8-11.『ガーフィル』

 聞きたいことが終わると、ヴァンがリコリーを促して部屋の外に出た。

 辺りを見回してから、中にいるメリアに聞こえないような小声で、リコリーに囁く。


「どう思う? 資格を持っていないならシロだと思うが」

「誰かに頼んだ可能性も捨てきれませんので、なんとも……。ですが、被害者が彼女についていったとも、その逆も考えにくいです」

「売り物を滅茶苦茶にされた挙句に、何度も絡まれてたんじゃ恨みが籠るのは想像しやすいな。それにどうも、頭に血が昇りやすいタイプみたいだし」

「さっきのはエストさんが悪いと思います」


 続けて隣の部屋に入る。二人目は五十代前後の体格の良い男だった。短く刈り込んで整えた髪は緑色で、所々に白いものが混じっている。


「待たせて申し訳ない。早速だが、お名前を伺ってもよいだろうか?」

「第二地区で『ガーフィル』というインテリア専門店を経営している、ロイド・ガーフィルだ。全く、今日は色々見たいものがあったのに」

「被害者との関係は?」

「関係ねぇ」


 ロイドは薄く生えた顎髭を擦りながら、視線を中空に向けた。


「一番近い表現は、昔なじみかな。お互いが商売を始める前からの付き合いなんだ。家が近所でね」

「付き合いは長かったのか?」

「まぁ、それなりに。一緒に飲みにも行っていたよ」

「でも、最近揉めていたって話だが」


 ロイドは首を竦めて左右に振った。


「あいつの癇癪は今に始まった話じゃない。最近は色々なところに迷惑をかけては、私に愚痴を言って来るので、いい加減面倒になって扱いが邪険になっていたのさ。今日、久しぶりに会ったら、それを咎められたというだけで」

「今日は出店者側で来たのか?」

「あぁ。でも店の若いのに任せていたから、私は接客はしなかったよ。ゆっくりと見ていたのに、あいつが突然喚くから、落ち着けやしなかった。まぁ途中で別の人に絡みに行ったけどね」

「その後はどうしていた?」


 質問に対して、ロイドは頭を掻く。


「さっきの人にも言ったけど、私はただ二階を回っていただけさ。ただ、誰にも話しかけなかったから、誰も覚えていないだけだよ。何処かに行ったりなんてしていない」

「被害者は随分と困窮していたようだな」

「困窮かどうかは置いておいて、なりふり構わなくなったのは確かだね。『ヒスカ』に絡んでいたようだから」

「ヒスカって、最初に連れてこられた商人のことか」


 ヴァンが確認すると、ロイドは一度頷いた。


「何やってるんだか、いまいちわからん店だよ。そのくせ軍との繋がりもある。そういう店に手出しをしたって、碌なことにはならないさ」

「なのに絡みに行った。あんたはその店の人間のことは知っているのか?」

「いや。話したことぐらいはあるけど、親しくはない。そもそも積極的にこういう場に出てくるタイプでもないしね。今日見かけて驚いたぐらいだ」

「あの、ちょっと良いですか?」


 リコリーは軽く手を挙げて、ロイドに言葉を投げかける。


「インテリア専門店ってなんですか?」

「昔で言うところの内装屋だよ。フィンは石造りの家が多いから、家の建て替えなどが少ない分、内装を変える家が多い。顧客の要望に合わせて壁紙や照明、床に窓、とにかく家の中に関わる物の交換や改造を手掛けている」

「じゃあ……照明管の取り扱い資格はお持ちですか?」

「私は持っていない。最近じゃ専門業者に頼むことが多いから、従業員でも持っているのは一人か二人だ。昔は必要な時に有資格者を余所から呼び寄せていたけどね。手伝わされるのが嫌だったから、段々呼ばなくなったんだ」


 ロイドは懐かしむような目を見せたが、すぐにそれを表情の奥に引っ込めた。


「何故、そんな質問を?」

「気にしないで下さい。ちょっとした確認です」

「確認って……。照明管が一体何だと言うんだ」

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