際立つ者達(2)


「いよいよいよいよいよいよもって、ゲームスタートとなりまーーす!!」

「うおおおおおお!!」


 ゲーム開始のゴングが早いか、怒号が早いか。

「お前の色何色だ!?」

「あの、何色のボールを持っていますか!?」


 そして、辺りは質問の嵐に包まれる。その行動を取っているのは一般参加者だけじゃなく、見合い相手達も何人かそうしているのが見えた。


「あ、すいません、ボールの色を教えて貰っても良いでしょうか? ……違いますか、ならあなた、いかがでしょう?」


 見合い相手Aも同じことをやっているものの、なかなか同じ色の奴を見付けられないようだ。だがその時、Aの交渉相手は必ず男。同じ様子が、GやZにも見て取れる。ただ、


「ふぇ、あ、あ、あの……ぼ、ボール、見せてもらえませせせんですか!?」


Zの方、人と接するのが苦手なのか男がダメなのか……大丈夫か、あれは?

 まあ、人それぞれか……勝ち残ったら注目してもいいかもしれない。



「さて、そろそろこっちから話しかけてみるか」


 そんなどもった巨乳のZから目を映すと、少し離れた所に、ゲーム開始前から動いていたL……成宮菜夕なるみやなゆが見える。綺麗な長髪で、パッツン姫カットだ。白いワンピースのせいか、清潔で綺麗好きな印象を受けた。彼女は壁にもたれかかって腕組みで、全体を見渡しているだけの様子。すでに何名かが同色を見付けたと報告をしている中、全く焦る様子もない。


「なあ、君のボールの色は何色かな?」

「私ですか? 私は青色なのだけれど、あなたは何色ですか?」


 僕の質問に、淡々とした事務的な回答。顔は動かさず、やけに冷たく全てを見透かすような目を一瞬だけ向け、すぐに戻してしまった。デスゲームに巻き込まれているから真剣なのか、人と接するのを嫌うタイプなのか。もし後者なら、性格に難がありそうだ……。


「僕は赤だよ、残念だ」


 それでも質問されたからには返す。もっとも、僕はボールなんて持っていないから、必ず違う色を答えるんだけどな。


「そうして見ているだけで、同じ色の人を見付けられるのかい? まあ、見付かる側にリスクがないゲームなんだから、それくらい簡単かもしれないけど」

「色だけが分かるわけでもないのだけれど」


 もう少し会話を続けてみようと思ったが、今度は一瞥もくれなかった。はいはい、僕には興味はないですよねすいませんでした。僕だって君自身に興味があるわけじゃないさ。



「すいませーーん、あたしは黒ボールを持っているんですが、同じ方いませんかーー!」

「あ……私は白なんですーー!」


 冷たい少女、菜夕から離れて会場の後方に来ると、Fが大声を出し、それに便乗したEも同じ行動を取っていた。それは、他の場所でも何人かやっているのを見たが、個別に聞くより効率はいい方法だ。というより、それがベストな方法かもしれない。……一般参加者なら、だけど。


「やあ、なかなか頑張っているみたいだね」

「え!? あなたもしかして黒ボール持ちッスか!? やったよもー!」


 とりあえず目立つ奴には声をかける方針で、F……藤崎文香ふじさきふみかに話しかけた。


「いや、悪い。黒を持っているわけじゃないんだけど……」

「えええ!? 騙された! 騙された!!」


 文香は、声も大きかったがリアクションも大きい。騙されたと言いながら身体を上下させて、ポニーテールが踊っている。

 さすがにこれ以上話していては、ただ文香の邪魔をするだけになるな。



「ん? こっちに近付いてくる奴が……」


 だから次の観察相手を探そうと、見合い相手達の位置情報を確認すると、ずんずんとこちらに向かってくる奴がいる。まっすぐ、一直線に。


「ねえ、そこのあなた!」

「!?」


 そうして僕は、壁際に追いやられ、“た!”の部分で壁ドンされていた。普通なら男が女にやるものだろそれは! 

 だいたいこの、菜夕と同じようにゲーム前から動いていた、見合い相手D……冴島桜子さえじまさくらこ。身長170と普通サイズの僕から見ても、明らかに小さい。プロフィールを見るに、19歳にも関わらず135センチと書いていたからおかしいと思っていたが、マジだったのか。あまりに明るい金髪ロング……髪の方が身長より長そうだ。

 そんな身長差があるもんだから、彼女の頭頂部は僕の胸あたりしかなく、果たして壁ドンと呼んでいいのか分からなくなってきた。彼女の見た目も小学生のように幼く、ガキに絡まれる情けない大人の図、になっている気がする。


「ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれるかしら? っていうか聞くこと確定ね!」


 それなのに、こいつは真っ直ぐ僕を見て、凛と通る声を向けた。えらく大きい目の上目遣いだから萌えないといけないはずだが、なんだか勝ち誇ったようにも見える表情のせいで全くならない。


「お、お願いの前に、なんで僕を?」

「壁際にいたぼっちを狙っているからよ!」


 要は、この体勢を取れて個人でいる奴なら誰でもよかったと……。


「生憎だけど、僕はお断りするよ」

「あら、そう。ならいいわ!」


 僕は誰の味方にも敵にもなるわけにいかないから、断るのは最初から決まっていた。けど、あまりにあっさり引いて、やたら短いスカートを揺らしてまた真っ直ぐ歩いていく。そうして、近くにいた地味なキノコヘアーの男に壁ドンしていた。ゲーム開始前も会場のど真ん中を闊歩していたが、猪突猛進というか唯我独尊というか……。


「ふぅ……」


 なんだか、妙に疲れた。とりあえず観察はストップして、報告場所に行って状況整理をしておくか。



 このゲームは、10種あるボールのうち、自分と同じ色を持った奴を見付けるというもの。一般参加者だけに限定すれば、ペアとなれる相手を見付けることがベストな方法となる。一方的に指定するのではなく、同じ色のボールを持った人を見付け、互いに指定すれば2人ともにメリットがあるから成立し易い。嘘を吐く意味なんてないからな。


 だが……そこにデスゲームを絡めた見合い相手がいると毛色が変わる。それは、この報告場所に入れば感じられるはずだ。


「同じ色の人、見付けた」


 もうゲーム開始後20分程が経つから、100人程がここに来たんだろうか。今でも長蛇の列で報告ラッシュ。見合い相手達も何人か並んでいて、丁度S……剣持けんもちケイが報告をしたところだ。それは成功していて、見合い相手の中では3番目のゲームクリアとなる。ケイは表情筋を忘れているように変化がなく、感情の起伏が乏しいように見える。だからケイについてはそう見えないが、彼女より先にクリアした2人は、血相変えて報告所に駆け込んでいた。


 ま、焦るのは分かる……先着順と銘打っているからな。だが、実は勝者の数に限界はない。あるのは制限時間だけ。そんな騙すようなことをしたのは、そうしなくては、見合い相手に対するこのゲームの目的が損なわれてしまうからだ。これは、いかに早く状況判断し、またいかに相手をハメるか、というゲームなんだ。この程度は理解していてくれよ?


 さて、その“ハメる”だが……それをしたかもしれない文香がちょうどやってきた。文香は先程、自分のボールの色を叫び、同じ色の相手を探していた。……が。その発言が正しいなんて保証はどこにもない。

 見合い相手にとって、これはデスゲームの始まり。しかし、どこまで続くか分からないもの。敵を減らさないと永遠に終わらないかもしれない恐怖を感じているということだ。でも確実に言えるのは、自分以外が全滅したら終わりということ。よって、見合い相手達が一般参加者のように、素直にボールの色を言うとは限らない。そうすることで、指定に失敗した他の見合い相手が脱落してくれるかもしれないからだ。


「ざーんねんながら、ご指定の参加者様は、あなた様とは別の色のボールを保持しておりました! よって! ご指定は失敗でございまーーす!」

「え……ええええ!? そ、そんなはずないし!? よく確認してよ!!」


 ……っと。どうやらその文香が、指定を失敗したらしい。ポニーテールが揺れすぎて吹き飛んでしまうんじゃないかという程、頭を抱えてブンブン振り回している。脱落となってしまったら、彼女が大声で言っていたものが本当か否か、関係なくなってしまったな。


「え、そんな……」


 その横では文香と同じ行動を取っていたEも、それと同じことになっている。騒ぎ立てる文香と違い、Eは静かに涙を流していた。


「ありえないでしょ! あたしはゼッケン98番の奴にボールを見せられて、同じ色だと確認したんだけど? この目で見たのに、間違えるわけないじゃん!!」

「あ……98番……私も指定した相手……けど、違ったんです……」


 ……成程、そういうことか。


 彼女らが叫んでいた自分の色は、どうやら本当だったようだ。だが、それを見て声をかけた奴に騙されてしまった、ということだろう。そもそも、同じ色の相手をEやFが見付けたということは、その相手もEやFを見付けたということで、一緒に報告に来ないとおかしいんだけどな。


 さて、そのゼッケン98番と言えば……見合い相手Vか。黒髪で和服を着た、日本美人といった印象の女……名前は井坂伊佐美いさかいさみだったな。あだ名はイサイサに違いない。

 恐らく伊佐美は、この2人以外に対しても嘘を吐いているはず。ピンポイントで見合い相手2人だけということはないだろう。嘘を吐くには、自分のボール以外のボールを持っていなければならないが、そんなものはすでに勝利を決めた奴からいくらでも調達出来る。


「あああああのあのあのあの、見付けました……です……」


 だから伊佐美を観察しに行こう、そう思った矢先。さっきも聞いたどもりすぎた声が聞こえた。見合い相手Zだ。他にもAやG……男にしか声をかけなかった連中が報告に来ていた。


「ご報告ありがとうございます。結果はー……」

「け、結果はどどどどうなんですか……!?」


 報告を承った司会が、バラエティ番組並に溜めているが、結果は聞かなくても分かる。

 A、G、Z。彼女らは全員成功だ。理由は簡単……彼女らが男としかやりとりしていなかったからだ。このお見合いデスゲームを開催するにあたり、僕が送った招待状……それを3人は、しっかりと理解して読んだのだろう。


 招待状にあった、この一文に注視して。


『ゲームには、26名の女性が参加することとなっております』


 重要なのは、女性が参加、の部分。見合い相手達が敵にすべきは、女だけと分かっているんだ。女は、伊佐美のように嘘を吐く可能性があるということ。しかし、男は必ずデスゲームには関わっていないのだから、嘘を吐く意味がない……よって、同じ色のボールを持った男を見つけた瞬間に勝利が決まるということだ。


「はわわわ……」


 それに気付いているなら、ひとまず注目してもいいかもしれない……と思って改めてZらの方を見ると、そのZが腰から崩れ落ちていった。まさか、指定は失敗だったのか?


「よ、よかったです~……」


 そっちか。

 だがなんだ? この守りたい欲というか、いっそ愛玩動物のようにしたいというか……声をかけないといけない気がするな……。


「君、大丈夫か?」

「え? あ、は、ははは、はい……です……」


 アヒル座りでペタンとしているZ……影山香美乃かげやまかみの。涙目プラス上目遣いで、僕に何か訴えかけるような表情。上目遣いってのは、やっぱりこうでなくては。それでいて、2つの短めのおさげを前に持ってきて両手で握っていて……庇護欲製造機かこいつは。


「立てるかい?」

「あ、はいです……」


 僕の手を取って、立ち上がる香美乃。その拍子にあまりにメロンな胸が思い切り揺れて、視線を完全に奪われたが即効で引っぺがした。さらに、タブレットPCと思われるものを胸に抱くように持つもんだから、より強調されていく。……結局そこに視線がいってしまっているじゃないか!


「そ、それじゃ、僕はまだ同じ色の人を見付けていないから行くよ」


 このまま、わがまま果実を目の前にしていると、後でクリスに何を言われるか分かったもんじゃない。そう思って立ち去ろうとすると、


「あー、お前ー」


声が聞こえたのと同時に、服の後ろを引っ張られた。


「はい?」

「あー、いきなり声かけてゴメンなー。背中にテープみたいなのが付いてるぞー?」


 そして、背中に手を伸ばしたかと思うと、透明なクラフトテープの切れ端を手にする。


「あ……ありがとう」


 たぶんそれは、さっき壁ドンで壁に押し付けられた時に付いたんだな……。


「お前白いワイシャツだから、目立たなくてよかったなー。黒い服着てたらえらい恥じかいてたぞー? んじゃま、アタシは消えるわー」


 そうしてそのお団子ヘアーの女は、足早に会場を後にする。こいつ、さっき勝利を決めた見合い相手Gの兵頭妃世子ひょうどうひよこだ。お団子なのは頭だけじゃなく、口にも串団子をくわえていて、手にはさらにそれが入ったパックを持っていた。ピヨピヨしそうな名前だが、しゃべり方も行動もえらくおっとりというか脱力したというか、変わった奴だったな……。



「な、なんでですか!?」


 そんな、妃世子の背中を追っていた時。

 報告した1人の女が、係員に怒鳴っているのが響いて来た。彼氏連れだった、見合い相手C、和歌だ。明らかに狼狽していて、同じ色の相手を指定したつもりが失敗したんだろう。


「私はボールを見せてもらったんです、確かに同じ色でした! 何かの間違いじゃないですか!?」


 なんだ、また伊佐美の被害者か? 何人も脱落させるとはなかなか……いや、そんなことに引っかかる方がバカなんだ。ただ交渉する相手を男にすればいい、それだけのゲームなんだがな……。


「私は、男性で同じ色の方を見付けたんです! ゼッケン7番! このゲームは26人の女性で行っているんですよね? だったら……。え? あの、何するんですか!? やめて、やめて……死にたくない! 死にたく……」

「何!?」


 和歌は、漏らしてはいけないこと……お見合いデスゲームのことを一般の人にも知られそうなことを言い始めたため、使用人に連行された。

 だがあいつ、なんと言った? 交渉相手は男……男はお見合いには関係ないんだから、ただ賞金を得るために嘘を吐くはずは……。愉快犯のようなものか? そのゼッケン7番というのはいったい……。


「……!」


 それは、地味なキノコヘアーの男だった。そうか、そういうことか……。

 その後、見合い相手Oも、和歌と同じく男を相手取ったにも関わらず、報告は失敗に終わっていた。Oが言う相手は7番ではない男……ならば、いったいどれだけの男に仕込んだことやら。



「ん……今ので最後か」


 そうして、CとOがそれぞれ挙げた男を確認した後に報告場所に目を戻すと、菜夕が報告したところだった。彼女はゲームをクリアしたようで、これで見合い相手は全員ゲームを終えたこととなる。

 それならば、もう僕がここにいる必要はない、帰るか。


 ……もっとも、このゲームはまだ、本当の意味では終わっていないんだけどな。


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