際立つ者達(3)


「おかえりなさい、おつかれさまです。私は飛鳥が巨乳に目を奪われていないか監視していたせいで疲れました。案の定、でしたね。ところで、私の胸も大きい方だと思いますが、そんな目で見られていたのでしょうか」

「……」


 家に帰ると、クリスが出迎えてくれて、部屋に着くまでの赤いカーペットが敷かれた大階段を上りながら話す。クリスもクリスでゲーム中は仕事があったのに、僕のいらんところだけは見ていたようだ。だが否定出来るかと言われれば、正直NOだな……。


「ですが意外ですね。帰ってくるや否や、やっぱり止めたというものかと。今からでも遅くはないですが」

「まあ、な。だが、思ったより面白かった、と感じている僕がいるよ。だから、今日の結果を教えてくれ」

「……そうですか」


 僕がそう答えることは想定していなかったのか、どこか残念そうなクリス。まあ、僕だって想定していなかったさ、そんな風に感じてしまうなんてな。


「……本日の参加者は、一般参加者を合わせて1024人。うち見合い相手は全員参加の23人でした。予想より多い人数で、ゲームは容易なものになるかと思われました……が。多すぎるがゆえに場が混乱し、同じ色の相手を正しく成立させたのは、驚く程は多くはありませんでした。

 さて、最も気になるであろう、見合い相手達の結果ですが……19名が成功、4名が失敗です。通過率約80%以上……これは高いと言って良いのではないでしょうか。脱落となった4名は、C、E、F、Oです」


 いらんところしか見ていないようで、やはり仕事は完璧だった。さすがだ。……こう素直に思ってしまうから、いつもクリスにやられてばかりなんだろうな……。


 でも確かに、もっと多く落ちると思っていたから、その通過率は驚きだ。ボールを10色ではなく、20色程にすればよかったか。


「ところで飛鳥。女性を……同じ見合い相手を指定して失敗した、EとFが落ちるのは分かります。ですが、男性を指定したC、O……なぜこの結果になってしまったのでしょう?」


 お? クリスはそこに気付いていないのか? ならばチャンスだ。


「それはまあ、少ししたら説明するよ。僕の予想が正しければ、この後それを説明しないといけない時がくるから」


 しかし、少しもったいぶってやろう。


「なら飛鳥。今日のゲームを経て、あなたが注目したいと思った方はいたのでしょうか。巨乳だから、という理由だったら私はあなたを見限ります」

「いつまでそれを引っ張るんだ……」


 そうこうしている間に部屋に着く。席について、まずPCを付けた。そこに今日のゲームの様子を録画したものを流すが、肝心な所はすでに把握している。


「さて、あなたが本日接触した方はリストにまとめてありますので、送付します。何か感じるものがあったから、その方達とお話しされたのでしょうし」


 こいつ、本当に仕事出来るよな……。

 再生していた録画をとめて、クリスからのリストを開く。そこには、今日僕が少しでも注目したり話したりした見合い相手が順に羅列されていた。


 ①C、渡辺和歌。イカつい男とカップルで参加。しかし騙されてゲーム脱落。

 ②L、成宮菜夕。ゲーム開始前から周りを観察していて、飛鳥を冷たい目であしらう。

 ③D、冴島桜子。ゲーム前に参加者を掻き分けて歩く、壁ドン金髪の貧乳。

 ④F、藤崎文香。欲しいボールの色を叫んでいた。が、騙されて脱落。

 ⑤S、剣持ケイ。無難に3番目でゲームクリアを決める、無表情な女。

 ⑥V、井坂伊佐美。ボールの色を偽り、他の見合い相手を騙して脱落させた。藤崎文香はその被害者。

 ⑦Z、影山香美乃。落ち着きのないしゃべり方で、飛鳥が巨乳に目を奪われる。男性に対してのみ交渉をしていた。

 ⑧G、兵頭妃世子。飛鳥が無様にテープ付き男子を演じていたところ、それに気付いて剥がす。男性に対してのみ交渉をしていた。ずっとお団子を食べている。


「……リストの中でもちょこちょこ僕をディスるのはやめてくれないかな……」

「事実ですから。ちなみに私としてはV……井坂伊佐美を推しますね。飛鳥もそうなのでは?」


 井坂伊佐美……和服で黒髪美人のあいつ。すでに勝利を決めた奴からボールを貰い、それを自分のボールだと偽って、他の見合い相手を潰していた。


「僕も伊佐美を推そうと思うよ」


 彼女は明らかに目立っていて、当然僕も注目していたし、他の見合い相手からも注目されているだろう。


「お、メールだ」


 振るえるスマホ。きっと来ると思っていた……。


「差出人は、参加者L……飛鳥を冷たい目で見た観察者気取りの、成宮菜夕ですね」


 クリスがスマホで確認したのを聞いて、僕も開く。

 やはり菜夕か……彼女は本当に、色々な所を観察していたからな。ゲームに参加したフリをした僕と比較しても引けを取らないくらいそれをしていて、かつ、ゲームの終了ギリギリに報告をしていた。すぐに勝利を決めることも出来ただろうに、やはり観察目的で最後まで残っていたんだろう。



 そしてさらに……彼女は理解していたようだ。今日のゲーム、アマミューランドの中だけでは終わっていないことを。



「クリス。僕達の推しは、当たっていたようだ」

「そうですね。井坂伊佐美……脱落です」


 僕達が推した彼女。僕もクリスも皮肉で言っていただけ。分かっていたからな、彼女の行動があまりに愚かで、結果脱落するであろうことは。

 今日のゲームは、あくまで同じ色を持った奴を探して終わりというだけだったが、お見合いデスゲームは終わらない。お見合いの中のルール……それは、他の見合い相手から、自分が見合い相手だとバレてはいけないということ。そのルールがある上で、菜夕からのメール……伊佐美がデスゲーム参加者だと断定したというものが来たんだ。


 その内容はこう。


『見合い相手を見つけましたので、報告いたします。

 ①本名 井坂伊佐美

 ②顔写真 添付の通り

 ③特定理由 井坂伊佐美は、他の方を騙していました。一般参加者であれば、賞金を得ることだけを考えて、他の方を騙す意味などありません。そういったことをする方がいるとすれば、他のデスゲーム参加者を早く潰しておきたいと考える方のみ』 


 ③についてはまだ続いており、スマホの1画面に収まっておらず、スクロールさせないといけない。


『また、私は最初から彼女はデスゲーム参加者であると疑っていました。ボール探しのゲームは、確認程度です。今回、ランドへの入場は、スマートフォンの画面を見せれば良いというものでした。しかし通常であれば、チケット売り場でチケットを購入しないといけないため、いきなり入場ゲートへは行かない。前売りを持っていることもありえますが、何かしら紙媒体で持っているでしょう。となれば、いきなり入場ゲートへ行き、スマートフォンをかざして入るのは、デスゲーム参加者だけ、となります。

 以上の理由から、私は井坂伊佐美がデスゲーム参加者であると断定しました』


 そうして全てを見ると、さすがの観察者といったところだと感じた。それはまさに、僕が仕掛けたトラップのひとつ。賢い見合い相手達は、一旦チケット売り場に行くフリをしたり、スマホと同時にチケットのような紙を出したりすることで、一般客と違いがないようにしていた。


「よく分かりました。家に帰るまでが遠足と言いますが、この場合、家から出るところから戦いはスタートして家に帰っても戦いは終わらない、ですか」

「上手いような上手くないような……」


 読み終わったクリスがドヤ顔を披露してくるが、僕は呆れ顔で返した。けどまあ、その通りなんだよな。ゲーム開始前……入場ゲートに入る前から戦いは始まっていた。そして、帰宅時……そこが重要だったんだ。


 菜夕は伊佐美を、自分と同じ見合い相手だと断定していた。彼女がそれだと分かった理由は、菜夕から来たメールの③の通りだし、②の顔写真は、今日ランドにいたなら容易く取れる。だが、①……あそこで伊佐美の名前を知る術はなかったはずだ。

 そこで恐らく菜夕は、ゲーム終了後に伊佐美を家まで尾行して……帰宅した時、表札か何かを確認したんだろう。1人暮らしなら玄関に名前があるか、郵便物を漁れば分かるだろうし、家族で住んでいても苗字と住処さえ分かればどうとでもなるからな。


 このお見合いデスゲーム。ゲーム中に他人を蹴落とすことはもちろん可能だが、下手に目立った行動を取ってしまえば、伊佐美のような結果になってしまうんだ。



「さてクリス。そんな伊佐美が脱落したことを受けて、先程答えなかった質問、答えるよ」

「そうですか。てっきり分からないからごまかしたものかと」

「……答えるのをやめるぞ?」


 見合いには、女しか参加していない。僕が男だから当然だ。だから男はデスゲーム参加者ではなく嘘を吐かない……が、CやOは男を指定したのに脱落となってしまった。そうなったのは、その思い込みを利用した奴がいたからだ。


「冴島桜子……こいつの仕業だ」

「ああ、金髪の合法ロリ。やたら短いスカートで、自分の考えを真っ直ぐに押し通すタイプの」


 クリスは、手の平を下に向けて胸のあたりに持って行き、桜子の身長の低さを表した後、手を90度傾けて、胸の前でストンと下ろした。合法ロリは言い過ぎだろ……いや、言い過ぎでもないか……ロリコンなら今すぐ彼女の元に集合すべきだ。


「桜子は、僕に壁ドンして“お願いがある”と言ってきた。だが僕が断ると、すぐに別の男の所へ。これ、なぜだと思う?」

「尻軽女。胸も軽いですが」

「……分かった、質問をせずに勝手に話すことにする。先程伊佐美が、下手に目立って脱落したという話をした。だが、やはり他の見合い相手は脱落させておきたいものだろう。そこで桜子は、自分が手を下すのではなく、間接的に見合い相手を落とすための罠を張った。それが、男を利用するというものだ」


 イスから立ち上がり、クリスの前へ。よし、ここでクリスを思い切り見返してやる。クリスの疑問に完璧に答えることで。


「恐らく桜子は、かなり多くの男に対して同じことをやっていたはず。その行動自体は目立つが、あくまでただ目立つだけで、それイコール見合い相手である、と、他の見合い相手から断定は出来ない。見た目上は、ただ同じ色を持っていないか交渉しているようにしか見えないからだ。

 そして桜子は、お願いを聞いてくれた男とボールを交換した。その男に、自分が渡したボールが、その男のボールだと偽って周りに公言してもらうために。その男には、賞金を分けるとでも言ったんだろう。少しだけ頭の良い見合い相手なら、交渉相手は男を選ぶ……そこを狙い撃ちにする策ということだな。

 1000人以上いるゲームで2人も落とせたんだ、いったいどれだけの男を利用したか分からないが、桜子の行動力は大したもんだよ」


 さて、どうだクリス! 今は我慢しているが、僕にドヤ顔をさせてくれ!!


「はい、ありがとうございます。正解です」

「は?」


 しかし、クリスから返ってきたのは小さな拍手だけで。


「そんなことは、当然分かっていました。ですが、もしかしたら飛鳥が気付いていないかもしれない……そんなことでは仮に結婚相手を決めても良い結婚なんて出来ない……そう思っての質問でした」


 これが負け惜しみじゃないことは、冷ややかな目を見れば分かる。また遊ばれたのか……。さすが、という言葉を送るよクリス。けど、まだゲームは始まったばかりだ。



 と。そんなあえなく撃沈してしまった最中、スマホが揺れていた。またメールが来たようだ。


「渦中の方からですよ、飛鳥」

「渦中の……桜子からか」


 開いてみると、やはり他の見合い相手を見つけたという、写真付きの特定メールだった。


軽部香澄かるべかすみ、デスゲームの参加者ね。理由は、もうゲームが終わった人からボールを貰っていたから。以上』


 なんだか、先に菜夕からのメールを見たせいか、どうもぶっきらぼうに見えるな……。要するに、菜夕同様の理由ということ。他人からボールを貰うとしたら、それはもう、他の奴を騙すためでしかない。それをしてメリットがあるのは、見合い相手達だけだ。

 だから、桜子の特定メールは成功している。その香澄は見合い相手Wで、他の奴を騙そうとするもあまり行動力がなかったため、結局自分が勝っただけで終わっていた。


「冴島桜子ですが。それだけたくさんの男を弄んでおいて、かつそこまで見ているとは。なかなかやりますね」


 メールを見終わりスマホをしまったクリスは、珍しく素直に褒める。実際その通りで、桜子には驚いている。


「ただ、あまりに貧乳過ぎて、巨乳好きな飛鳥は注目しないでしょうね」

「珍しくストレートに褒めたのに結局けなした上、僕まで巻き込むな! それに、彼女は大注目だ! 成宮菜夕と、冴島桜子……この2人が、今日最大の収穫だって思っているよ!」

「その2人、どちらも貧乳ですね。巨乳好きを隠すための隠れ蓑ですか」

「いい加減胸の話やめろよ!」


 もう付き合っていられない、クリスの舞台で戦うのはやめよう……。


「ん? さらにメールが……」

「今度は、兵頭妃世子ですねピヨピヨ。彼女のスマートフォン、お団子でベトベトになっていなければ良いのですが」

「……その心配はないかもしれない。ほとんどメールに文章がない……」


 桜子のメールは雑だ、そう思ったものだが、妃世子はさらに上で、


長谷部はせべはのん』


としか書かれていない。はのんは、見合い相手Xだから、妃世子からのメールが特定メールなら正解なのだが。まあ、ゲーム後に妃世子が、はのんを尾行していたのは知っているから、理由等が書いていなくても認めることにするか……。



 さて、気を取り直して見合い相手達にメールを送らないといけないな。送るのは、今日の結果と、明日のこと。


『本日脱落となったのは7名でした。これで残り16名となります。次のゲームは明日となっており、集合時間及び場所は添付ファイルをご確認ください。あわせて添付ファイルに、脱落した7名の無残な姿を映した写真もございます。なお、拒否権はございません』


「すでに明日の準備は出来ていますが、ペースが早くないでしょうか?」


 僕が送信したメールを確認したクリスは、まともな意見をくれた。


「それは仕方ないさ。期限は2週間しかないんだ。最初の準備で3日、招待状を渡したので1日、そして今日で1日……すでに5日経っている。それに、今日は思ったより一般参加者が多かったせいで、見合い相手どうしの潰し合いが少なく、予定外に残ってしまったからね。明日のゲームは、半分が落ちるものだからちょうどいいけどな」


 僕の返答に、クリスはそれ以上質問はしてこなかった。どうせまた、クリスにとっては想定通りなんだろうな。いいさ。



 今日僕が接触した8人のうち、すでに3人は脱落してしまった。残った5人はある程度その性質は把握したつもりだ。そして明日のゲームは、見合い相手同士の、1対1の戦いになる。だから、より彼女らのことが見えてくるはずだ。加えて、他にも光るものを持った奴が見つかるといいな。


 ……そういえば僕は、誰かを注目しているとか光る者がある奴を探すとか……いつのまにこんなことを考えていたんだ? 興味がないないと思っていた見合い相手達だが、案外面白いからな……。


 僕は今後、外に出向くつもりはないが……次に出ることがあれば、それは誰かを選ぶ時、ということかもしれない。

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