第2章 際立つ者達

際立つ者達(1)


「今日は土曜ですよ? アマミューランドはあまりに人が多いのでは?」

「だからいいんだ」


 アマミューランド。“天海”と“アミューズメント”を掛け合わせた単語を用いた、テーマパーク。うちの会社はその業界でトップだから、土日祝日に限らず客足は多い。招待状を配布した翌日となる今日、その場所でゲームを行う。


「いいからメールしてくれ、クリス」

「はいはい。なんだかんだ言って、興味が出てきたのですか? そんなにやる気を出して。やめてしまえばいいものを」


 僕が原動力にしているのは、見合いそのものじゃないからな。


「今回のゲームの内容を見るに、本格始動と言ったところですね」

「バカな。こんなものはまだ、小手調べでしかないさ。ただの前哨戦……まだ人数が多いから、単なるミニゲームだよ」


 ゲームは、アマミューランドの一角、イベント会場で行う。そこに参加するのは、デスゲームに参加する23人だけではなく、一般参加者も含んだものだ。詳細なルールは会場で説明することとして、クリスが送ったメールは、


『本日14時に、アマミューランドイベント会場にお越しください。ランドへは、本メールを入場ゲートでお見せいただければご入場出来ます。なお、拒否権はありません』


というだけ。最後の一文が何を意味するかなんて、説明するまでもないだろう。


 デスゲームと銘打っているのに直接的な殴り合いをしないこと、見合い相手達は意外に思うだろうか? だが、こうやって頭を使うゲームでないと意味がないんだ。ただ殺し合いをさせる……その勝者なんてただの脳筋。僕が興味を持てるとすれば、優秀な頭脳を持った女性だけなんだから。


「しかし、なぜ一般参加者までを? まさか、今いる23名以外にも対象を増やそうというのですか? どれだけ女の敵になれば気が済むのでしょう」

「クリスはどれだけ僕の敵みたいな発言をすれば気が済むのか」

「あら。私は世界の誰よりも、飛鳥お坊ちゃまの味方ですよ?」

「お坊ちゃまなんて初めて言われたわ」


 まあ、なんだかんだ言ってクリスがいないと出来ないことも多い。いてくれないと困るからな。たぶんそれをクリスも分かっているから、腕組みで思い切りこちらを見下しながら言ったんだなこの野郎!


「一般参加者もいる理由は簡単だ。僕もそのゲーム、参加するからね。見合い相手は全員、データとしては見ているから、名前はもちろん出身や趣味までインプットしている。けど、やはり実際に会ってみないと分からないことが多いからな」

「あら。やはり私がお見せした、巨乳の方に会いたいのだと見受けます」

「違うわ!」


 クリスを出し抜くには、ゲームの中で、見合い相手達の行動を先読みして驚かせればいい。だからまずは直接接触して、その特定を見極めるんだ。


「ちゃんとハンカチは持ちましたか? いってらっしゃいませ」


 僕が部屋から出ると、クリスがいつものように深く頭を下げつつ、僕を見送る。たぶん顔を上げれば、また僕を見下したような顔になるんだろうな……。



「やって参りました、賞金1万円を、条件を満たした方全員にプレゼントするビーーッグイベーーーンツ!! ゲーム開始は14時ですので、そこの方、ああそこの方も、まだまだご参加可能ですよーー!」


 ランドの前に着くと、早速聞こえた大ボリューム。今回のゲームのために用意した司会者が、スピーカーを通して話す声だ。クリスの話では、司会者はサングラスにスーツで、どうしてもかつてのお昼を連想させるらしい。


 このランド、小さい頃親に連れられてよく来たっけ。忙しすぎる親が、唯一連れてきてくれる場所。今思うと仕事も兼ねてだったんだろうが、思い出が強すぎるな。中心にそびえるアマミューキャッスルには毎回必ず、来てすぐと帰る直前に入っていた。渓谷をかけるようなジェットコースターは、親は苦手みたいだったけど僕が乗りたがるから、毎回グロッキーになっていたな。新しいアトラクションや建物が出来てかつてと風景は違うけど、僕から見たら何も変わっていない、僕が知っているランドだ。


 ……っと、今は感傷に浸っている場合じゃない。


 入り口ゲートの前でしばらくいると、何人かの見合い相手を見付ける。スマホをかざしてすぐ入る奴が多い中、あれは見合い相手Z。チケット売り場の前をうろついている。見合い相手であれば、入場にチケットはいらないのに。……Zといえば、クリスが巨乳ですよと言っていた奴だったな……。


 チケット売り場からまたゲートに目を戻すと、今度は見合い相手C……渡辺和歌わたなべわかがいた。こいつ、メガネで大人しそうな風貌なのに彼氏連れじゃないか。しかもお相手は、金髪にシルバーネックレスのやたらイカつい奴。デコボコ過ぎてあれを見ていたら躓きそうだ。


 その2人の後に続いて入場ゲートをくぐり、イベント会場に入ると、人人人。木を三つで森みたいに、人の多さを表現する漢字があったとしたらまさにそんな状態。今日このイベント会場で行うのは、デスゲームに関連したものだけ。だから一般の人もそれ目的でここにいるはずだが、すでに1000人はいるんじゃないか?


 ここはパーティ会場的な作りで、赤い床に、白い壁、テーブルとイス。このランドの、室内にあるイベント会場で、最も大きな場所だ。だからこの人数でも収容出来ているが、他の会場を使っていたら入らなかったかもしれないな。賞金は1万円程度だし、そもそもランドに来た客はアトラクションを楽しみたいはずで、こうも集まるとは思っていなかった。まあ、その分僕も、紛れ込み易くなったわけだが。


 そして数分後。


「ただいまをもちまして、ゲームの参加申し込みを締め切らせていただきます! そして早速! ゲームの説明をさせていただきますので、皆様こちらをご注目くださいーーい!」


 舞台上に司会が立ち、マイクがあるのに通さなくても全体に響き渡るほどの声をあげると、会場にいる全員がそちらに注目した。


「ここで行うゲームは、実に簡単なものです!」


 司会はルール説明をしつつ、背後のスクリーンにプロジェクターでルールを照射する。


<同色探しゲーム>

 ・自分と同じ色のボールを持った参加者を探すゲーム


 ・ルール説明後、1人1つ、ボールと、番号が書かれたゼッケンを配布する

 ・参加者が持つ色は配布された時点で決定している。交換しても無意味

 ・ボールは10色

 ・同じ色を持った参加者を見つけたら、係員に相手のゼッケン番号を伝える

 ・同じ色だと確認出来たら1万円獲得

 ・回答権は1度のみ。回答後、賞金獲得をしたか否かに関わらず退室する


「と、このようなっております!!」

「おおおおーーー!!」


 司会が言い終わるが早いか、会場には熱気が立ち込めすぎて熱帯になりそうだ。

 しかし、そんな中でも……


「ぜ、絶対負けられない……負けない……負けない……!」


僕のすぐ近くにいる見合い相手Eは、寒帯にいるかのように顔が青ざめていた。彼女だけじゃない、僕から見える範囲にいる見合い相手達もそう。それは当然で、何せ僕が、ルール説明の最中にまたメールを送っていたからだ。


『このゲームで勝者となれなければ、そこであなたのデスゲームは終わりです』


 とな。僕がメールを送る前から察していた奴も多いとは思うが、そうじゃない奴は参加者Eと同じような反応をしている。


 ところで、これだけ一般参加者が多くても、僕が見合い相手を認知出来ているのは理由がある。見合い相手達に配布したスマホが、位置情報を発信しているからだ。もちろん、何か操作したところでそれは解除出来ないし、そもそも見合い相手達には知らせていない。


「皆様、ボールとゼッケンは受け取りましたでしょうか? ゲームは10分後から開始され、制限時間は1時間となっております! 先着順ですのでお早めに! なお、この会場はカメラが至るところに設置されております。ですので皆様、10分後に私が宣言しますまで、何もしませんようお願いいたします!」


 そこまで司会が語ると、ものの見事に静まり返る会場。……バカしかいないのか? カメラがあると言っただけで、それ以上は何もない。つまり、始まるまでじっとしている必要なんてないんだ。だいたい、容易に1万円を獲得出来るゲームを開催したんだ、多少の不正なんて目を瞑るに決まっている。

 やはり、いきなり言い渡された見合いなんて、大したものじゃない……。別方向にやる気を見出したが、この状態じゃとても……。


「ん……」


 そんな時。見合い相手の中に動き始めた奴がいること、位置情報を確認して気付いた。

 これは参加者L……会場を壁沿いに歩きながら、全員の様子を伺っている。配布されたボールは、ピンポン玉程度の大きさだから隠すのは用意だけど、子供はそんなことをしない。他にも隠していない奴もいそうだから、10色と少し種類の多いボールでも、Lと同じ色を持っている奴を探すことも難しくはないだろう。


 そして他にも、動いている奴がいる。金髪がやたら目立つあれは、見合い相手D。Lとは逆に、会場の中心をモーゼのように割って歩いている。目線はまっすぐ正面を向いたままだから、ボールを探っているようには見えないが……さて、何を見ているんだろうな。


 今の所、僕が直接見られて動きが分かる見合い相手達はその2人くらいだが、位置情報を見る限り他にも動いている奴はいる。そこは、録画映像でチェックするしかないか。


 とりあえず、まだ彼女らを見限るのは早そうかな。

 さて……そろそろ、ゲームスタートだ!


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