第3話 +KilledDonut
3-1.双子のおねだり
「伯父様、見つけた」
「伯父様ー!」
非番の日に、公園を散歩していたルノ・セルバドスは突進してきた男女を受け止めながら苦笑いをした。
年は五十代前半、短く切った黒髪には所々白髪が目立つ。
背が高く、しなやかな体つきをしており、見る者が見ればすぐに軍属とわかる洗練された身のこなしをしている。
遮光レンズの眼鏡をかけているが、それは目を守るためのものであり、本人の視力は平均よりも良い。
「どうした、双子」
「リコリーと散歩してたら伯父様がいたから」
「つい飛びついちゃいました」
笑いながら言う様子は愛らしいが、この双子が年齢相応以上には打算的なのをルノは重々承知していた。
それは、女ながらに制御機関の幹部まで昇りつめた、末の妹の遺伝かもしれないし、あるいは未だに得体が知れない商売人の男の遺伝かもわからない。
恐らくはどちらもだろうと思いつつ、しかしルノは双子に甘えられるのを楽しみにもしていた。
「何か欲しいものがあるんだろう?」
「欲しいものというか」
「行きたいところがあって」
リコリーから切り出し、アリトラが後に続く。
双子の間には無意識の決め事があって、例えば立ち位置にしてもリコリーが右でアリトラが左になることが多く、誰かに話しかける時もリコリーが先の場合が多い。
「言ってみな」
「伯父様の行きつけの紅茶専門店、「白薔薇」に連れて行って欲しいです」
「薔薇のクリームのドーナッツがあるって聞いた。気になる」
「あぁ、あるなぁ。あれが食べたいのか」
ルノの趣味は紅茶を飲むことである。
基本的に軽い性格をしており、普段の行動の殆どはそれに見合ったものになっているが、軍人として戦場に出ている間ですら紅茶趣味だけは欠かさない。
「僕は紅茶が飲みたいです」
「アタシはドーナッツ食べたい」
「双子を連れて行ったことはなかったな。……わかった、連れて行ってやろう」
双子は揃って顔を輝かせた。
顔立ちは全く似ていないと言って良いが、表情だけは非常に良く似ている。
「ありがとうございます、伯父様」
「ありがとう、伯父様!あとお金がない!」
「安心しろ。奢りだ、奢り」
どうせそのつもりだったんだろう?とルノが尋ねると、アリトラは舌を少し出して笑った。
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