2-25
何しろ乾杯は「杯を
しかし。
「ちょぉぉぉっとまったぁぁぁっ!」
素っ頓狂な声をあげて、サンフラワーがまたしても部屋の隅にワープしてきた。その大声に、口の中に含んだCCレモンを吹き出してしまった。
「なんだよ、せっかくキレイにまとまったとこだったのに、邪魔すんな!」
あたしがちゃぶ台をぶったたいて抗議すると、サンフラワーもばしんとちゃぶ台に手を突いて言った。「邪魔します。乾杯してもらっては困ります。まだものを食べないでください、メンテナンスの後ですっ!」
「え、あたしもう食べた」めぐみが言った。少し顔を赤らめて、「すっごくたくさん」
「あちゃ。まさか戦闘になると思ってなかったこっちのミスでもありますけど、今後はアウトです。戦った後は必ず、何はなくともメンテナンスです。よろしいですね、覚えておいてください」
「メンテナンスって、何だよ」
「メンテナンスはメンテナンスです」
「だから、何?」
「何って」サンフラワーは問い返したあたしをじろじろと見た。「オーバーホールだって、必要とあらばしますよ」
「は?」
しばし沈黙が流れた後、───さおりがちゃぶ台をばんばん叩いて笑い出した(このちゃぶ台、いつ壊れるか知れたもんじゃないな)。「キミのカラダをオーバーホール。ひやはははサイテーーーッ! サイテーのくどき文句! 笑える分サイコー!」
何を言われたのか一瞬わからなくて―――次の瞬間顔が破裂しそうになった。……声も出ない。そうなんだ。あたしの体が機械なんだ。何のメンテナンスって、あたしのメンテナンスなんだ。あたしの体をいじって、改造して、胸のサイズまできっちり取った男は、今後もあたしの体をいじり倒すということだ。
サンフラワーは頭を掻いた。
「初めて目を覚ましたとき、みずきさん、僕のことを覗き呼ばわりしましたが―――」
「言ったね……」喉の奥からどうにか声を絞り出す。
「それで恥ずかしがられると、非常に困るんですよね……あの、早い話主治医だと思ってくださいね」
それを聞いて一瞬くらっときた。脳天に一発、強力なパンチを食らったみたいにだ。この男が? この男がか?
「とにかく、メンテナンスなんです。さぁさぁ、今後も戦闘後は必ずメンテナンスをしますから、早いうちに流れを覚えてください」
「メンテナンスって、何するの?」よくわかっていないらしいめぐみが、同じ質問を繰り返す。
「お医者さんごっこよぉぅ」さおりはうれしそうだ。
「ごっこじゃありませんっ」サンフラワーが必死に打ち消した。
「でも、えっと、あの」ゆきのがもじもじと言った。「まさか、ここで、脱ぐん、ですか?」
「違います違いますっ」必死に打ち消すサンフラワー。ご苦労なことだ。彼はひとつ大きなため息をついてから、指を鳴らした。
すると、マンション全体がロウシールドに包まれる気配がした。サンフラワーが手招きするままにバルコニーに出ていくと、ロウシールドの中に、巨大な物体が浮遊していた。───彼らの宇宙船、フライングローズだ。動きは鈍重なようだが、地球圏内でも自在に飛ぶことができるらしい。
下から見ると球面だ。別段機械的なつぎはぎがあるわけじゃない。タンカーの底、いや、墨を注いだフラスコの底という表現が的確で、ガラス質の光沢がある。もっとも光沢はリビングや街路の蛍光灯を反射しているだけで、未知との遭遇みたいにぴかぴか光るわけじゃない。考えてみりゃ、「UFOが光る」なんて電気代を無駄にする話、どこの誰が決めたんだろう。
あれのてっぺんが、先般あたしたちが戦った「床」のはずだから、フライングローズはおよそ半球型をしているものと推測されるが、実際のところあまりに巨大でよくわからない。わかるのは、一ヶ所だけ、ぽっと灯りが漏れているところがあって、どうやらそこが入り口らしかった。
突然、すっと体が浮いた。床のないエスカレータという感じだった。そのエスカレータに導かれて、あたしたちは光る入り口からフライングローズの内部に引き込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます