第十八話 地下迷宮探索:その二
〈エリア2・草原地帯〉は思ったよりはやく抜けることができた。というのも、障害物がなく見晴らしが良かった(良すぎた)ため、ほかのグループの動向を追えば次の転移陣がどこにあるかは一目瞭然だったからだ。狼のような姿をしたガイム――ハウンドたちを蹴散らして進みつつ、オズたちは水色の転移陣をくぐり抜けたのだった。ちなみに、転移陣はいくつか点在するため、生徒たちが殺到して混雑するようなことはなかった。
そして今、オズたちは〈エリア3〉にて、新たなガイムの群れと遭遇していた。
「《シントラ・アプト! 光の矢!》」
「GUOOOOO……」
セナが後方から放った光の矢が、石像のような姿のガイム――〈オーベム〉に突き刺さる。このオーベムというガイムは、〈エリア1〉でも遭遇した敵。――そう、〈エリア3〉はふたたび洞窟の中のような場所だった。
セナの攻撃により一体のオーベムが体勢を崩したことで、群れの動きに乱れが生じていた。
「とりゃっ!」
「オラオラオラァ!」
その隙にルークとアルスが前へ出て、オーベムたちに接近戦を仕掛けていく。しかし集団戦闘の観点からすれば、前に出すぎである。それを見てオズはため息をついた。もう何度目かわからない。
「「「GYAOOOOOOOOOO!!!」」」
「――よし、こいつはまかせろ!」
「では、こちらは私が!」
ルークとアルスの二人が討ちもらしたガイムは、オズとリノが対処する。リノは、速度重視のルークと決定力重視のアルスを足して二つに割ったような戦い方で、その実力はかなり高かった。さすがはあの学園長の娘、というところか。戦闘好きの面もあるようだが、ルークとアルスのように我を忘れるほとではないようだ。見習ってほしい。
戦況を分析しながら、オズはガイムをさばいていく。しかし、徐々に手を抜けなくなってきた。階層が進むにつれ、ガイムの強さは上がっていくからだ。今戦っているオーベムも、〈エリア1〉とは段違いの強さである。群れを構成するガイムの数も多く、ルークとアルスが討ちもらしたガイムが一体、二体、と増えていく。
「《ウルド・エルアーラ!
複数のオーベムに手こずっていたオズを助けたのは、一陣の風だった。後方から風の
「ナイスだ、ユーリ!」
オズはユーリが作ってくれた隙を逃さず、ガイムへGブレードを振るっていく。
ユーリは接近戦こそ苦手なものの、後方支援はかなりの腕前だった。なぜ
「わたしも負けてられないね! 《シントラ・アプト! 光の矢!》」
ユーリのおかげか、セナも張り切っている様子だ。
先頭のルークとアルス、中盤のオズとリノ、後方のセナとユーリ。なんだかんだで、このグループはうまく機能していた。実際、ここまで危なげなく来れている。オズは思わず笑みを浮かべていた。こうして仲間とともに戦うことが、楽しく感じられたからだ。
「きゅうきゅう~」
オズの頭に張りつくゴンが、楽しげに鳴いた。
* * *
〈エリア3〉に入ってからしばらく。オズたちは現れるガイムを倒しつつ、迷宮内を進んでいく。
「つぎの転移陣、なかなか見つからないね」
ガイムの群れを討伐し終えて、一息ついたところでセナがつぶやいた。
現在、オズたちは地面に散らばったガイストーンを収集しているところである。
「さっきから同じガイムばっかりで飽きてきたよ」
「ああ。オレも同感だ」
ルークとアルスは不満げな様子である。二人してノロノロとガイストーンを集めていて、やる気が感じられない。
「ほかのグループはどうしてるんでしょうか」
「たしかに。エリア3に来てから、おれたち以外の生徒に会ってないね」
リノの言葉に、ユーリが思案顔でうなずく。ほかの生徒の状況がわからないのは確かに不安だ。〈エリア2〉では他グループを追って転移陣を見つけることができた。それに、〈エリア3〉は一年生の到達ラインに設定されている。多くの一年生はこの階層のガイムとの戦闘をきり抜けることはできないであろう。ガイムの強さもそうだが、なにしろ数が多い。群れたガイムとの戦闘は、慣れないと体力面だけでなく精神面でも厳しいものがある。そろそろ〈帰還石〉を割って地上に戻ったグループも出はじめている頃かもしれない。
「少し休憩するか? 携帯食でもとりながら足を休めよう」
ガイストーンを仲間から受け取り、〈
「きゅきゅ!」
とそのとき、ゴンがオズの髪の毛を引っ張った。それと同時に感じる敵の気配。
「「「GYAOOOOOOOOOO!!!」」」
「――! ゴン、気づいてたのか!?」
「きゅう~」
ガイムの接近をいち早く察知したのはゴンだったのだ。人間よりも察敵能力が高いのかもしれない。オズは頭の上へ「知らせてくれてありがとな」と礼を投げかけ、Gブレードを構えた。
「休憩するの、あとまわしになっちゃったね」
「はは、締まらないな」
セナとオズは苦笑いを交わした。
「よし、みんなもうひと踏ん張りだ! 行くぞ!」
オズのかけ声の元、ふたたび戦闘がはじまった。
* * *
迷宮内で一度ガイムの群れに遭遇すると、その群れをすべて討伐するのにはかなりの時間を要する。それがたとえ低階層であってもだ。
ルークとアルスは、やる気がないながらも黙々とガイムを狩り続けている。最初こそ「飽きた」「雑魚」などとぶつぶつ不満を漏らしていたものの、今は言葉も少なめに、ただひたすらGブレードを振るっている。ハイテンションの域を通りすぎるとああなるらしい。とはいえ、二人はまだ余力も十分に残していて、このエリアでは力をもて余しているように見える。
本気を出していないというと、オズもそうだった。だが、後方の二人に負担がかからないようにガイムを倒していき、リノが危なそうなら助けに入る。「援護たのむ!」「こっちはまかせろ!」と声をかけながら、みなからリーダーに任された(?)責任をはたそうと奮闘していた。
しかし、体力が温存できているオズやルーク、アルスに対して、リノとユーリには疲労が見えはじめた。リノは動きが雑になってきているし、ユーリは
「《セイン・ラシルド! 光の
「――っ! ありがとうセナちゃん! 助かりました!」
リノをサポートするように、セナの援護が入った。セナには疲れた様子はない。長期戦を見越してうまく余力を調整しているようだ。
「――リ、リノちゃん! 大丈夫かい!?」
ルークが顔色を変え、中衛へと下がってくる。リノは申し訳なさそうに狼耳をぺたんと伏せた。
「ごめんなさいルークさん。すこし、疲労が溜まってしまって……」
「ルーク、前に出すぎると俺とリノの負担が大きくなるんだ。もうすこし下がってくれ!」
「そ、そうかわかった! リノちゃんに負担をかけさせるなんて、ボクは最低だ! ――アルスにもそう伝えてくるよっ!」
ショックを受けた顔で、ルークは前方へ戻っていく。それを見てオズは思った。ルークを抑えるためには、リノの名前を出せばいいのか、と。
戦闘は再開する。オズは自分たちの戦闘を見渡しながら、そろそろ地上に戻るべきかな、と思いはじめていた。フウカからは「危険が迫ったら〈帰還石〉を割るように」と指示を受けたが、オズは安全マージンを取りたいと考えていたのだ。
「《ウルド・エルアーラ!
ユーリが放つ風の矢も、精彩を欠いてきている。狙いははずれ、洞窟の壁にぶち当たっていた。
「ドンマイドンマイ! 疲れたら力を温存しててくれ! ――ッと!」
言いながら、オズはガイムを叩き斬る。「ごめんオズ……」とユーリがこぼした消沈のつぶやきが耳に入り、オズは苦笑した。訓練に過ぎないのだし、そこまで気を張らなくてもいいのに、と。……もちろん、危険な状況にならないように注意はしていたが。
「きゅうきゅう!」
ゴンにまた髪の毛を引っ張られる。オズはハッとして後ろを見た。そこには――
「――走れ走れ! プラチナクラスの僕がこんなところで終われるか!」
「帰還しましょうレックス様!」
「これ以上無理ですガイムの数が多すぎます!」
「「「GYAOOOOOOOOOO!!!」」」
通路の奥。ガイムの群れに追われながらこちらへ向かってくるのは、帝国貴族のレックス一行だった。レックスを先頭に、二人の巨漢が追従する。クラブ勧誘会で相対したメンツ三人。しかし、迷宮の入り口ではほかにも何人か取り巻きがいたように見えたが、はぐれたのか帰還したのか。
「レックス様! あっちにもガイムの群れが!」
「なに!? ――ってあいつはッ!」
レックスはオズの姿を目にとめると、目を見開いた。忌々しげにオズを見るが、ふとニヤリと笑みを浮かべた。突如、嫌な予感に襲われるオズ。
「おまえたち! ここを曲がるぞッ!」
レックスは子分二人にそう叫ぶと、急に進行方向を変えた。通路を横に曲がり、オズの目の前から消えていく。ガイムもレックスたちを追って消えていくが、その中でオズたちに目をつけるガイムが出はじめる。
「「「GUAOOOOOOOOOO!!!」」」
「――くそっ! そういうことか!」
オズは顔を歪めた。レックスが引き連れてきたガイムの半数ほどが、オズたちに押しつけられた形になったのだ。このままではガイムの群れに挟み撃ちにされる。疲労がたまったユーリやリノがいることを考えると、これは明らかに危険な状況だ。
「みんな! 帰還するぞ!」
オズがそう言うと、後方の様子を見ていたほかのメンバーは「うん!」「わかった!」「わかりました!」とうなずき、帰還石を取り出す。
セナ、ユーリ、リノの三人は帰還石を即座に割った。白い光が彼女たちの全身を包み込み、それが弾けると三人の姿は消えていた。
「ルーク、アルス! 俺たちも戻るぞ!」
帰還石を片手にオズは叫んだ。――しかし。
「まだイケる!」
「こんなんじゃ、消化不良だッ!」
ガイムを叩き伏せながらそう返す二人。戻る気のない彼らに舌打ちをしつつ、オズは二人に近づく。
「――それにな! オレにはこんなところで終われない理由がある!」
「ッ、なんだよ理由って!」
「
「――いや、それ絶対とってつけた理由だよな!? 本当に成績を上げたいなら授業中寝ないし、食事も何回もおかわりしないだろッ!?」
二人に混じってGブレードを振るいながら、ツッコむオズ。
「……オズ! 実はボクも
「ハァ!? それはテメーのせいだって言ってんだろが!」
「ちがう! いい加減しつこいぞ脳筋野郎!」
「うるせぇヒョロメガネ!」
「ちょっと黙れよ! おまえら、結局ガイムを倒し足りないだけなんだろ! ――ったく」
オズは二人を帰還させることを諦めた。彼らは本当に危なくなったら帰還石を割るだろう。つまり、今のこの状況はルークとアルスにとって、たいして危険ではないということだ。それはオズも同じことである。
とりあえずは、この大量のガイムをどうにかしなければならない。オズは少し本気を出すことにした。
「おい、なんだよソレ!?」
「〈Gシューズ〉ってやつで、空中を蹴ってジャンプできるんだ。シエル先輩からもらった。……試作品だからちょっと怖いけどな」
「――ズ、ズルいぞオズ!」
アルスとルークは羨ましそうである。
「くそぉ、〈ガ研〉に入ったほうがよかったかな。ッと!」
「いや、〈決闘クラブ〉に入ったオレたちの選択は、間違いじゃねえはずだ……ッ!」
「Gシューズ、ユーリももらってたし、頼めばもらえると思うけど!」
「マジかよ! その先輩、オレに紹介してくれ!」
「ボクもボクもッ!」
「きゅうー」
会話に
実習時間はまだ折り返し地点というところ。まだ時間はたっぷりある。中級〜上級プロバスターに匹敵する実力をもつこの三人の少年が、
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