第8話 私は見つけた


 あれから一週間。


「下処理は!?」


「そこに!」


 初めて施設で一人になって不安でしたが、私はなんとか生活しています。


「サラダ!」


「終わりました!」


 いま私は食堂で見習いをやらせてもらっています。


 食堂での仕事は私に合っていたのかめきめきと腕を上げ、いまでは下処理やサラダを作らせてもらえるようになりました。


「こっちの下処理は!?」


「終わってます!」


 初めてのことばかりでいろいろと苦労しましたが、充実した日々を送っています。


「桜! 一番いってきな!」


「はい!」


 私は一番、休憩に入り、一息つく。


 このままいけばもしかしたらこの食堂の料理長になるかもしれない。


 これからも頑張ろう!


 ってそうじゃないでしょ私!


 料理の腕が上がっていくのはすごく楽しいし、仕事中は何も考えなくて済む。


 うん、それはいい。


 仕事が終わったら疲れに身を任せてそのまま眠るのは気持ちいい。


 うんそれもいい。


 そして朝起きたらまた仕事。


 うん、充実している。


 でもそうじゃない!


 私はいったい何をしているんだ!?


 この施設になじもうなじもうとしているうちにいろいろと見失っていた……。


 あれからもう一週間。


 そう、もう一週間だ。


 ゆっきーさんはいまどうしているだろうか?


 ゆっきーさんはなんだかんだいっても私を置いてどこかに行くとは思えないから、施設のどこかにはいると思う。


 だけどこの一週間、ゆっきーさんを見かけたことはない。


 というよりこの施設で男の人を見たことがない。


 そう考えるとこの施設は女しか入れず、男ははじき出されたのかも……いやでもそうなるとゆっきーさんが消えたことに説明がつかない。


 そうなると……男と女で分けられた?


 どうやって?


「……はぁ」


 私はため息をつき、頭を抱えた。


 考えてもわからなすぎる……どうしろというんだ……。


 というかそもそもこの施設で私は何をすればいいのだろうか?


 食糧調達をしようにもあの腕輪がないと入れることができない。


 情報を集めようにも私はゆっきーさんみたいにうまく立ち回れない。


 ゆっきーさんといたときはゆっきーさんの手伝いをすればよかったけど、私って一人じゃ何もできないんだなぁ……。


「……あ、もう時間だ……」


 自分の無力さに嘆いていると休憩の時間が終わった。


 頭を切り替えて仕事に戻る。


 何も思いつかないときは頭空っぽにするか何か別のことで頭を何かでいっぱいにするに限る。


 私は仕事に没入した。


 





「桜! 今日はすごかったねぇ!」


 仕事が終わり、休憩室で少し休んでいると私をこの仕事に誘ったお姉さん、安食あじき道代みちよさんが話しかけてきた。


「そうですか?」


「ああ! なんというかイライラをぶつけてるというか、すべてを忘れたがっているというか」


 ……安食さんはなんでこう人の心を読めるのだろうか?


 もしかしてエスパー?


「まあなんにせよ、今日はすごく頑張ってたから桜の好きな激辛料理を作ってあげたんだけど……食う?」


「もちろん!」


 私は即答していた。


 ゆっきーさんのことやこれからのことなどすべての悩みは吹き飛び、頭の中は激辛料理でいっぱいになった。


 果たしてなんだろうか?


 カレー、麻婆豆腐、麻婆茄子なんかもいいなぁ……ラーメンも捨てがたい……豚キムとかチキンもいいなぁ……いっそチゲ鍋とかも……はぁ……なんだろう……考えてたらお腹空いてきちゃった。


「今日作ったのはこちら、激辛うどん!」


 安食さんは休憩室の外に置いていたうどんを持ってきた。


 そのうどんは赤かった。


 スープだけではなく、麺にも唐辛子が練りこまれているようだ。


 私は思わず喉を鳴らした。


「では、いただきます!」


 まずはスープ。


 麺と絡みやすいように少しとろみがかったスープをレンゲですくい、一口口に含む。


「……んっぁあ!」


 思わず声が漏れた。


 辛い、確かに辛い、が、それだけではない。


 辛さの中に少しの甘みがあることで辛さをより引き立たせている。


 それだけではない!


 うどんのスープに必要な出汁のうまみ!


 これが消えることなく壮大なハーモニーを奏でている。


 スープだけでも満足してしまうほどにうまい!


 だが、もう一つ重要なのは麺だ。


 スープだってこの麺とともにある。


 箸で麺を掴み、口に含む。


「……」


 もう言葉も出ない。


 唐辛子が練りこまれたことでピリ辛になった麺に絡む最高のスープ!


 これはうまいという言葉では表せないほどに最高だ!


 もう私は何も考えず、麺をすすり、スープを飲んだ。


 私はこの手を止めることができない。


 だが終わりはやってくる。


「……ごちそうさまでした」


 すべてを食べ終わり、お腹と心の満足感と少しの哀愁が私に残る。


 いつか私もこれほどのものを作れるようになりたいものである。


「はい、お粗末様。いやー本当にいい食いっぷりだよねぇ」


「いえいえ、安食さんの料理が最高すぎるんですよ」


「お! うれしいこと言ってくれるじゃん」


 そういって安食さんは頭を撫でてきた。


 この人のスキンシップ過多なところは一週間一緒にいても慣れない。


「なあ桜。このままうちの施設に永住しちゃえば? 外なんて危険なところだしさ」


 安食さんにそういわれてすぐに頭をよぎったのはゆっきーさんのことだった。


 ゆっきーさんは同じ施設に長居できない。


 正体をばれたらどうなるかわからないし、受け入れられたとしてもあの人は施設を出るだろう。


 なぜかわからないがそんな気がするのだ。


 だから……。


「すいません。それだけは出来ません」


 私は出来るだけついて行きたいと思う。


 それができるのはたぶん私だけだし、私はゆっきーさんに助けられてばかりだ。


 それに頼ってもらうと決めたのだ。


「……そっか」


 安食さんは少し悲しそうに笑い、


「じゃあはい、これ。食糧庫とかのカギ」


 私にカギを渡してくれた。


「え?」


 私は何故カギを渡されたのかわからず頭を傾げる。


「いまの時間なら簡単に入れるから。じゃあね。私はもう寝る!」


 そういって安食さんは休憩室を出て行った。


 私はどうすればいいかわからずカギをボーっと見つめていたが、とりあえず重要施設がある地下七階に向かうのであった。







 確かに安食さんの言う通り、重要施設の扉の前には誰もいなかった。


 私は意を決してカギを刺し、扉を開ける。


 施設の重要施設に入るのはこれで二度目だ。


 中を見ると前に入った施設とあまり変わらなかった。


 たくさんの棚とたくさんのもの。


 たくさんありすぎて何がどこにあるかわからないが、ただ一つ、私が探していたものは見つかった。


「……ん? ああ遅かったじゃないか。俺をどれだけ待たせるつもりだ?」


「はい、遅くなりました」

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