3人のプリンセス(3)


 菜夕の次に連絡があったのは、桜子だった。予想では、1番早く何かしらアクションをしてくる気がしていたから、少し意外。だが、連絡の方法は彼女らしく、


『あ! 飛鳥?? 

 メールで3つも質問しなくても分かり切っているから電話にしたわ! 主催者は天海飛鳥!

 なんで断定しているかも含めて話してあげるから、明後日の予定、絶対空けておきなさい? 場所はメールした! 人と場所おさえるのに時間食っちゃったけど、あたしより先にあなたが主催者だと特定した女はいなかったでしょーね? まあいてもいいけどね! それじゃ!!』


と、僕が口を挟む間もなく電話をかけてきて切ってしまった。人の予定を聞かずに、なんて女だ……まあ、空けるんだけどな……。



「ここは……」


 2日後。桜子に言われた場所は、予約しても宿泊は数か月後になると言われるホテルのパーティ会場だった。個室がそんな状態ならパーティ会場なんて尚更だろうに、よくおさえられたな。ここは別に、冴島グループの傘下というわけでもないんだが。


「あ、来たわねー? うちの施設使うと警戒されると思ってここにしたんだけど……どう?」

「どう、と言われても……僕はこういうの、慣れていないんだ……」


 会場に足を踏み入れると、いくつも並ぶテーブルに、和洋中とそれ以外の料理まで所狭しと並べられていた。にも関わらず、この会場にいるのは、料理人やSP等を除けば僕と桜子だけで。

 その桜子は、肩が出た赤いドレスを身に付けて、踊るように僕の前に現れた。いつものように極端に短いスカートではなく、膝丈だ。ところでそのドレス、ひっかかる胸もないのになぜ落ちないんだ?


「慣れてないの? 天海グループの人間なら、この程度は茶飯事かと思っていたわよ?」

「父はそうかもしれないが、僕は出席しないんだよ。いや、させてもらえない」

「へぇ……子供のうちから慣れておかないと、後々大変じゃない?」

「今それを思い知っているよ……」


 僕がこういうのに慣れていないのは、僕が本当は一人っ子ではないからだろうな。父が主催するパーティに出るとすると、兄弟全員が出ないといけない。だが、僕らは自分に兄弟はいないと思わされているからそれは出来ない。じゃあ1人だけ出すかと言われれば、そいつが果たして跡取りになるかも分からないんだから、それは不可能で。


 要は、跡取りが確定しない限りは出られないということだ。


「ま! 今日はあたしと2人きりのパーティ! 固いことは言わないから、楽しんでね? まずは乾杯しましょ?」


 桜子が言うが早いか、僕と桜子、それぞれに給仕が近付いてくる。彼女は未成年だからノンアルコールだろうが、高価なグラスと浮かぶ泡のおかげで、見た目には分からない。こういった場所に馴染むために普段からそうなのだろう。僕もお酒は得意じゃないから、彼女と同じものを取った。


「じゃ、乾杯しましょ」

「あ、ああ」


 彼女はグラスの淵を、僕の持つグラスの中程に軽く当て、僕が一口入れるのを見てから同じく口を潤した。


「好きなものを食べなさいね? どうせ全て食べきるのなんて無理だから、残ったものはスタッフが美味しくいただきましたーってなるだけだし。迷うなら、苦手な物を教えてくれたらあたしが見繕うか、シェフのオススメ持ってくるし」


「あ、ありがとう」


 乾杯だけは形式的に行ったものの、僕はまだ付いていけていない。パーティに慣れていないから、というのもあるが……


「桜子。まずは今、なんでこんなことをしてくれているのか、ということから話してくれないかな?」


ここで止まっていたからだ。


「当然じゃない。未来の夫を迎える初めてのおもてなしだからね」

「は!?」


 未来の夫!? 菜夕の時の反省を活かして、桜子を選んだような言動はしない……そう注意していたのにか!? いや、そもそも、僕はまだデスゲームがお見合いのためだった、とも話していないんだぞ……?


「あ! といっても、あなたにとって、あたしはひとつの候補に過ぎないってことも分かっているわけよ? けどあたしとしては、OKだからね」

「は!?」

「リアクションのバリエーション、もっと増やした方がいいわよー?」


 からかっているのか、こいつは!?


「“あたしとしてはOKって”……僕は君に気に入られるようなこと、何ひとつしてないと思うんだが?」

「まあねー。けど、明樹斗と戦ったゲーム、あったじゃない?

 あたしは元々、これが誰も死なない嘘のデスゲームだとは分かっていた。けど、明樹斗のゲームは色々おかしかったから、それなりにドキドキもしたわけよ。それが吊り橋効果になったというのもあるし……明樹斗を負かしたあなた、結構カッコよかったわよ?」

「は!?」


 ……3度連続で同じリアクションをしてしまった……。


「まあ驚くのも無理ないわよねー。それじゃお料理の前に、あたしの話を聞いてくれるかしら? もちろん食べながらでもいいわよ?」


 食べられるわけないだろ。


「まずね。今回あなたから送られた、主催者は誰でしょーかゲームなんだけど、これに関していえば、あたしはチートだったわね。何せ……デスゲームが開催されてすぐ、天海関係が主催しているお見合いだって知っていたからねー。いえ、知っていたというより、気付いていた、が正しいのかもしれないけどね!」

「は!?」

「今のはわざとね? 4連続って」


 わざとじゃないんだこれが……。


「そもそも、あたしも19だし、冴島の一人娘だし……縁談の話も多かったわけよ。でね。あなたのお父様とうちのお父様は親しかったみたいで、天海家との話も出たわ。とんでもない話だけどね、天海グループと冴島グループの子供が結婚するなんて。だから断る方向で進もうと思った矢先……デスゲームの招待状が届いたわけよ。

 車が爆破されたことには驚いたけど、天海家の土地だったし、次のゲームも天海のテーマパークで……って、天海と関係ないはずないじゃない? しかも女性だけ26人もって。あたしもたくさんの縁談が来てうんざりしていたことを考えると、もしかしたら天海家で、あたしがお見合いするはずだった相手もうんざりして、そんな面白いことを始めたんじゃないか……そう思ったわけよ!」


 26人の女は、まだ候補として挙げただけで、詳しい話は伝わっていないと聞いていた。けど、さすがに冴島グループの一人娘とあっては先に話がいっていたということか。


「そうだとしたら、断ろうとしたお見合いだけど、付き合ってやってもいいかなって思ったわ? だって、お見合いが嫌でデスゲームで絞りこみするぞ! っていったいどんな発想よバカじゃないの!?

 でも……超面白いって思ったわけよ! だから、あたしは全力で参加してやったわ!」


 人差し指を立ててウィンク。これまで勢いの良いロリくらいにしか思っていなかったけど、ものすごく可愛げがあるな。


「もっとも、今のはなんの証拠もない、ただの推測だったわけだけどね。それでも、あたしはあなたが……明樹斗に立ち向かったあなたが主催者ってセンにかけたわけよ。あなたを呼びよせてハズレだったら、まあそこでサヨナラってことね。主催者のクセに、恐らく乱入者である明樹斗の前に出ることも出来ない腰抜けってことで」

「さっぱりしているな、君は」

「うじうじしていてもやっていられないでしょ! だったら、さくっとずばっと、ね♪ で? 今言った理由からあなたが主催者だって思ったんだけど……当たっているのかしらん?」

「正解だよ。というか、最初から確信していたから、こんな場所に僕を呼んだんだろ? 本当に君には、最初に壁ドンされた時から振り回されっぱなしだ」


 慣れない状況で、どんどん桜子に遅れを取り頭が回らなかったけど、桜子はいつもと変わらない。そんな彼女のおかげで、やっとちゃんとしたことが言えた。もうあのリアクションは取らない……。


「で。あなたはデスゲームなんてものをやって、あたし達を巻き込んでくれたみたいだけど……気になる子はいたのかしらん?」

「いや、それは分からない。こうして最後のゲームを行い、それをクリアした奴と会ってから考えようとおもっていたからね」

「……ったく。そこは嘘でも、冴島桜子ちゃんです☆ って言わないとダメじゃない!」


 桜子は僕に人差し指を向け、何度もつついてくる。僕が後ずさりすると、そのまま桜子に壁まで追いつめられてしまった。これは……。


「あら? いつかみたいに壁際こんにちはー。この体勢、あたしにドキっとしないかしらん??」


 2度目の壁ドン体験。次こそ僕がやる側になりたかったのにな……。


「君みたいなロリっ子にされても、元気な小学生ですねー、くらいにしか思わないよ」


 だから、桜子の見た目をイジってやる。本当に、ランドセル背負わせて通学路を歩かせたら、その辺の子供と区別がつかないだろう。


「ま、あたしは若く見られ勝ちだからね!」


 あれ。桜子のことだから、ぷりぷり怒って僕を解放してくれると思ったのに、相変わらず壁に追い詰められたままだ。それなら……。


「若く見られるのもいいが……男のロマンたる胸、君のはどこにあるのか分からないんだけど」

「触ってみれば分かるんじゃない? はい、どーぞ」

「さわ……!? さ、触ったところで見付けられないだろうな」

「需要もあるみたいだけどね? ロリコンの人達に。あたし19だから、合法ってやつね」

「そんな変態どもに囲われて嬉しいのかな?」

「好きだって言われることもあるけど、そりゃ嬉しいわよ。好かれて嫌なのはストーカーだけ。けど今のあたしは……飛鳥にそう言われることが、一番嬉しいかもねー?」

「は!?」


 あ。またやってしまった……。


「ふふん、あたしに口で勝とうなんて、一生かかっても無理なわけよ! あたしは自分の見た目にコンプレックスなんてないし、散々イジられてきたから場慣れもしている。それに結局自分は自分なんだから、今ある材料でどうにかするクセをつけておかないと、後々苦労するからね!!」 


 急に人生の教訓みたいなことを言いだし、壁ドンから両手を腰にあてて胸を張る体勢に切り替えた桜子。けど、今ある材料でというのは、その通りか。


 さっき桜子は、細かいことは気にしない、というようなことを言っていた。だけど、冴島グループの令嬢である以上、普通でいられないことも多かったはず。そこで悩み苦しみ、行き付いたのが今の桜子ってことか。なんでも全力で、楽しく面白く……物事の考え方を変えたってところなのかな。……なんて、それは僕の想像でしかないけど、同じように金持ちの家に生まれた奴の運命、分からない訳じゃないからな。


 それにしても僕は、本当に口が弱いな……。クリスにもやられっぱなしだしな。


「さて、飛鳥。冗談みたいにまくし立ててみたけど、あたし、割とあなたに対して本気かもよ? どうする??」

「……」


 あれ? 共感してしまったからだろうか。あまりにストレートに物を言う桜子を、正面から見るのがなんだか恥ずかしい。こんな小学生みたいな奴に? 暴力的なのに? 今だって僕をからかっているような表情を向けているのに??


 そ、それに、この後菜夕にやったように、仮面の奴らが乱入して桜子を試す予定なのに、なんで未だに来ないんだ? 早くしてくれないとロリコンになってしまう!


「なーんか外を気にしているわねー飛鳥。この桜子様と2人っきりっていう状況、もーっと楽しんで欲しいわねー? だから、お邪魔になりそうな仮面の人達は、うちのSPが排除しちゃったわよん??」

「は!?」


 ……いったい僕は、何回これを言ったら気が済むんだ。


「さって! 邪魔者も消えたことだし、そろそろお料理食べるわよ! シェフ達に失礼だものね、こんなに素晴らしい料理を前に、未だいっさい手をつけてないなんて! もう、桜子ズセレクションを用意するから、あなたは座った座った!」

「あ、ありがとう……」


 菜夕の時は、デスゲームでは見られなかった一面が見られて新鮮に思った。けど桜子は、ゲームで見た桜子を、より深く見ている気がするな。


「はい! どーぞ!」


 今は、せっせと料理を皿に乗せ、あっという間にこちらに戻ってきた桜子を、もっと知りたいって気分だ。


「いただくよ」

「ええ。絶対美味しいわよー?」


 ……仮面の奴ら、乱入させなくてよかったよ。今はこの状況、桜子みたいに楽しんでみるか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!