お見合いデスゲーム

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お見合いデスゲーム

第1章 26人のお見合い相手

26人のお見合い相手

「なぁクリス。僕はこの21年間で、一度でもワガママなんて言ったことはあったか?」

「いえ、ありません。飛鳥あすか

「じゃあ今回、初めて言わせてもらう」


 僕はそうして、息を思い切り吸い込んで、


「2週間で26人とお見合いして結婚相手を選べってどういうことだぁーー!」


思い切り吐き出してやった。


 僕は天海あまみ家の一人息子として、父の方針に従って来た。だけどそれは、ただ盲目的に行動していたからじゃない。父が正しいと、そう思っていたからだ。天海家は一流企業を代々運営してきて、僕はその跡取り……そのための父の方針だと、ね。


 僕が好んで身に付けているブランド物の白いワイシャツだって、目の前にしているハイエンドPCだって、僕には大きすぎるベッドにクローゼットに抱えるこの部屋だって、クリスを始めとする使用人達だって……言い出したらキリがないが、父あってのもの。そんなことは分かっている。


 けど……なんだこれ!?


「どういうことも何も、そのままの意味ですが。しかし、飛鳥が乗り気でないのでしたら、私からご主人様にお断りを……」

「待て待て待て待て!」


 クリス……久寿川くすがわクリスは、えらく丁寧な字で予定が書かれたメモ帳をしまうと、部屋から退出しようとした。


 クリスは僕の専属メイドで、いつも僕の数歩後ろに立っているか、ついてくる。が、どうにも僕を小バカにしている。今だって、僕が父からの要求を飲まない訳にはいかないことは分かっているのに、わざとそうしているんだ。

 背が高くて髪が長く綺麗で胸が大きい上に、フランス人形のように整った顔立ち。そんな世の女性達全員を敵に回しそうなほどの存在なのに、さらに実家は金持ちのお嬢様らしい……なぜメイドなんてしているか分からないが、優秀なので文句なし。完璧な奴ってのがいるなら、間違いなくクリスだと、街中で叫んでやれるな。ひとつツッコミを入れられるのは、ハーフみたいな見た目と名前なのに、純日本人だってところくらいだ。


「もしかして自分のお顔に自信がありませんか? 確かにブ男とは言いませんが、特徴がなくて地味ですよね。特殊メイクでもして差し上げましょうか? 得意ですよ、私。オススメはライオンです」

「うるさいわ!」


 赤を基調としたメイド服のスカートの裾を持ち上げて、たてがみでもイメージしたんだろうか。その後ガオーと鳴き声らしき発言もしたが、いつも淡々と事務的に話すクリスでは、迫力なんてあったもんじゃない。

 

 それにしても、なぜ父は突然こんなことを言い出したんだろうか? これまで女性と付き合ったことがない僕に対して、見合いを提案されることは分かる。だが、なんで26人もいて、2週間という期限しかないんだ?

 正直な所、まだ僕は結婚なんて興味はない。だから当然、それだけの人数を用意されても僕の食指が動くはずなんて……。


「あ。見てください飛鳥。こちらの方、飛鳥の大好きな巨乳さんですよ」

「誰が巨乳好きだ」

「辞典に偽装したアダルトなもの、私が気付いていないとでもお思いですか?」

「な……!」


 クリスは、見合い相手のデータをスマホで見つつ、その1人をこちらに向ける。なんで僕の秘蔵コレクションを知っているんだ……PC上に保存したらそれこそバレると思い、あえてアナログな隠し場所を選択したのに……!


 ……ああ。

 なんだか無性に腹が立ってきた。このクリスについてもそうだが、父……。これまで父の方針に従ってきた僕にこの報いなんて、どういうことだよ。ならもう、僕のモチベーションはそこだけだ。父に……クリスに、彼らの度肝を抜きつつ、あまりに多い見合い相手を選別してやる!

 幸い僕は、クリスからの扱いはこんなだが、優秀に育っているようだし、家の力も大きい。なら、何だって出来るはず……僕が望みさえすれば。


「デスゲーム……」

「はい?」


 僕の呟き、クリスは聞こえていたはずだ。だから、聞き間違えじゃないことを認識させる。


「その26人に、デスゲームをさせる! 僕は誰だ? 僕は天海飛鳥あまみあすか……この国に名高い天海グループの跡取りだ! そんな僕の伴侶にはどんな人が向いている? 見た目はもちろん、頭が良くなくては成り立たない! だけど、それは勉強が出来るという意味じゃない……本当の意味で頭の良い人を探すために、命をかけて頭を使わせる!!」


 そうして立ち上がって胸を張り、クリスを指差して、


「クリス! そうと決まれば準備だ! 26人への招待状とゲーム開始の合図は、もう考えた!!」


その高圧的なメイドに命令をした。


「初めてのワガママがデスゲームだなんて……これまで抑え込み過ぎて一気に溢れてしまったんですね。逮捕、おめでとうございます。それに準備は良いですが、ご主人様の許可を取ってから出直してください」


 が。その指はいとも簡単にへし折られる。


「分かった、許可なんてすぐに取ってやる!」


 初めての反抗だ、頭の固い父を説得出来るかなんて分からないが、言い出したからには後には引かない。

 ……なんとも恰好の悪いスタートの切り方をしたもんだが、やり通してやる。



 そんな、僕が父の所に行って5分。


「父さんからOK貰ったぞ」


 即座に戻って来てクリスに声をかける。


 父を説得するための材料として、これを運営することが僕にとってどれだけ成長につながるか、デスゲームなんて犯罪臭しかしないものを開催してどう問題とならないようにするか、等を用意していたのに、どれも使わず即OKだった。僕は反抗期を迎えなかったから、ようやく来たと喜びでもしたんだろうか。


「なんと。親子揃って頭がおかしくなられたようで」


 クリスは誰にでも悪態をつくが、さすがに父に対してはヤバイだろ。雇い主なのに。

 わざとらしくヤレヤレとポーズをとったクリスだったが、すでに家の内線で他の使用人に連絡を取っている。この家……もはや館といった方がいい僕の家は、広すぎて使用人も数100人いるから、内線やTV会議システム等を完備している。同じ家の中なのに。

 クリスはなんだかんだいっても、さすがに仕事が早い。僕は26人に送る招待状を作るだけで良さそうだ。



 そうして迎えた、翌日の金曜日。

 僕はモニタで見ている。使用人が、今回の見合い相手の1人……つまりはデスゲーム参加者に招待状を届ける所を。


「こちら、この場でご確認願います。では、私はこれで」

「え?」


 使用人は、ただ招待状を渡すだけの役目。道端で突如話しかけられ、置いていかれたその女……そうだな、参加者はちょうどアルファベットの数と同じ26人だから見合い相手Aとしよう……Aは渡された封筒と去って行く使用人の背中を交互に見ている。しかし、使用人が車に乗り込んでしまえば、もうその封筒を開くしかない。


「……え?」


 さっきも聞いた、同じ言葉。無理もない、その招待状を見てしまったんだから。


『あなたは大金を得られるデスゲームに参加することとなりました、おめでとうございます。下記をよくご覧いただき、ご参加ください。


 ・同封のスマートフォンを使用する。普段使いとしても利用可

 ・下記アドレスから送付されるメールは必ず見ること

 ・ゲームには、26名の女性が参加する

 ・こちらが認める、ある一定以下の人数になるまで行う

 ・他の参加者に自分が参加者だと気付かれてはならない

 ・もし他の参加者を見付けた場合は、①本名、②顔写真、③特定理由、を下記アドレスに送信すること』


 それは、ただそんな内容を、無機質な文字で示してあるだけ。もっとも、いきなりこんなものを渡されても誰も信じないだろう。だから……。


「え!?」


 どうもこの参加者Aは、同じ音しか発せられないらしい。

 が。そんな音なんてすぐに掻き消えている。辺りに響き渡る轟音によって。その音の正体は、使用人が乗ったばかりの黒塗りリムジンが、爆発した音だ。部品は飛散し、ガラスが溶けるような熱量で。


 その場所は、天海家の所有地で、ドラマの撮影をすると届け出をしている。だから、こんなこと程度なんの問題もない。もっとも、リムジンは演出などではなく間違いなく消え去っているんだから、招待状を受け取った本人には大問題だけどな。


 これで意味を成すんだ。招待状の最後を締めくくった、


『なお、拒否権はありません』


という言葉が。


「見ろよクリス! 参加者Aの奴、招待状を最初に見た時はポカンとしただけだったのに、もう1度読み返しているあの顔! 必死というタイトルを付けて美術館に贈呈したいね!」

「早速悪の親玉気分になっているところ申し訳ございませんが、26名全員に招待状が行き渡ったようです。早々に最初のゲームを開始しますので、メールを送信いたしました」

「ちょ」


 別に悪の親玉にも帝王にもなったつもりはないが、ある意味26人の女を侍らす異種ハレーム、少しは浸らせてくれたったいいじゃないか。彼女らに興味はないが、遊び道具くらいにはなるだろうからな。

 それに、どうせ最初のゲームの結果はすぐに出る。僕の予想では2、3人がここで脱落することになるが……。


「おや、すでに5名の方から返信をいただいておりますよ。必死すぎて無様ですね」


 クリスが見ず知らずの人に対しても毒を吐いた所で、僕はメールを開く。クリスのスマホと僕のスマホ、どちらからでも見られるものだ。


 最初のゲームとして26人に送ったのは、


『ゲームに参加するのであれば、【参加】と記載して1時間以内に返信してください。なお、拒否権はありません』


というもの。僕が用意し、全員に配布したスマホに届いたはずだ。

 このゲームへの参加は、招待状にも書いた通り、拒否することは許さない。だが必ず、このメールに背く奴はいるだろう。リムジン爆破を見たにも関わらずイタズラだと考えたり、恐怖からとにかく逃げたいと思ったり。実際、先程即座に返信のあった5人のうち1人のメールには、


『不参加』


と書いてあった。バカだな、まったく。



 そうして、期日とした1時間後を迎える。結果、返信がない奴は2人……。これで、3人が最初のゲームで早くも脱落となったことになる。

 思った通りだ……ありがとう。


「クリス」

「すでに敗者は拘束済みですので、行って参ります」


 クリスは立ち上がって一礼すると、足早に僕の部屋から出て行った。このゲーム、いよいよ逃げられなくするための見せしめを作りにな……。参加者B、K、T。その3人の無残な姿を撮影しメールで送信すれば、今度こそ本当に誰も逃げられない。


「さて……」


 デスゲームを開催したことで、父とクリスを見返すことが出来ているだろうか? いや、まだだ。父には、僕の運営ぶりを見せないといけないし、クリスには僕の頭脳を見せつけないといけない。それには、ある程度見合い相手達がゲームで奮闘してくれないといけないが……果たしてどうだろうか?

 何にしても、これで……見合い相手達は見合いだと知らぬまま……。


「お見合いデスゲーム……スタートだ!」


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