第4話 俺、戦闘開始!


「くそっ! くそっ! くそぉお!」


 殴る。


「あの! バカ!」


 殴る殴る殴る!


「俺を! 助けるためか!?」


 殴って殴って殴り続ける!


「何! 考えてんだよ!」


 しかし、結界はビクともしなかった。


「バカが! バカ野郎が!」


 それでもかまわず殴り続けた。


 俺に逃げるなんて選択肢はなかった。


 俺に止まるという選択肢はなった。


 頭に血が上って『あのバカに説教してやる』という考えしかなくなっていた。



 ――すいません、ゆっきーさん



 謝ってんじゃねぇよ! 謝るぐらいならやるんじゃねぇよ!


 俺にやりたいことやれって言ったのはどこのどいつだ!?


 お前がやりたくないことをやってんじゃねぇか!


 俺に頼ってくれてもいいですよとか言ったのはどこのどいつだ!?


 お前は頼らなかったじゃねぇか!


 背負うなって言ったのはどこのどいつだ!?


 お前が背負てんじゃねぇか!


 俺が一般人だからああいったのか!?


 ヒーローじゃねぇならそんなに頑張らなくても大丈夫だって意味で言いたかったのか!? 


 違うだろ!? 


 一般人だからとかヒーローだからとか関係なしにいったんだろ!? 


 だったら俺だってお前おんなじことを言ってやる!


 だから……だから……!


「あああぁぁああああぁあぁああああぁぁああぁぁぁああぁああぁああ!」


 壊れろ!


 壊れろ壊れろ壊れろ!


 壊れろぉぉおおおおおお!


「くそ……」


 ……ダメだ。


 これじゃあダメだ。


 殴っても意味はない。分かっていた。


 蹴ったって意味はない。分かっていた。


 俺の腕力で壊れるようなものだったらもうとっくに中の戦闘の衝撃で壊れている。


 そんなこと……わかっていた。


 ――じゃあ逃げるか?


 それは嫌だ。


 ――行っても足を引っ張るだけだろ?


 そうかもしれない……でも、行くんだよ。


 ――お前は生きなくちゃいけないんだろ?


 そうだ俺は生きなくちゃいけない。


 ――じゃあなんで?


 俺はあいつに救われた。


 あいつのおかげで心が軽くなっちまった。


 それに、偶然でも俺がおいつを助けることができたんだ。


 こんな世界で誰も助けることができないと思ってた俺が、はじめて助けることができた。


 あいつは俺の……『希望』なんだ!


 ――……もう終わってるかもしれないぞ?


 大丈夫だ。中は良く見えないがあいつなら……大丈夫だ。


 ――じゃあどうする?

 

 助ける。たとえどんな手を使ったとしても、たとえ俺がどうなったとしても。


 ――お前に何ができる?


 俺にできることは……逃げること。


 ――それだけか?


 俺に……俺にできることは……。


「……あるじゃん」


 俺は腕輪を見て少し笑った。


 思えば簡単なことだった。


 何度もやったことがあった。


 でも、こんなことやったことはない。


 そもそも成功するかどうかもわからない。


 だったら一か八かだ。


「せっかく家具集めたのになぁ……」


 俺は結界に手を付け、思った。



『入れ!』

 


 結界が腕輪の中に入っていく。


 でも、それはいつもと違っていた。


「なんだ……? これは……」


 いままでの疲労がなくなり、いつも以上に体に力が漲っていく。


 結界を殴ったことでボロボロだった拳は急速に回復していき、元に戻った。


 体が軽かった。


 感覚が鋭くなっていった。


 今の自分がさっきまでの自分と圧倒的に違うことを理解した。


 結界をすべて『入れた』とき、最初に見えたのはいまにも殺されそうになっている桜だった。


 それは、図らずも俺の親友、最強のヒーローが殺されそうになっているときと重なった。


 あのときの俺はただ見ていることしかできなかった。


 でも、今は違う。


 ただの人間が怪物をどうにもできないことはわかっている。


 でも、今の俺なら……!


「うらぁぁぁあああああああ!」


 俺は怪物に向かって走る。


 そして、そのままの勢いで怪物を殴り飛ばした!


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