討伐計画(2)


「これは罠か、それとも……」


 2日後。


 居場所が分からなかった明樹斗。その居場所を掴んだ可能性がある。

 見合い相手達に配布したスマホは、常に僕からしたらどこにあるか分かる……つまり、僕は見合い相手の居場所が常に分かる。

 そんな中、すでに脱落したはずの見合い相手C、和歌が持っていたスマホが、“アマミスーパー”の中にあることが分かったんだ。


 そこはその名の通り、天海グループが運営するスーパーマケット。アマレルが服飾以外も取り入れることが出来たのは、もともとこのスーパーによるノウハウがあったからだ。しかしアマレルよりもリーズナブルな商品を扱うことで差別化し、主婦や一人暮らしをしている層をターゲットに日々店舗を増やしている。


 Cの位置情報は、Cが先日のアマミューランドにおけるゲームで敗北したため、不要となり表示していなかった。だが、和歌が関係しているであろう明樹斗の登場により、表示をオンに戻したのだ。昨日は電源が切られていたのかどこにも位置情報は出なかったが、奴がそれを入れたらしい。僕ら見合い相手達にメールを送っていないか、確認するためだろうか。

 しかし、位置情報がそこに明樹斗がいると示しているのに、スーパーの監視カメラを見ても、その姿は確認出来なかった。


「やはりまず、使用人を向かわせるべきでは? 客を装えば明樹斗も気付かないはずです。いえ、そもそもそこに明樹斗がいるかどうかも分かりませんし、せめて確認を」

「それはダメだと言ったはずだ。どうしても見合い相手が行くより先に、明樹斗がいるかどうか確認しろと言うならば、僕が行く」

「もう手がつけられませんね、飛鳥……」


 悪いなクリス。初めてだよ、ここまで僕が本気でやろうと思えることは。だから……正直明樹斗には感謝もしているよ。


「だが、使用人を使ってひとつだけ。これから見合い相手達をあそこに侵入させるが、起こるのはバトルだ。一般客に迷惑がかからないよう、まずは外で、注意喚起してくれ。いっさい客を入れないようにしてもいい。あとは、爆発物を発見したため店外へ避難してください、とアナウンスをすればいいだけだ。一番最後には、訓練でした、と伝えるのも忘れるな」

「天海グループの信用に関わりそうですが……まあ、いいでしょう」

「ありがとう」


 よし、これで準備は整った。



 見合い相手達7人には、すでにメールを送っている。もちろん、Cのスマホ以外に対する一斉送信だ。その内容は、


『本日のゲームについて説明いたします。


<ボス討伐ゲーム>

 ・今回は司会者なし。全てメールのみでの説明となる

 

 ・当たると電撃を発するテーザー銃を使い、ボスの機能停止をさせることを目指す


 ・ボスキャラは全部で3名。本日は1名のみ出現する

 ・本日のゲーム開催場所は、添付の地図の通り

 ・本日のボスの写真も添付の通り


 ・本ゲームの勝者は、ボスを討伐出来た3名のみ。それ以外の4名は敗者となる。


 以上のようになります。また今回より、他のデスゲーム参加者に見つかってはいけない、というルールは廃止いたします。なお、拒否権はありません』


というものだ。


 ボスは明樹斗しかいないのだから当然3人もいないが、このメールは明樹斗が登場しなくても、同じようなものを送信予定だった。もし今日、明樹斗を捕らえることを成功したのであれば、明日からは当初の予定通り、使用人を残りのボスキャラにすればいいだけだ。

 当初の予定と違うのは、他の奴に見つかってはいけないというルールを消してしまったこと。本来なら、ボスを狙いつつも他の奴に見られていないか……という疑心暗鬼を生んで、ボスだけを狙うわけにはいかないという状況を作りたかった。しかし、さすがにそれをやっては、明樹斗に勝つという最大目的を達成出来ない可能性が上がってしまうからな。


 ……ま、今日明樹斗が捕まるとは、正直思っていない。だから、最終的に僕も行くべきだが、今日に関しては行くつもりはない。もし明樹斗が今日で終わってしまうようなら、僕が面白いと感じたのは間違いだった、というだけだ。



「準備、出来ましたよ」


 今日僕の部屋には、先日よりも多くのモニタが持ち込まれている。スーパーの監視カメラを映すものと、平面図に見合い相手の居場所を落とすもの。さらに、今回は見合い相手達全員に、耳にかけられるタイプのウェアラブルカメラを渡している。これでより、現場の状況が分かるはずだ。どうやらスーパーにある監視カメラの位置を把握して、姿が映らないように移動している明樹斗の位置を、より明確に知れるというわけだ。


「それじゃあ、見合い相手達が集結したら、明樹斗狩りを始めよう!」



『皆様、ゲームを開始してください』


 そのメールが見合い相手7人に届き、ゲームがスタートした。エントランスに待機していた彼女らうち、ケイと指実が率先して中へと入って行った。

 この2人が率先するのは少し意外だが、全部で3人しかいないと銘打っているボスキャラ……そりゃあ、さっさと倒してゲームをクリアしたいよな。ケイの方は相変わらず仏頂面を貼り付けているだけだから、果たして意気込んでいるかは分からないが、指実は正面を睨んでスプリンターのように走るから、ひしひしと伝わってきた。


 明樹斗の持つ、見合い相手Cのスマホだったものの位置情報は、確かにこのスーパーから発せられている。しかし、スーパーは2階建て……あくまで平面的にここだと分かるだけで、じゃあ実際何階のどの部屋にいるか? といった立体方向の位置は全く分からない。だから、ここからは見合い相手達に見つけてもらうしかない。見合い相手達も同じ位置情報を見ているから、彼女らもある程度の場所は掴めているからな。


「指実、走るの速いな……。先日の香美乃以上じゃないか? さすが陸上部」

「一般のお客様もいるので、ひどく浮いていますが」


 僕の呟きに、クリスも同じモニタを覗き込んでくる。


 とにかく行動が早い指実は、屋上までの階段を一段飛ばしに駆け上ったかと思うと、ようやくそこで止まって辺りを見渡しているようだ。屋上は空調用の室外機や受水槽しかなく、周りは緑色のフェンスで囲われているだけで、指実以外の人はいない。


「ここに明樹斗がいれば、まず一般の方に被害が及ばないので良いのですが」

「そう都合よくいってくれればいいけど、分からないな」


 人が少ないと明樹斗が隠れ易いともいえるが、こんな場所じゃ隠れ場所もない。だから、分からない。


『スマホだ』

「ん?」


 クリスにやっていた目線を、モニタから流れる声でそちらに向けた。音源は指実のウェアラブルカメラの映像からで、彼女が手に持つスマホが見えた。


 色で分かる……C、和歌に渡していたスマホ……!

 明樹斗はスーパーにはいなくて、ただ誤情報を与えるためにわざわざスマホを置いたのか? なんのために?


「え……!?」


 と。次の瞬間、指実の画面が乱れたかと思えば、床に這うような高さで、横向きの映像となっていた。


「クリス。今、見ていたか?」

「はい。一瞬仮面を被った何者かが映り、彼女を蹴り飛ばしたようです」


 昨日、桜子がいろはを蹴っていたが、そんなものとは威力が違う……指実の映像が動かないということは、一撃で気絶させられたのか。スタンガンいらずじゃないか……。まあ、昨日は不意打ちじゃなかったから、ということもあるんだろうが。


「ん? 映像が動いて……真っ暗に……?」


 指実のカメラが壊されたんだろう。幸い、指実が蹴り飛ばされ倒れた位置は、屋上の監視カメラで見ることが出来るから、改めて状況の確認は出来たが……すでに寝袋のような袋に入れられ、仮面を被った奴に連れ去られてしまった。そして、肝心の明樹斗は、やはり映っていない。


「え。う、うう……」


 そうかと思えば、今度はケイのカメラから驚いたような声と、うめき声。もっとも、感情表現が少ない彼女は、驚きもあまりに小さいから一瞬気付かなかったが。


「何だ……!?」


 ケイのカメラが映す映像は、先程指実が蹴られた後のものと同じ様子だった。

 これで2人がやられた。まだ10分も経っていないのに、だ。しかしまあ、また新たに情報を得ることが出来たよ……テストとしては、成功だ。だが、これ以上続ければ、負けるのはこちら。だから一旦撤退するしかない。


 そして、中止メールをクリスが送信した直後。


「!」


「電話、ですか? そこにかかってくるということは、見合い相手からのものでしょうか?」


 震え、鳴るスマホ。しかしモニタを見ても、僕に電話をかけている様子の奴はいない。ということは……。


「……明樹斗、か」

『ほぉ? よく分かってんじゃねぇか、この大量殺人犯がよぉ!?』


 当たり……。電話はケイからかかってきたものだが、たった今やられたばかり。ならば、その犯人からかかってきた以外に考えられない。


「まあ、デスゲームを主催するんだから、殺人犯になり得ることは否定しないよ。で? 君の狙いはなんだい?」


 こいつの目的……それは想像が付いている。直接電話をかけてくるなんて思わなかったが。


『はっ……。まあ、まずは称賛かねえ? 本来ならここで全滅しちまいたかったテメェのペットどもだが、もう誰もここにゃ来ねぇ……恐らくテメェが止めたな?』


 ペットというのは、見合い相手達のことか。酷い言い方だ。


『そこで、だ。お前、俺とゲームしねぇか?』


 ……やはりそうきたか……。


「ゲーム……ふざけているのでしょうか?」


 クリスは、僕のスマホが拾わない程度の声で呟く。ふざけていないさ、明樹斗は。今日わざわざスーパーにいることをバラしたのは、この話をするためだからだろう。勿論明樹斗自身が言ったことも目的ではあったんだろうけどな。


「ゲームか。その内容を聞く前に、なぜ僕がそんなことをしないといけないのか……それを話してくれないかな?」

『はっ。俺はこれまでの行動で、なぜテメェの邪魔をしてんのか、分かるようにしていたつもりだぜ? もしそれに気付いてねぇってんなら、テメェはその程度の奴ってこったなァ?』


 ……思っていた通りだ。僕は、明樹斗からの挑戦を受けないわけには行かない。

 なぜならあいつの目的は……天海家の跡取りになるべく、僕に確たる敗北を突き付けるつもりだからだ。つまりあいつは、僕と同じ、天海家の息子……!



 そもそもあいつが、このデスゲームに気付けた理由。これまでのゲーム……招待状を渡す時、ランド、アマレル……全て天海の所有している土地でしか行っていない。まあ、それは当然だが、そのことは天海家の人間なら簡単に気付けるだろう。

 そして、それがお見合いであることにも、少し調べれば分かる。ならば、誰がそこに参加しているかも分かるだろう。ゆえに、Cに接触出来たんだ。

 それでいて、アマレルのゲームでは易々と潜入するばかりか、逃げ出しても誰も捕まえられなかった。使用人は相当数エキストラに混ぜて配置していたから、普通にしてはまず逃げられないはずなのに。だがそこで、明樹斗が天海家の人間であると分からせられれば、使用人達は迂闊に手を出せなくなってしまうだろう。明樹斗に襲われた使用人がいなかったこともその裏付けになる。


 僕はそのことに気付くと、天海家について調べた。僕の周りにある、家族構成が分かるもの、例えば家計図なんかは当然見ているが、父の息子は僕1人しかいないように書かれている。

 だが……戸籍謄本まで偽るわけにはいかない。天海家からの圧力をかければ可能かもしれないが、僕は幼少の頃から1人っ子であると植えつけられていたし、明樹斗の件があるまでそれを疑わなかった。

 だから両親らとしても、そこまでする意味はないと考えていたのだろう。戸籍が必要な手続きは、僕はノータッチだったしな。加えて、家はあまりに大きいから、仮に同じ建物にいても気付かないかもしれないし、別の家であればまず互いに分からないだろう。


 恐らくは、1人っ子であるのだから、天海家を継ぐものは自分しかない……そういった責任感を植えつけるための、両親の策だ。

 数人の兄弟で切磋琢磨して、より優れた者を選ぶという方法もあるかもしれないが、あくまで両親は1人っ子として育てることを選んだ。これにより、怠けるものはどうせ跡取りだからと落ちていく者も出るし、僕のように常日頃から勉学もスポーツも励む者も出る。真に優秀な人間が生まれるということだ。


 その状態で、父は兄弟から1人を後継者として選択し……それが僕……。だが。明樹斗がデスゲームに勘付いて、かつ僕のように他の兄弟がいるとも気付いた……。


 そして、自分の方が優れていると証明するために、僕に挑んできたということ……!


「成程、分かったよ」

『ご納得いただけたようで何よりだなァ? んじゃ、テメェが俺とゲームせざるをえねぇってことも分かったってこったな』


 僕がしばらく黙って考えていたことで、明樹斗について分かったこと、伝わったんだろう。これまでほとんどこちらのカメラに映らなかった明樹斗が、ケイが使っていたカメラの前に現れた。ポケットに手を入れて、こちらを睨んで。


「ああ。……で? 僕は何でも受けて立つ、が……君がデスゲームに割り込んで来ている以上、それに関したものなんだろう?」

『まぁな。つってもまぁ、俺がこの前言ったことと変わらねぇ……俺を捕まえてみろや? 

 ただし、いきなり俺が出てくなんてことはしねぇ。テメェのペットは5人だろぉ? 俺も仲間を5人用意する……んだから、まずはそれを見付けてみろや。ペットを使ってなァ。こっちの仲間は、とある場所の半径2キ圏内内で、建物の中にいることとする。場所は後で送付してやる。

 その仲間を見付けられたら、俺を捕まえることも可能にしてやるぜ?』


 半径2キロか……。場所にもよるが、普通に考えたら、とても見合い相手5人だけで可能な範囲じゃない。……しかし。


「分かった。君の仲間を探すのは、こちらの5人と僕だけにする。ただ……」

『あ?』


 ならば、こちらに有利なルールをつけてやればいい。あくまで弱い立場であることをアピールすれば……。


「ゲームすることはいいんだ。僕のデスゲームを邪魔されて、君を負かしてやりたいって気持ちはあるからね。ただ……そのルールじゃ、いささか僕に不利ではないだろうか? 正直、やる前から負ける気しかしないよ。だからやる気にならない。そこで、だ。2つほど、ルールを追加させてもらえないだろうか?」

『……』


 明樹斗からの返答はない。内容次第、ということだろう。


「ひとつ目。君の仲間がいる場所は、一般人にも入れる場所、として欲しい。例えば銀行のようにセキュリティの高い場所……そこに入り込める奴が君の仲間にいれば、こちらでは探しようがない。ついでに、こちらは全員女性だから、男子トイレのような場所も遠慮願いたい」

『それは言われなくても分かっている』


 ま……これは当然だな。


「ありがとう。なら、ふたつ目だ。君の仲間と漠然と言われても探しようがない。だから、先日のアマレルの時みたいに、ゲーム当日は仮面を着けていて欲しい。代わりに、君の仲間は選んだ建物の中なら自由に動けるとする。もっともこの場合も、一般人が入れない場所には立ち寄らない」

『いいぜ? ただし……こっちからも追加がある』


 案外簡単に受け入れられたな。いや、元々明樹斗も、あっちに有利なルールを持っていて、それを提示し易くするためのものか。


『テメェらに俺の仲間が見つかった場合、そいつは退場させる。逆にお前のペットらは、俺の仲間に3回写真を撮られたら失格……俺が管理する。テメェが俺に勝たなければ、返すことはしない。つっても、シャッター3連射でアウトってんじゃ1回と何も変わらねぇ。んだから、1回撮られたら次に撮られるまでは5分の猶予を持たせる。んで、1回撮られる度に、テメェに伝えてやるから、ペットに伝えるなり好きにしろや』

「分かった、それもルールに入れようじゃないか」


 なんだ? 別に驚くようなものじゃない……。むしろ、ルールを平等にするともいえる。となれば後は……。


「ただ、互いに見付けられたかどうかの確認がし辛い……というより無理だ。

 だから、天海家の使用人を君が指定する2キロ半径内に大量に投入する。彼らを審判としよう。どちらかに加担されないように、例えば異常事態があっても、僕と君、2人から同意見が出ない限りは実行しない。先日君がアマレルに侵入した時のように、使用人を易々と手懐けられたらたまらないからね」

『そりゃ当然。んじゃ……話はこれで終わりだ。詳しいルールは、後で地図を添付する時送ってやる。んで今後2度と、テメェには電話しねぇ。っつーより……』


 そこまで言って、スマホから聞こえる声は途切れた。映像を見るに、スマホを床に投げて破壊したようだ。そうして明樹斗は、中指をこちらに立てたかと思うと、さらにカメラを蹴り飛ばしてしまった。


「やはり明樹斗は、天海家の人間でしたか。ですが、そんなゲームなんて受けてよかったのですか?」

「逆に、だからこそ受けないといけないんだよ。これを無視しては、父から見限られるかもしれない」

「……そうですか」


 クリスは電話を終えた僕に話しかけると、小さく溜息をついて、部屋から出て行った。何か様子がおかしいというか、いつもよりトゲのある言葉が少なかった気がするが、仕方ないな。僕がこっちに集中し過ぎているから、口出し出来ないんだろう。いや、出来るがしない、かな。やはりクリスは優秀だ。


 ……けどクリス。僕は明樹斗よりも優秀だと証明することで、君を驚かせてみせるよ。



 さてそろそろモニタを片付けるか。


「……途中終了なんて……そ、そんなルールなかったと思うです……」

「ま。なるようになるでしょ」


 そうしてモニタに手をかけた時、そこから声が聞こえてきた。香美乃と菜夕の会話のようだ。ウェアラブルカメラで音声を拾っていることは、2人とも分かっているはず。って、香美乃も菜夕も、エントランスから動いていないじゃないか。香美乃は分からないでもないが、菜夕……最低限スーパーの中を回って観察くらいしそうなものだが。


 ……まさか勘付いているのか? イレギュラーが起きていることに。だから、あえて何もせず様子見をしたということ。確かに、突如同じ見合い相手に見つかってしまってはならないというルールを消したことや、司会も用意せず進行するなんて、違和感を与えたかもしれない。


「他の奴らはどうだ……?」


 ならばと、別のモニタにも目を移す。最初に目についたのは妃世子。なぜなら、


「あいつまさか、ずっと試食コーナーに……?」


鉄板に置かれたウィンナーを頬張っていたからだ。

 団子以外もいけるのか……。彼女なりの直感で、このゲームへの参加を様子見しているのかもしれないんだけどな。


 残りの、桜子と友利の行動は似ていた。最初はケイの少し後ろで様子を伺っていて、指実が入れられた袋を抱えた男が、上から降りてきたのを見た時、踵を返していた。上に行くのは危険だと察知したんだろう。


 特に友利は、男の顔を凝視していたように思う。昨日のゲームでそいつの顔を見て覚えていたのかもしれない。その男は今仮面をしていないが、昨日だって最初からそれをつけていたわけではないだろうしな。そんな奴が、やたら大きな袋を抱えて駆けて行く……友利が避けるのは当然だ。


 一方の桜子は、正直意外だった。指実は速すぎたので遅れをとったとしても、先陣を切っていってもおかしくないと思っていたのに。だが今思うと、桜子も大胆な行動を取れはすれど、ランドの時もアマレルの時も、まずは辺りを歩いていた。菜夕と違って細部まで見ている感じではなかったが、自分の取るべき行動を明確にしてから策に移っていたんだな。


 残った5人は、各々これまで生き残ってきただけの理由はありそうだ。どう使うかは、僕次第……か。



 翌日。


 明樹斗の予告通り、奴からメールでゲームのルールが届いた。


『○基本ルール

  ・飛鳥の5人の見合い相手が、明樹斗の仲間及び明樹斗を捕まえることを目指すゲーム

  ・達成で飛鳥の勝ち。見合い相手が全滅、もしくはタイムアップで明樹斗の勝ち


 ○ゲーム日時等

  ・ゲームは明日、木曜

  ・制限時間は6時間


 ○明樹斗の仲間について

  ・仮面を被る

  ・一般人でも出入り可能な建物を1人1つ選び隠れる

  ・選んだ建物内での移動は可能だが、建物外に出ることは出来ない


 ○捕獲について

  ・見合い相手が明樹斗の仲間を見つけた時、タッチをしたら捕まえたとみなす

  ・捕まった仲間は飛鳥が管理する


  ・見合い相手は、明樹斗の仲間に3度スマホで写真撮影をされた場合脱落

  ・撮影した写真は本部に送信して確認が必要

  ・1度撮影した後5分のスパンが必要である

  ・捕まった見合い相手は明樹斗が管理する


 ○ボス:明樹斗について

  ・5人の仲間が捕らえられた後現れる

  ・一般人が入れないような建物に入ることも可能とする

  ・ただし、上記の場合は、その建物はゲーム中のみ入ることが出来るようにしてある

  ・引き換えに、明樹斗捕獲は、見合い相手の目視によるものとする


 ○その他

  ・ゲーム中、使用人は審判となる

  ・互いの専属メイド以外、利用することは出来ない

  ・ルール外の事態が発生した際は、双方の合意の下実行するとする』


 それは、あんな大学サボリ魔のような見た目の奴からは、考えられないくらい丁寧に書かれていた。だがあいつも天海家の人間……文字として残すことの重要性は理解しているということか。こうして文字にすることで、言った言わないを防ぐことが出来る。


 そして、捕獲に関する内容……。こちらは1度のタッチ、あちらは3度の撮影……撮影は姿を隠しても実行出来る分有利だが3度必要で、相手の至近距離に行かねばならないタッチは1度でいい……バランスも考えているということか。


「で。肝心の開催場所は、どのようになっているのですか?」

「ああ、これだ。アマビルディングを中心にしているようだ」


 メールの添付資料として、明樹斗が言った半径2キロ圏内の地図がついている。


 それが示すのは、うちが数年前に買収した、30階建てのアマビルディングが中央に示されたものだった。

 そこはオフィス街7割、歓楽街3割といった、ちょうど境目になるような場所。天海グループの拠点はおおむね郊外にあるため、駅周りのオフィス街には天海関連の建物はあまりない。だが、歓楽街にはアマレルを含む天海関係の施設も多い。アマレルの周りには、ライバルとなるデパートも数軒あり、激戦区となっていた。


「やはり2キロ圏内ともなると、かなりの建物がありますね。たった6時間の中、たった5人で捜索ですか」

「問題ない。あるとすれば、最後に現れる明樹斗の居場所くらいなものだ」


 正直言って、見た目と裏腹にこのゲームはぬるい。だからこそ最後の詰めが重要で、明樹斗もそこを狙っている可能性がある。だから、その準備は怠れない……。


「さて、見合い相手達にもメールを送ろう。もちろん明樹斗からのメールをそのまま転送するわけにはいかないけどね」

「また明樹斗をボスとして、見合い相手と飛鳥のみを使って討伐を目指すゲームですか。いいかげん、プライドなんてコーヒーミルで砕いてしまいたいものです」

「僕からプライドを取ったら何が残る?」

「はい、何も残りません」

「……」


 クリスに言わせたのは僕だが、ストレートに言われるとミジメな気持ちになるな……。まあ、これでクリスも口出し出来なくなった。


 そして、見合い相手達に送った内容は、


『特別ゲームを開催します。明日12時より、ボス討伐ゲームを開催します。制限時間は6時間です。ボスは、5人の敵を捕らえた後出現します』


という書き出しから始めた。明樹斗の5人の仲間を“敵”として、敵をタッチすれば捕まえられること、逆に3度撮影されればこちらがアウトで、撮られた場合は知らせることなど、基本的なことは明樹斗のメールと同じ。


 違いがあるのは、ゲーム中に僕からヒントを出すということだ。例えば、敵は仮面を被っている、敵はこの建物にいそうだ、というものをメールで送っていく。なんのことはない、これは僕やクリスが状況から推理して導き出したものを伝えているだけ……確たるものではない。だが、これをしないとあまりに非効率で、6時間で明樹斗まで辿り着くのは不可能だ。


 そして何より見合い相手達にとって重要なのは、


『ゲームのクリア条件は、①敵を2人以上捕らえること、②ボスを捕らえること、のどちらかを満たすことです』


というものだ。こちらは5人、敵も5人の中、2人以上捕らえるのはなかなか難しい。であれば、②に集中するはずで、それこそ僕の狙いだ。


 そうして、


『明日もゲームにはウェアラブルカメラを使用していただくため、昨日使用したカメラを、ゲーム中はご着用ください。加えて、ヘッドセットで連絡を取れるようにしますので、郵送されるものをご確認ください。以上』


そんな文面でメールは締めた。


「とりあえず、準備はこんなところかな。クリスは、監視カメラの映像がきちんとモニタで見られるか、再度確認を頼む」

「天海家が関係している監視カメラ以外は難しいでしょうが、出来る限り。で、飛鳥はどちらへ?」

「僕は、会場となる2キロ圏内、この目で見てくるよ。あ……それともうひとつ……いや、ふたつ。頼まれ事をしてくれないかい?」

「はい?」


 ゲームは明日……そこで奴との決着をつける。


 僕から天海家を継ぐ権利、奪わせはしない。あいつには絶対負けない……。明樹斗……僕を初めて本気にさせたこと、後悔させてやる!



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