第24話 コンビニへ行くぜ!
少し軽トラックを走らせた後、俺は車を停車させて携帯を取り出す。
急いで出て来たから、今蜜柑さんが市内の何処にいるのかまでチェックしてなかためだ。調べてみると、地元の商店街を尋ねた後、市内で一番広い駐車場を持つコンビニへ行くことが分かった。
今からなら、コンビニだと間に合う。待っててくれよ。蜜柑さん!
「どこにいくでござるか?」
え? 何で? どこから侵入しやがった!
いつの間にかクロが、俺の太ももの上に我が物顔で座ってやがる。
「どこにいやがった! クロ」
「え? ゆうちゃん殿の頭の上に」
それは盲点だった。奴は重量を感じさせないから気が付かなかったのか。何てことだ。
「仕方ない。今から戻ると機を逸する。絶対に絶対に変身するなよ!」
「猫耳がダメなのです?」
「良く分かってるじゃないか。人間に猫耳と尻尾は生えていないからな」
ついでに、俺と蜜柑さんの出会いを邪魔しないでもらいたい。今の俺は咲さんのお陰で頭スッキリ、この冴えは何でもできる気がする。
悶々とした気持ちも全くないぜ! ヒャッハー。
◇◇◇◇◇
駐車場の広いコンビニに着いたが、このコンビニ、まさか。来る前に気が付いていたとしても、俺はここへ来ただろう。だから後悔なんてするものか!
蜜柑さんが来るというのに、駐車場は閑散としていて人の気配が殆どない。
よろしくない事実に気が付いた俺は、コンビニから少し離れた場所に軽トラックを駐車し、車の扉を開ける。蜜柑さんが到着するまではまだ少し時間があるようだから、コンビニで飲み物でも買っておくか。
「吾輩は?」
「お留守番!」
「寂しいでござる......」
クロが切なそうに俺を見つめて来て、少しだけ罪悪感があったが車の扉を閉めた。だって蜜柑さんが来るんだものー。
コンビニの外から店員を調べてみると、奴だ。奴がいる。そう、一度宿泊に来た憎っくき「4280円です」の若い女性店員だ。こいつは入店しないほうがいいな。
仕方無いからコンビニの周辺をウロウロしていたら、女性店員に見つかった!
「お客様どうされました?」
「い、いえ」
「あ、あの時の! 今日は女子高生さんとご一緒じゃないんですね」
「え、ええ」
女性店員はマリーのことを女子高生と思っている。非常に不本意だが、人間に思ってくれてるので下手に刺激できないところが辛い......
「ここでウロウロしてますと、不審者として通報されますよ?」
「何だって!」
俺が不審者だと! い、いや確かに。買い物するわけでもなく、電話をするわけでもない。コンビニの周囲を何度も回っていたら――不審者じゃないか!
うああああ! 俺は頭を抱え、しゃがみ込んでしまう。
「あ、お客様。ペットは入店できません。なるほど、そういうことだったんですね!」
「ペット?」
「ペットが離れてくれなくて、ウロウロしてたんですよね?」
クロか! クロがいるのか。居た! 背中にガッシと張り付いておったのだ! 俺に気付かれたクロがビクビクしていることは、手に取るように分かる。車内に居ろっていっただろ!
こいつは後でお仕置きしないとな。
ちょうどその時、
「可愛い!」
背後から若い女性の声がする。振り向くと、カメラマンを連れたあの女の子は! 大きな目に、短く切りそろえた肩口までの黒い髪。大きな赤いヘアバンドが可愛らしい少女。華奢な割に、良い体をしている。
黒いスカートに黒のサイハイソックスから見える絶対領域が眩しい。この女性は......蜜柑さんだ!
おおい! 蜜柑さん来たよ! 話かけられたよ!
「あなたのペットなんですか?」
蜜柑さんが俺に声をかけてくる。むふー。
「ええ」
「触っても、いいですか?」
上目遣いで見つめて来る蜜柑さん。俺じゃなくてクロを。
「どうぞ。どうぞ」
背中からクロを引き離し、彼女の脇の下に手を入れて持ち上げると、蜜柑さんへ向ける。
「わああ」
嬉しそうな可愛い声をあげる蜜柑さんが、クロの頭に手をやると、恐れ多いことに奴は顔をプイとそらして蜜柑さんの手を避けやがったんだ。
ちょ! クロ。今はクロに注意できないのが辛い。猫がしゃべったら大事だからな。
「す、すいません。どうも機嫌が悪いみたいで」
「猫ちゃんって気まぐれですから」
笑顔で蜜柑さんはそう言ってくれたが、こいつは普通の猫じゃない。こいつ今何を考えているんだ。
このまま蜜柑さんとの会話を終わるのか。猫に触れなかった残念な気持ちのままお別れしてもいいのか。いやダメだ。それじゃあダメだ!
何とか会話を繋がないと。
「そうなんですけど、こいつ一応我が宿のマスコットなんですよね」
「猫ちゃんがいる宿なんですか! 素敵ですね!」
「は、はは。そうですか。まあ気まぐれで困ってるんですけどね」
「猫ちゃんはそこが可愛いんですよ! ぜひ一度取材させていただけますか?」
「うちでよければ! ぜひ!」
うおおお。蜜柑さんが、ご当地アイドル蜜柑さんが我が宿へ来てくれるのか! これは気合を入れねば。しかし、この猫むっさやる気ないんだが。
蜜柑さんと別れた俺は軽トラックへ戻ると、クロにさっきのことを話ことにした。
「クロ、まさか背中に張り付いていたとはな」
「吾輩、ゆうちゃん殿と離れたくなかったでござる......」
シュンとするクロの頭を俺は何度か撫でると、彼女は最初少し驚いた様子だったが、気持ちよさそうに目を細める。
「いや、ナイスだ。結果的に大成功だ!」
「そ、そうです?」
「あ、ああ。ナデナデするくらい大成功だ」
俺はさらにクロの頭を撫で、ついでに背中やらもワシャワシャしてやる。
「き、気持ちいいでござる」
「そうかそうか。コンビニでご褒美を買って来る。少し待っててくれ」
「えええ。そういうことなら待つでござる」
急ぎコンビニにダッシュした俺は、ある物を購入すると急ぎ軽トラックに戻る。
「ほら」
俺はクロに最高級ネコ缶を手渡すが、あまり喜んだ様子がない。
「だから、吾輩は猫じゃないと......」
「そ、そうか。すまなかった。何か欲しいものあるの?」
「ゆ、ゆうちゃん殿が......吾輩に?」
「あ、ああ」
「ゆうちゃん殿ー!」
ペタンと俺に張り付いて来る猫。「ゆうちゃん殿が欲しいでござるー」とか言ってるが聞こえないふりをする。まだ俺は喰われたくないんだ。いや、喰われるかは知らないけど。
ただでは済まなさそうなんだよね......
「吾輩、ゆうちゃん殿とお出かけしたいでござる」
「お出かけ? 今もしてるじゃないか」
「人間形態でお出かけしたいでござる!」
「うー。それはハードルが高いな......いやでも」
待てよ。クロが猫耳姿で外に出ていくのは確かにかなりハードルが高い。ただ、クロに与える餌としては極上の物だろう。
ならば、猫のいる宿を上手く演技できたらご褒美としてどうだ? これなら必死で演技してくれると思うんだ。
「クロ、蜜柑さんが宿に取材に来る。その時に上手く猫を演じられたら考えよう」
「ほ、ほんとでござるか! 拙者頑張るでござる!」
単純な奴め。ククク......
しかし、クロが蜜柑さんを嫌がったことが気にかかるな。一体何が。
※なんか気分が良くなっていますが、必ず君を叩き落す。BY作者
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