第5話 俺、殴られる
「あれ? なんであいつが……?」
変える方法もわからず、とりあえず境目に戻ると桜が魔方陣の上でキョロキョロしていた。
「あ、ゆっきーさん」
俺に気付いた桜がのんきに手を振ってくる。
あいつ一人で地上に出るなんてなに考えてるんだ?
俺みたいに逃げられるわけでもないのに怪物が近づいてきたらどうするつもりだったんだ?
はぁ……まったく……。
「おい、なんで出てきたんだ?」
俺は少し怒り気味に桜に問いかける。
「いえ、気づいたらここに……」
桜は自分の状況をあまり理解できていないような顔をして答えた。
どうやら出ようと思って出たわけではないらしい。
「あっでも、『出ろ』って声が聞こえたかも」
「ふむ」
桜の答えを聞き、『あっこれ俺のせいだ』と理解したが、そんなことはおくびも出さずに俺は考えるふりをした。
多分さっき俺が『出ろ』と言ったせいで桜は出てきてしまったのだろう。
そのことから考えると入り口がこの魔方陣だったから出口もここになってるのかもしれない。
そういえば俺が出てきたときも魔方陣の上だったな。
それなら俺も魔方陣に入って思う。
『入れ』
「え?」
俺たちは玄関にいた。
「なるほどな」
俺が考えた通りのようだ。
「いや、一人で納得しないでくださいよ」
どうやら桜はまだ腑に落ちないようだ。
魔方陣とか腕輪とかをお前がいじったのだから考えついてもいいと思うんだが……もしかして魔法のこと以外は頭が足りないのかもしれない。
つまり桜はバカ。
「なんかいまバカにされた気が……」
「気のせいだろ」
どんだけ鋭い野生の感を持っているんだよ。
「えーと、簡単に説明すると入口と出口が一緒なんだよ」
ん? ということは地上に出る前に腕輪の中に桜を入れて、俺一人で次の施設に行ってから桜を出すみたいなことはできないのか。
あーあ、足手まといがいなくなると思ったのになぁ……。
「それ、私の疑問に対する答えになってないんですけど」
桜は俺の答えが不服のようだ。
えーと、なんで外に勝手に出たのかってやつか?
「いや、魔方陣がないとここに戻れないってことを知らなくてな。お前に聞こうと思って俺が呼んだからお前は地上に出たってことだ。つまり俺のせいだな」
「な!」
桜は怒りでが赤くなっていく。
さらりと言えば気づかないかと思ったが、そんなことはなかったらしい。
このままいくとまた説教コースになりそうだな。
まあしょうがないか。
今回も甘んじて説教されようじゃないか。
俺はそんな決意を固めると、桜の顔をしっかりと見つめる。
そこには俺が外に出るまでは前髪で少し隠れていた目がいまは隠れることなくそこにあった。
どうやらヘアピンを使ってくれたらしい。
ふむ、いいじゃないか。
俺の見立て通りだ。
「あーいま言うのもなんだが、その髪留め付けたんだな。ふむ、ちゃんと似合ってるぞ。かわいい顔してるんだからちゃんと出したほうがいい」
こういう『女性の変化はすぐにほめるべきである』って俺に言ったのはたしか妹だったか。
それからというものこういうことはしっかりほめることにしている。
まぁ俺なんて基本的に服装に無頓着だからよくちゃんとしろって怒られてたなぁ。
たぶん基本的にジャージで生活していたのがいかなかったんだろう。
今も動きやすさを考えてジャージでいるが、これも妹に怒られそうである。
そう考えると俺は昔から身近の女に怒られてばかりだな。
そんなことを考えながら桜を見ると顔を真っ赤にしながら固まっていた。
「な……」
そして、
「なぁぁあああ!!」
俺の鳩尾を殴った。
「な、なぜ……?」
今も昔も女の考えることなんて全然わからん!
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