第9話 私は知る
僕がこの話を知ったのは事件が終わった後に流れたニュースでのことでした。
それは兄さんが通っていた学校付近で怪物が現れ、兄さんとその友人の
そういう集団で行方不明になる話はよくある、というわけではありませんが半年に二回ぐらいはありました。
なので、いつもなら『怖い』とか『うちの近くでは何も起こらなければいい』とか『気の毒に』とかで終わる話でした。
いま思えば危機感がなかったんです。
桜さんも知っているでしょう?
昔は世界中にたくさんのヒーローがいて、怪物が現れてもすぐに退治されていましたから。
行方不明だって最終的にはヒーローがすべて解決してくれてましたし。
でも、兄さんが関わってしまった事件はいつも通りヒーローが来て終わり、とはならなかったんです。
なぜなら、怪物と戦って死んでしまった兄さんの友人の優さんはヒーローだったんです。
しかも、世界で五本の指に入るほど強いと呼ばれたヒーロー『グレート』だったんです。
最初はグレートが正体を隠していたこともあり『そんなことはない』『グレートが負けるはずがない』って言われていたんです。
だけど兄さんの証言と戦いの跡、監視カメラの映像によりグレートと断定されました。
それからは世界中どこも大騒ぎでした。
今までヒーローが怪物に負けることはありませんでしたし、それが最高峰のヒーローですから。
だから、兄さんのところには警察関係やマスコミが殺到したそうです。
でも、兄さんはいなかった。
僕も実家に電話したんですけど、兄さんはすぐに何も言わずにいなくなったそうです。
それから何度も兄さんに電話したんですが帰ってきたのは『俺は大丈夫』っていうメールだけ、それ以外は何も言ってくれませんでした。
そして、事件から十日後。
グレイトが敗れたところからさほど離れていないところでヒーローが負けました。
さらに三日後。
またヒーローが負け、
五日後。
また、ヒーローが負けました。
それは恐怖以外のなにものでもありませんでした。
だって、今まで無敗だったんですよ?
それが……こうもあっさり負けていくんです。
……え? それでなんで兄さんが元凶と呼ばれだしたか、ですか?
ちょっと待ってください。それもちゃんと話します。
あれは……たしか四人目のヒーローが負けたときのことです。
ネットであることが書かれました。
『義元正行がヒーローのところにいた』というものです。
それからはすぐでした。
ネットには負けてしまったヒーローと兄さんが話している画像がはられていって、兄さんの目撃情報が寄せられていきました。
そして、
『義元正行は怪物たちの仲間なのではないか』
『こいつがいたからヒーローが負けたのではないか』
という憶測が飛び交いました。
結果、週刊誌やニュースでも取り上げられ、世間では『被害者』から一転して『元凶』と呼ばれるようになってしまいました。
あのとき、僕は怖くて怖くて仕方がありませんでした。
だっておかしいじゃないですか。
ネットならまだましです。
確かに広まりますが、まだ、ましでした。
でも週刊誌やニュースですよ?
兄さんは当時まだ未成年だったんですよ!?
それなのに兄さんの個人情報が当たり前のようにニュースで流れるんですよ!?
そんな普通ならあり得ないことが確かに起こっていたんです!
あの事件は怪物によって起こったことは誰が見ても明らかだったのに、まるで兄さんが犯人のように描かれる……まるで、世間が何かに操られているようだった……! 何かが兄さんを追い詰めてるみたいだった……!
兄さんが何でヒーローのところに行ったのか、兄さんはどうして何も言わなかったのか……僕には何もわかりません……。
でも、兄さんのことだから何かできることを見つけたんだと思います。
自分にできることはとことんやるのが兄さんですから。
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