第6話 +Eavesdropping[盗聴]

6-1.双子の買い物

 雨の降る少し肌寒い日のこと、リコリーとアリトラは買い物に出かけていた。

 どちらも休日で家でのんびりしていたのだが、父親と母親まで休みであったのが彼らの不運だった。

 結婚して二十年、未だに仲の良い両親は双子そっちのけで甘ったるい世界に浸り始めてしまい、結果としていたたまれなくなった双子は、別に補充する必要もない珈琲豆の買い出しに行くことにした。


「まぁ喧嘩している親よりはマシなんだけどね」


 珈琲豆を抱えたアリトラが溜息をつくと、リコリーもそれに同意する。


「父ちゃん達が喧嘩するの見たことないしね。でもあの二人絶対に僕たちの存在忘れてたよ」

「買い物行ってくるーって声かけたらビックリしてた」


 セルバドス家で家事を担っているのは父親であり、双子の胃袋を幼少期から現在に至るまでしっかり握っている。父親は基本的に双子が好きなものや体調を考慮して料理を作ってくれるのだが、一つだけなかなか食卓に出ない好物がある。

 それはカボチャのシチューで、双子はそれが好きなのだが、母親がカボチャが苦手だからという理由で滅多に作って貰えない。当の母親は気にしなくてもいいと言っているのだが、父親が作らないと宣言する以上は、双子にそれを覆す力はなかった。

 母親、父親、そして双子。それがセルバドス家のヒエラルキーであると言える。


「寒いからどっかで雨宿りして帰ろうよー」

「そうだね。せめて父ちゃんが夕飯の支度をする時間までは……」


 リコリーは周囲を見回すと、喫茶店を見つけて「あ」と声を出した。商店街のアーケードの中にあるのでわかりにくいが、壁が綺麗なラベンダー色で塗られ、その光沢はまだ真新しさを感じさせる。


「こんなところに喫茶店あったんだ」

「此処、先月出来た喫茶店。ロールケーキが売りらしい」

「流石カフェ店員。入ってみようか」


 双子はアーケードの下に入り、先に傘を畳んだ。傘の先から余計な雨水が垂れていないことを確認した後、リコリーが喫茶店の扉を開く。丁度客もおらず、中は珈琲の香りと静かな空気が漂っていた。


「いらっしゃいませ」


 黒いエプロンをした、まだ若い女が姿を見せる。赤い長い髪をまとめ、清潔感のある白いバンダナでそれを飾っているのが好感度が良い。


「二人なんですけど」

「こちらにどうぞ」


 通されたのは入口から離れた奥の席で、炭ストーブの近くだった。外が寒いので気を利かせてくれたのだと双子は悟り、機嫌がよくなる。


「リコリー、炭のストーブだよ」

「珍しいね」

「うちは炭で煎れる珈琲を持ち味にしているので、ストーブにも炭を使っているんです」


 席に案内した女性が、微笑みながら説明した。

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