9-24.双子の悪足掻き

 駅前まで出た双子は、軍人の数が先ほどより少なくなっているのを見て焦りを浮かべた。


「もし僕達の推理が正しかったら……」

「今弱音吐いても仕方ない。伯父様達は頼れない。母ちゃんも制御機関にいない。だったら他の活路を探すしかない」


 アリトラは地面を何度か踏みつけ、靴にしっかりと足を嵌め込む。


「足はアタシの方が速い。学院で落ち合おう」

「うん。気を付けてね」


 リコリーに見送られ、アリトラは走り出す。白いセーターの背中は、瞬く間に遠ざかり、人の波の奥へ消えた。

 一方、残されたリコリーは一度足を止めて周囲を見回す。駅前の広場では、主婦たちが事件の事について噂話をしている。数が減ったとは言え、数人の軍人が駅の前で警備をしているのが、皆の不安を駆り立てているようだった。


「下手したら、懲戒免職かもしれないけど……、何もしないよりはマシ、かな」


 そう呟いたリコリーは、主婦達の元へ近付く。


「すみません、制御機関の者ですが」


 突然声を掛けて来た目つきの悪い若者を見て、主婦達が驚いた顔で振り返る。だがリコリーは、向こうが何か言う前に手首に嵌めたバングルを見せた。制御機関の人間であることを示す証拠を見て、警戒心を解く。


「今、民間の方に聞き込みを行っているんです。周囲に不審物などは見ませんでしたか?」


 主婦達は顔を合わせて、それから殆ど同時に首を横に振る。如何にもおしゃべりが好きそうな彼女達が嘘を吐いているとは思えない。リコリーはそう判断した上で、次の言葉に繋げた。


「そうですか。それはよかったです。実は中央区学院の方から通報がありまして、調査をしているんですよ」

「が、学院で何か?」


 一人がその言葉に反応する。


「子供が通っていて……」

「安心してください、ただの不法投棄されたゴミでしたから。でも念には念をということで、職員が手分けをして調査しているところです」

「本当に大丈夫なんですか?」

「それは勿論。……でもそうですね、もし不安でしたら制御機関刑務部に問い合わせをお願いします。僕は他の所の調査があるので、これで」


 言い終わるや否や、リコリーは足早にそこを後にする。法務部の新人であるリコリーが中央区学院のことを言ったところで、刑務部に取り合ってはもらえない。ならば、一般人を利用する。子供が学院にいる親であれば、間違いなくその身の安全を懸念して、刑務部に問い合わせる。

 刑務部も子供達の安全を無視するわけにはいかないため、学院へ連絡を入れる。そうなれば現時点で殆ど注視されていない学院に人の目が集まる。


「少しでも多く人を集めないと……」


 リコリーは学院に向かって走りながら呟いた。出来ないことがあるのなら、出来ることを可能な限り探す。それが母親から教えられた必勝法だった。


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