第3章 討伐計画

討伐計画(1)


 アマレルでのゲームから、数時間。


 そこにいた使用人達を呼び寄せて状況を確認したが、分からないことばかりだった。

 あの明樹斗と名乗ったイカつい男を直接見た奴は2人……だが、遠巻きに見ただけで会話などはいっさいしていないという。じゃあ見合い相手のように、気絶させられて連れ去られたのかと言えば、それもない。全員戻って来ていた。


 明樹斗についての情報はいっさいないということ。


「……クリス、昨日のアマミューランドでのゲーム、録画を見せてくれ」

「なぜ今?」

「早く」


 だが、ひとつ思い出したことがあり、昨日のゲームを確認することにした。


「こいつだ……」


 僕は昨日、明樹斗を見た記憶があった。見合い相手C……渡辺和歌の彼氏面をしていた、あの男。和歌はあのゲームで敗北しているが、それは桜子の罠にハマったからだ。和歌は、女しかいないデスゲームだから、男は嘘を吐かないと考え、男と交渉していたがそこを突かれている。


「ん? こいつ……」


 映像の中で、明樹斗が1人の男を指差し、和歌が交渉するように勧めているのが分かった。その男こそ、桜子が利用したキノコヘアーの奴。どうやら男と交渉すべきだと明樹斗が考えたようだ。

 だが、結果は和歌の敗北……それを導いてしまった明樹斗は大したことない奴ということか? いや、しかし……あいつは和歌の彼氏だったはず。にも関わらず、和歌の敗北が決まった段階では、すでに和歌から離れるどころか、ゲーム会場を後にしていた。彼女を失った悲しみなんてなく、不敵な薄笑いを浮かべているようにさえ見える。


 まさか、こいつ……。


「次からのメール、これまでのような一斉送信は止める。Cへは送らない。そこから明樹斗は情報を得て、今日、アマレルにいたんだ」


 どこかでデスゲームについて知り、それに介入するために和歌に近付いたんじゃないか? それでいて、スマホさえあれば和歌はいらないと考え、そいつを選んだら敗北だと分かっていながら、キノコヘアーの男を指定させたとしたら……。


 どうやってデスゲームのことを知ったのか、どのように和歌が見合い相手だと知ったのか、そのあたりが分からないが……それなら明樹斗の行動も納得がいく。


「何を言っているんです? こうして乱入者が出てしまった以上、まずデスゲームは中止としますよね。そして、天海家総力を挙げて、明樹斗を捕らえましょう」


 クリスは、アマレルでのゲームで使用していたモニタを片付けつつ、片手間に返答した。ま、それが当然の対応ではあるんだが……。それじゃ、ダメだ。


「いや、デスゲームは続行だ。あまりに分からないことが多すぎて、逆に分かったことがある。僕に任せろ」

「……分かりました。で?」

「明樹斗の件……このお見合いデスゲームの一環ということにする。次のゲームは君も知っての通りだ……だったら、それをそのまま取り込んでしまえばいい。準備はしてあるんだろ?」


 いかにクリスが僕をバカにしていようとも、僕が強く言えば、一応は従わざるを得ない。


 次に行おうとしていたもの……それは、小手調べのこれまでとは違う、殺し合いゲーム。うちの使用人3人をボスに見立て、見合い相手達には武器を配布してその討伐を目指してもらうというもの。もちろん、ボスらも攻撃してくるから、本格始動のゲームになる……はずだったんだ。

 だが、考え方を変えればいい。ボスが使用人から、明樹斗に成り代わっただけ、という方向に。



 今残っている見合い相手は、7人。本来なら、昨日の16人から半分の8人になる予定が、明樹斗が連れ去ったせいで1人少なくなってしまった。


 その残った7人は、またクリスがリストにしてくれている。


 ①相変わらず無鉄砲にも見えるD、冴島桜子。

 ②ゲームよりも団子に集中していそうなG、兵頭妃世子。

 ③白熊さえも逃げてしまいそうな冷たい目のL、成宮菜夕。

 ④ランドのゲームに参加していた奴を覚えていた、記憶力娘Q、巴友利。

 ⑤表情筋が仕事をしないS、剣持ケイ。

 ⑥2度のゲーム、どちらも無難な方法で勝ち抜いたY、佐原指実。

 ⑦ただの巨乳かと思っていたが、アマレルのゲームで光るものを見せたZ、影山香美乃。


 ……次のゲームで見極めよう。本当に誰が優秀なのか、ということを。


「飛鳥、準備は進めました。ですが、明樹斗をボスにするなど、危険ではないでしょうか? そもそも、彼の目的、どのようにお考えで?」

「このゲームを潰しに来ている。9割方間違いないと思っているが、まあ、あいつを見付けた時に確認するさ。少なくとも明樹斗は、見合い相手達を全滅させようとしているはずだ」


 片付けを終えたクリスは、デスクチェアに座る僕の斜め後ろに立つ。いつものポジションだ。


「は? それなら今日明樹斗は、あの2人を連行するのではなくあそこで殺すか、なんならもっと多くの見合い相手を狙ったのでは?」


 ……僕を蔑んだ目で見てくるのもいつものことだ……。


「まあ、それはもっともだな。けど、僕の考えている通りなら、あそこで全員を狙うなんてことは、明樹斗がしても意味がない。

 なぜなら、あんな不意打ちをしただけじゃ、僕に勝ったことにはならないからだ。あくまであれは誘い……ここからあいつとの、本当の勝負が始まらないとダメなんだ。明樹斗が最後に、僕を挑発するセリフを残したことからも、それが分かる。2人を殺さず連れ去ったのは、今後の交渉材料などに利用するためだろう」


 ランドのゲームで和歌を陥れたこと、アマレルに乱入したにも関わらず無傷であること、そして何よりデスゲームの存在に気付いたこと……これらから、明樹斗は頭のキレる奴だと考えられる。だが加えて、高い矜持も兼ね揃えているように見えた。だからこその、僕の推理だ。


「なんだかよく分かりませんが、仮にあなたの言う通り、あそこで明樹斗が全員を狙うことは意味がないとしましょう。であれば、次のゲームに見合い相手を明樹斗討伐に向かわせるのはやめるべきでは?」

「いや、ダメだ。明樹斗は顔を出してまで、僕に挑戦状を送りつけてきた。なら僕もそれに応じて、あくまで見合い相手と僕だけで、あいつを追い詰めないといけない。それ以外の、例えば使用人を使うなんてことをすれば、仮に明樹斗を捕まえられたとしても、それは実質僕の負けなんだよ」


 ああいえばこういうの応酬。普段だったら僕が折れることが多いのだが、今は違う。クリスは肩が上下する程大げさな溜息を見せてから、


「……成程。私がよく分からないと感じる意味が、分かりました。下らない男のプライドというやつですか」

「そう。これはくだらないものだ。だが……僕は負けない」

「まったく。初めてのワガママが過ぎて、いっそこれまで少しずつでも言って欲しかったものです」


 クリスは、今度は小さく溜息をついて、覚悟を決めたらしい。ありがとう。



 僕はお見合いデスゲームを台無しにされて腹は立っている。だが、それ以上に……面白い、と感じている!


 もともと、最初は嫌々ながら開催したお見合い、その相手達の活躍で、興味が出てきた所ではあった。そしてそれに加えて、僕自身が倒すべき敵が現れるなんて。

 ああ、そうか。僕は元々、父とクリスを見返そうとしていた。お見合い自体にテンションが上がらなったのは、張り合いがないからで……僕は、ライバルを望んでいたのか。


  君がそれに足る人物かはまだ分からないけど……なんだか燃えてきたよ、明樹斗……!

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