第11話 俺は背負う ②


「そもそもさ、この施設に入る前から僕は学校でいじめられていたんだ。兄さんの弟とか関係なしに、ね。それで施設に入ってからもそれが続いたんだよ。それどころか僕を攻撃する人間は増えていったんだ」


 正司は悲しそうに語り、


「でも! そんなときに僕を助けてくれた人が現れた! その人は由里ゆりさんっていう警察官になったばっかりの正義感あふれた人だった。僕はね、すぐに由里さんにひかれていったんだ。それに、由里さんに感化されたのか僕を助けてくれる人が増えてきてさ、僕はようやくこの施設で楽しく生きていけると思ったんだ!」


 先ほどとは打って変わって楽しげに語り、


「でもね? それを許さなかったのが僕をいじめていた人たちだ。その人たちは管理者と手を組んで僕たちを迫害した。結果、この施設は真っ二つに割れてしまったんだ。そして、戦争が始りそうになったんだ」


 また悲しそうに、


「でもね。由里さんは止めようとしてたんだよ。銃を持ち出したやつらの前に立って『こんなこと間違っている』『こんなことしてはいけない』って……でもね、やつらは撃ったんだ……無抵抗な由里さんに向かってさ!」


 叫びながら、


「だから……だからだからだから! 僕は! 僕は……ぼく、は………………」


 狂ったように、語った。


「……」


 よほど高ぶったのか正司は息を整え始めた。


「……そしてお前はすべてを終わらせたんだ。みんなが寝静まった後に」


 言葉が出なくなった正司に変わって、俺が言う。


 正司がこうなったのは俺のせいだ。


 あのときの俺は世間での評判なんかよりも、家族のことよりも、それこそ自分のことよりも、俺のできることを優先させた。


 だから、俺のせいなのだ。


 俺が何もしなくても世界の結末は変わることはなかっただろう。


 でも、正司の結末は変わっていただろう。


 だからやっぱり、俺のせいなのだ。


「……なんだやっぱりわかってるじゃないか。どうしてわかったの?」


 正司はにこりと笑って手を叩いて称賛する。


 だがそんなこと推理するまでもなかった。


 考えるまでもなかった。


 ほとんどすべて残してあったのだから。


「まず、ゴミ集積場にまだ血の付いたベットが残っていた」


「へぇこの施設にゴミ集積場なんてあったんだ。まぁ捨てたらどこに行くんだろうとは思ってたけど」


 地下施設のゴミ集積場は食糧庫や栽培施設の真下にある。


 基本的に入り口の場所を知っている人間は少ないし、知っていても行く人間はいない場所だ。


「それに廊下にあった銃創とところどころにあった掃除されていない血痕。そして、ここと、奥の部屋だ」


 俺は死体の山を指さした。


「ああ! ここにいる人たちはみんな僕を助けようとしてくれた人たちなんだ! この人たちも恩人だから苦しまないように寝ているときに薬を飲ませたんだ! 奥のやつらは最近まで生きてたかな?」


 奥にある何もない部屋には地獄絵図が広がっていた。


 あるものは腹を裂かれて放置されていた。


 あるものは目ん玉をくりぬかれ、あるものは手足がなく、あるものは胴体と頭だけであった。


 一人一人が違う方法で殺されていた。


 ベットの血痕がついていたのは、薬を飲まされた人たちが血を吐いたのと、億の部屋にいる奴らを運ぶ前に足や手の健を切ったためだろう。


「僕はね。もうダメなんだ。もう無理なんだ。だって……楽しく感じちゃったから。もうダメだった。でも、楽しくて、ダメで楽しくて……おかしくなっていく僕が怖くて……怖くて、怖くて……」


 そう語った正司は、顔を覆い涙を流した。


 正司はそんなに強い人間ではなかった。


 そんな人間が虐げられ、心が折れかかってしまったところに、支えができた。


 しかし、それがなくなってしまった正司は、狂わなければもう生きていられなくなってしまったんだろう。


 そして、すべてを壊した後、外に出て死のうとしたときに、俺たちに出会ったんだ。


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