安げに下から覗き込んでくる。また少し震える彼女に、悪いことをしてしまったか。


「あ、いや。あ、案内してもらってもいいかな?」

「はいです!」


 だけど僕が促すと、勢いよく回れ右して行き過ぎて、90度戻り進み始めた。



「なあ香美乃、僕が君を初めて見たのは、アマミューランドのゲームの時だ。あの時の君は見ていられないくらい怯えていたけど、今はそんなことないよね。何か変化があったのかい?」


 香美乃の家までは5分もかからないというから、その間に先程気になったことをぶつける。香美乃と歩く中、向かいから犬を連れた人や家族連れ、小学生の自転車軍団等、普段の僕では見られない光景が広がっていた。


「私、初めてのことって苦手なんです……。だけどそこから、色々調べて、たくさん知っていけば……なんでもこいです! って思えるようになるんですよね。今回デスゲームに巻き込まれたのは本当に突然で、最初は何も出来ませんでした。でも、調べに調べて、途中で分かったことがあったんです」

「分かったこと? それが分かったから、君はびくびくしなくなっていたってことかい?」

「はいです。今日はそれを見せたくて、私の部屋に来てもらおうと思ったんです」



 そうして香美乃は、アパートの一室の前で止まった。築は5年も経っていないくらいの真新しいもので、駐車場に面して玄関がある一般的な作り。2階建てで1つの階層には3部屋だけだから、少し小さ目のアパートといえる。


 香美乃の部屋は、白と薄い緑を基調とした家具に囲まれた、落ち着いた部屋だった。ところどころに観葉植物もあるから、自然が好きなのかもしれない。ひとつ浮いているのは、ベッド脇にある、タワー式のデスクトップパソコンだ。これは、僕が使っているパソコンと同じタイプ……ハイエンドのPCじゃないか。いつもタブレットPCを持ち歩いていたが、情報機器を好んでいるということか。


 香美乃は僕をベットに座るよう促すと、自分はパソコン前の座椅子に腰かける。僕の目線は香美乃の斜め後ろ、頭の上から彼女を見る形となるが、彼女の前に伸ばしているはずの脚が見えない。2つの大きな山がそれを阻んでいるせいだ。


「えっと……このウェブページを見て欲しいんです。私はデスゲームについて調べ始めて、まずは他の参加者さんのことを調査しようと思ったんですが……」


 香美乃が示すのは、50代の主婦がやっているブログだった。内容は日々の料理とそのレシピを挙げているもののようだが、アクセス数を見るに芳しくはない。そしてもちろん、香美乃が見せたいのはそこではなく、先週更新された最新の記事だ。

 僕はそれを、声に出して読み上げ、


「“もう時効だから書いてみます。先日、車両の爆発を偶然目撃しました。驚きつつも、懐かしいと感じた。だって、30年程前に、私はその当事者だったんですから。私の目の前で起こった爆発から、私はお見合いデスゲームなんてものに巻き込まれて、敗退……。ですが、デスゲームというのは建前で、たくさんのお金をいただいて解放されました”……。な、なんだこれは!?」


最後に叫ぶと同時に立ち上がった。


「私の予想ですが、30年前ということで、飛鳥さんのお父様も同じことをされていたのではと思うんです」

「確かに時期を見ればそうだが……そんな……」


 ブログをさらに読み進めると、その爆発は天海家の土地であることが分かったし、それ以降のゲームもやはりそのようだ。

 僕は最初、26人とのお見合いなんてふざけていると思い、面食らわせてやるという想いも半分持って、こんなデスゲームなんてものを開催した。だが、これじゃあ……。


「あの、飛鳥さん。私の部屋に、このパソコンなんて変だと思いましたですよね? これ、ガジェット好きの父の影響なんですよ」

「それは……」


 香美乃がデスクトップを片手で差しつつ、もう片方の手ではタブレットPCを持った。


「……血は争えない、と?」


 もちろん、ネット上のブログに信ぴょう性なんてあったものじゃない。

 だから帰ったら父を問い詰めないといけないが、香美乃がブログ以外で他にも出す証拠となる情報を見ると、もうその必要もなさそうだ。例えば当時の爆発現場写真や、泣き叫ぶ女がいる中他の女は真剣にトランプをしている写真。前者は言わずもがな、後者はデスゲームの敗者と残ったプレイヤーという構図だろう。


 そして何より。いかに誰も死なない嘘のデスゲームとはいえ、頭の固い父が、その開催を簡単に認めたのは変だった。しかも、ものの数分で、だ。

 もしそれが、父が自分も同じことをやっていたのだとすると、僕を否定する理由なんてどこにもないからな。いやそもそも、2週間で26人、というのも、もしかしたらデスゲームをやる前提の数だったのかもしれない。


「それにしても香美乃も、デスゲームが嘘ってことはもちろん、あれがお見合い目的だってことにも気付いていたんだな……。まったく、僕もまだまだ甘いよ。気付かれ過ぎだ」


 よく最後までやり切れたもんだよ、本当に……。穴しかなかった。


「私“も”というのは?」

「ああ、一昨日には菜夕、昨日は桜子と会っていたんだ。その2人にもバレバレでね」

「……」


 僕がそう言うと、ずっと手を止めなかった香美乃がピタリと止まる。彼女だけ時間停止したんじゃないかと思う程だ。


 これは……まさか……。菜夕も桜子も、色々気付いていながらゲームに付き合ってくれていた。菜夕はゲーム自体が面白いからと言っていたが、顔を赤らめ僕を見ていた。桜子は本気かどうかは別として僕に気がある素振りを見せている。とすると、香美乃も……?

 デスゲームが嘘ってことだけでなく、お見合いまで知っていた上で続けるなんて、もうそれしか……。


「か、香美乃は僕が明樹斗とやり合った時、画面越しにしか僕を見ていなかっただろ? 僕を気にしてくれるタイミングなんて……」


 これ、僕の勘違いだとしたら相当恥ずかしいぞ……。


「ほ、他の2人はそこで、だったんですね……。

 確かに恰好良かったですが、私はアマミューランドで腰が抜けてしまった時、あなたに初めて会い、声をかけられた時からです……。だから、デスゲームなんて怖いものに巻き込まれたけど、まだ頑張らないとって思って色々調べて、さっきの情報を見付けて……」


 どうやら勘違いではないらしい。すでに恥じから半分赤面しかけたが、別の意味で全体がそうなっていく、


「あ……あああ! い、今の忘れてくださいですですです!!」


 かと思えば、香美乃の方が赤いペンキ塗りたて注意となってしまった。

 恐ろしいな、命を賭けた吊り橋効果という奴は……モテない歴21年のこの僕でさえこんな……。


「そ、そうだ! ここここんなスペックの高いパソコン、わた、私が何に使っているか気にならないですか?? 気にしてくださいです! そして、こ、こ、これを見て欲しいんです!!」


 口を滑らせたらしい香美乃。また初めて会った時のようにどもるどもる。そのマウスを持つ手も震えに震え、目的の項目をなかなかクリック出来なかったが、ようやくそれを果たした。すると、


「これ、香美乃だよな……?」

「はい、マスクをしているので分かりにくいですが」


モニタに映し出されたのは、香美乃が、ドラマの主題歌に合わせて踊っている映像だった。どうやら動画投稿サイトに投稿されたものらしく、その再生数10万以上。

 彼女はマスクをしているから分かりにくいと言ったが、揺れすぎる身体の一部分のおかげですぐに分かった。上手いか下手かで言えば上手いのだが、この再生数となっている一因は、その揺れる部分に他ならないだろう。


「他にもあるんですよ? 生配信もしますです。“です子”って名前でやっていて、最初はキャラ付けのつもりで、ですです言っていたんですが……今では、かなり意識しないと通常時もですです言ってしまうんです……」


 香美乃のプレイリストを見るに、軒並み再生数は先程のものと同等かそれ以上。それだけ人気が出れば、自分のキャラに飲み込まれるくらいになっても仕方ないのか。

 香美乃の趣味としてはかなり意外だけど、アマレルや明樹斗とのゲームで、ずっと走っていた彼女の体力……こういう活動をしているなら、納得出来なくはないか。


「ところで……なんで僕にこれを?」

「えっと……なんででしょう? ちょっとでも知ってもらいたかったからですかね……?」

「疑問形で答えられてもな……」


 香美乃はモニタから目を離して、こちらを見た。僕の方が高い位置にいるから、自然と香美乃は上目遣いになる。やっぱり小動物のようで、頭をポンポンしたくなる……が、なんとしても抑えなくては。

 ここは香美乃の部屋で、狭い場所で2人きりということ。このままいたらまずい……。部屋から出れば、仮面を被った使用人が、菜夕や桜子の時と同様に僕らを襲いに来る。もちろん香美乃の対応を見るために。だからもう、ここは一旦部屋から出よう……。


「なあ香美乃、まだ時間があるならお菓子でも買ってこようと思うけど、どうだろう?」

「あ、私おせんべいが好きです!」


 まさかの甘い物以外のリクエスト。そういえば台所には、緑茶パックがあったな……。


「じゃあ、行ってくる」



 僕が扉を開けると、目の前には人がいた。

 まずは僕を拘束し、それをダシに中にいる香美乃を外に連れ出す算段だ。香美乃は臆病なところもあるが、さて、どう出るか……。


「……?」


 いや、しかし。ここに来る使用人は男のはず。スーツに仮面という妙な組み合わせで。だけど……。

 僕の目線は、扉を出た時から下を向いていた。男の使用人なら、黒いスラックスが見えるはずなのに、今見えているのは白いタイツ。それに加えてひらひらと、膝丈くらいのスカートが見えるじゃないか。これは……メイド服か?


「君は……誰だ!?」

「あっは♪ アタシは平沢雛実ひらさわひなみでーすメイドさんだぞ☆ ってことで飛鳥様ー覚悟!」

「ぐ!?」


 な、なんだ……猛烈に腹が痛い……そのメイドの拳がめり込んで……?


「次はそっちの! 影山香美乃ちゃーん! 女の子に手荒な真似したくないなー。アタシの言いたいこと、分っかるよねー??」

「え……」


 僕が片膝をついていると、メイドは僕の横をずんずんと通り過ぎ、恐らくは香美乃の前に。その後のことは、分からない。

 動けない僕は、他に現れた仮面の男達によって、黒いバンに乗せられてしまったからだ。


 なんだこれ……こんなこと、僕の計画には……。



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