4-2.いたずらされるパスタ
「いたずら?」
「近所のガキだと思うんだけどな。変なもんを商品につけやがって、売り物になりゃしない。かといってそのまま食うのも気味が悪い」
「変なものって何?」
リコリーの問いに、ライツィは答えとして、廃棄したパスタの袋を見せた。
三束を紙袋に包んであるもので、少々値は張るが美味しいことで評判だった。双子の父親も気に入っていて、メモに書くときにわざわざ商品名まで追記したほどである。
その袋には真っ黒な手形がついているうえに、袋も握りつぶされたのか妙な皺がついていた。手形は小さく、子供のものだとすぐにわかる。
「あー、これは……」
潔癖なきらいのあるリコリーは眉を寄せる。
「な? 何の汚れかわからないし、こんなもの売れないし。袋が破れていることもあるから、俺の家で片付けることも出来ない」
「子供の手形。いつもこれがついてるの?」
「あぁ。指で擦ると何かくっつくから、煤とか泥だと思うんだけどな。インクにしては色が薄いし」
「子供の悪戯みたいだけど、心当たりないの?」
「このパスタ、よく売れるから店の表に出してるだろ? 通りすがりにやられるのか、全然わからん。子連れの客なんて多いし、そっちにばかり気を配るわけにもいかないからな」
リコリーは周囲に積まれた食品の山を見る。
「他の物も悪戯されるの?」
「いや。そのパスタだけだ」
「ふーん。……流石に今回は転写じゃないか」
「あ? 何か言ったか?」
ライツィが問い返すと、リコリーは首を振った。
「なんでもないよ。こっちの話」
「ねぇ、ライチ。その悪戯って毎日?」
「毎日ではないな。週に一度ぐらいだと思う。といっても決まった曜日に起こるわけじゃない」
「気付くと手形がついてるの?」
「あぁ。パスタの売り上げがいい時が多いかな。まぁ単にそういう時に意識が向くから気付きやすいだけなのかもしれないけど」
「これ、手形調べたら誰の仕業かわかるかもよ」
リコリーがそう言うと、ライツィは目を軽く見開いて首を勢いよく左右に振った。
「冗談言うな。自営業ってのはお客さんとの信頼で成り立ってるんだぞ。子供の悪戯に目くじら立てて犯人捜しをするなんて思われたら商売あがったりだ」
「でも困ってるんでしょ?」
「俺が気味悪く思ってるだけで、売り上げに大きな損失があるわけじゃないからな。そりゃ大人の手形だったら、悪質として調べてもらうさ。でも子供だぞ?俺達だって似たような悪戯してきただろ」
双子はその言葉に揃って眉を寄せる。
「僕たちはやってないよ」
「いつもライチが悪戯して、おじさんに怒られていただけ」
「待て。リコリーはとにかくアリトラは違うだろ。お前だって相当お転婆だったぞ」
「アタシは売られた喧嘩を買っただけで、ライチみたいにお店の二階から如雨露で水を撒いたり、銀玉鉄砲で空き缶連射の真似事して窓を割ったりしていない」
「言ってくれるな。まぁ俺も悪戯はしたからさ、余計に大事にしたくないし…。そいつ捕まえて怒って終了、ぐらいがいいんだよな」
「でも、いつやられるかわからないんでしょ? どうやって捕まえるの?」
「それに困ってたんだよ」
幼馴染の困り果てた様子に、双子は困惑が伝染したような表情になる。
「でもさ、なんでパスタなのかな」
リコリーが不思議そうに言った。
「簡単に折れるから、悪戯の的としては丁度いいんだろ」
「じゃあなんで毎回、手形が付いてるのかな。子供の手形だってすぐにばれちゃうのに」
「よくいるだろ。自己主張の激しいガキ」
「自己主張の激しい子なら、毎日やるし、折角手が汚れているなら「ライツィ参上」みたいなこと書くけど」
「それ、俺がお前の家の壁に落書きした文字だろ」
「あの時のおじさん、怖かったね」
意地悪っぽく笑いながらアリトラが口を挟む。
「おじさんが顔真っ赤にしてライチ引きずってきてさ。ライチはライチで頬腫らして泣いてるし。父ちゃん結構びっくりしてたよね」
「あんな白いきれいな壁見たら、いたずらしないのは失礼だと思ったんだよ。当時の無垢な俺は」
その頃のことを思い出したライツィは若干頬を染めながら言った。
しかしふと顔を上げると何度か瞬きして「そういえば」と続ける。
「昨日ホースルさんに会ったから相談したんだよ。このこと」
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