第14話 新たな住処
「そんな、俺はなんてことを…」
頼まれてしまったんだ。と、俺は頭を抱えた。
たとえ魔王の討伐を頼まれたりしたって、ここまで動じはしなかっただろう。結構色々と考えてはいたんだ。
もっと長いスパンでの、労働を。
特殊技能を用いた短期間の課題。
ほぼ身一つで放り出された俺の身の上からしてこれは意識的に考えないようにしていた問題だった。
できないものはできない、頼む奴が悪い。
そう開き直るつもりでいたが、現実に責任を感じてみると、そうもいかない。
村の危機?そんな大層なもの、どうやって背負えばいいというんだ。夏休みの宿題以上に重い責任なんて、俺は背負ったことがない。
「その情けない顔、やめてくれないかしら」
俺の錯乱を、ミユルの言葉が遮った。
キツイ言葉がとは裏腹にその言葉には、どこか優しい、慰めの色がある。
なぜミユルが俺を慰めるのだろう。
『そんな、俺はなんてことを…』
してしまったんだ…
さっきの俺の言葉を、ミユルはそう捉えていた。
俺は遅まきながらミユルの真意に気がついたが、礼を言う前にミユルは続ける。
「皆の様子見たでしょう?帰ってきたアンタを見て、皆真っ先に喜んでた。……………そういうことよ」
自分の言葉に赤面し、そっぽを向くミユルは、なんというか…とてもかわいらしい。
「ああ…ありがとう」
俺の礼に、ミユルは大きく溜息をつくと、聞きたいことがあれば聞きにこい、とだけ残し部屋を出て行った。
まだまだ聞きたいことはあった。しかしその時の俺はそれ以上の行動を起こせなかった。
「え?」
頬に暖かい雫が流れ落ちる。
なぜか俺は泣いていた。
それが《彼》のものなのか、俺のものなのかわかりはしなかった。
とりあえず、その涙が止まるまでに一定の時を要したというのが全てだ。
●●●
それから俺は、ミユルに自分の家を教えてもらい、こうして全く安心できない我が家へと帰宅したのである。
しかし今更ながらとんでもない状況だ。自分の意思とはいえこんな謎世界に来たのもつかの間第二の故郷は俺のせいで滅びかけているときたもんだ。
逃げ出しても誰も文句は言わんだろう。どこにも逃げ場はないしな、小鬼の餌になるだけだ。セルフ死刑。
「ハハハ…詰んでるな」
何を笑っている、とひとりごちる。
彼の残した仕事を肩代わるためには後数日中に魔法文字を覚えなくちゃいけない。
そんな思いから書物を眺めましたが無理無理、どうしようもない。
もう未だ行方知れぬイルミアがヒョッコリ戻ってきて全てを解決してくれるのを願うのみだ。なるようになれ。
頭が軽くなる。わーい、楽になったぞう。
そんな風に思考を空に飛ばしていると、どこからか聞き覚えのある鳴き声が聞こえた気がした。
玄関のドアが開け放たれた音がした。俺が何事かと降りるとそこには再びあのイカれた笑みを浮かべるミユルが立っていた。
「フフ…フヒヒ…会いたかったわぁ」
不気味な猫なで声で近寄るミユルに気圧されてしまう俺。ジリジリと後退するがすぐに壁へと行き当たる。
「なんですか!?やめて!寄らないで!!」
「フフ…その感じにも慣れてきたわね、そっちのほうがいいんじゃなぁい?ずーっと…」
「何か用なんですか!?用件、用件を聞きましょう」
そうね、と素の表情に戻るミユル。してその用件とは。
数分後、俺は家の外にいた。
先ほどまで俺の家だった場所、そこからはミユルの高笑いが響いてきている。
ミユルの用件とは単純明快、解雇通知であった。村の英知の結晶ともいうべき我が家の地下図書館を管理するにあたって、俺は不適格だと見做されたのだ。よってその代理をミユルが務めることとなったそうだ。
ちなみに彼とミユルは数年前、就労権を賭け壮絶な闘いを繰り広げたらしく、負けはしたもののミユルは今もその職を虎視眈々と狙っていたことは周知の事実だと後に知った。
ミユルの異常な様子はそのためだったようだ。
図書館と家は同一建造物なため、管理者は必然的にそこに住むことになる。
つまりだ。
俺は再び家なき子となったのだ。
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