第56話 スキル
俺は魅了(チャーム)使ってきたフィーの目を正面から見つめて改めて言った。
「どういうつもりなんだ?」
フィーは目を泳がせる。
「なんていうかこれは……そう! コウセイさんを試したんすよ」
なぜフィーは動揺しているんだ?
「いや……なんで俺が試されるんだ? このまま俺が気付かなかったらどうするつもりだったんだよ……」
「それはその……。別に魅了(チャーム)をかけたままコウセイさんを馬車馬のように働かせて、私は一生ダラダラして生きる……とかじゃないっスよ? このまま魅了(チャーム)に気付かなかったらそれでもいいや、とも思ってないっス」
少し顔が焦っているのがわかり、どこか言葉のテンポも早い気がする。
「フィー、それ嘘だろ?」
それを聞いたフィーは表情をすぐさま切り替えて真剣な顔になる。
なんだ?
まさか……。
動揺していることさえも演技だった?
そのことに俺は気づかされて内心驚く。
「なるほど……このくらいじゃ騙されないっスか。でも半分くらいは本気だったっスよ?」
「冗談だった……のか?」
でも半分は本気だったってことは、ヒモ女になろうとしたことも本当ってことか?
「じゃあ本当のことを言うッス。もしこれから先、結婚を承諾してくれても、私が『魅了(チャーム)』のスキルを持っていると結婚の後で分かったら、コウセイさんはどう思うっスか?」
「それは……」
そんなの決まっている。
この結婚は魅了(チャーム)で強制されたんじゃないかと思うだろうな。
「それが答えっス。コウセイさんは魅了(チャーム)にかかっていないか、結婚前に自分の意志を確かめることができるんスよ」
言い終えると、フィーは微笑んだ。
俺はさらなる驚きを得た。
まさかそこまで考えていたのか。
「なるほどな……確かにそれなら自分の意志に言い訳ができないな」
ていうか、なんでこの子は俺と結婚することが前提になってるんだ?
だからこそ、どこかこの子の言っている結婚したいという気持ちが嘘臭く思えてしまう。
俺とどうしても結婚したいと思う女性がいるなんてありえない、そう思うのだ。
「それでここからが本題っス。私は運命の人と出会った時に、自分に惚れてもらうための秘策を容姿しているんスよ。魅了(チャーム)も効かない人にだって有効なはずっス。これでコウセイさんも私と結婚したくなるはず……」
「……はあ。ちなみにそれは?」
俺は半ばため息交じりでそう返していた。
魅了(チャーム)がダメだとわかって、精神系のスキルは一切通用しないのだ。
この自信がどこから湧いて来るのかがわからない。
まだ、『お友達』にとか『お付き合い』をとかなら別だが、俺がこの場でこの子と『結婚』をする気になるだと?
そんな何かがあるとは到底思えないわけだ。
「一晩中練習して、ようやく習得したんス。よ~く見ててくださいっス。じゃあ、いくっすよ?」
そういってゆっくりとベッドの方へと移動するフィー。
俺は少しだけ興味深げにフィーの様子を眺めた。
ベッドに向き合って一体何をするつもりなのかと。
フィーはその手でベッドの上の布団に手をかけると、それを両手でつかむ。
それから布団を持ちあげて宙へと投げ飛ばした。
「布団が~~~、吹っ飛んだぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
そのまま宙へと飛ばされた布団は、天井を突き破り遥か空の彼方へと飛んで行った。
破壊された天井の破片が部屋にぼろぼろと落ちる。
「……」
俺は口をあけたまま言葉を返すことができなかった。
なんなんだこれ……。
「どうっすか? この一発ギャグ、面白かったっスか?」
一発ギャグ? いやただのダジャレじゃないかこれ。
しかもその内容が現実になっている。
まるで『言霊』のような……。じゃあこの現象はスキルか?
確かに、俺の目の前で柔らかくて軽い羽の布団がはるか彼方へと吹っ飛んだのだ。
「なあ……、ちょっとわからないんだが、俺を笑わせたかったのか、それとも驚かせたかったのか、どっちだ?」
「え? 笑わせたかったんス。面白くなかったスか? 今の見て私に惚れないんスか?」
曇りのない瞳で、そう疑いなく信じている顔をしていた。
「いや、待て! どこからツッコめばいいのかわからないくらいだ!!」
ダジャレが実現しているのはすごいことなのだろう。
だけど、なぜこれを見たら俺が面白さのあまり笑い転げて、フィーと結婚したくなるのかが全く不明だった。
「そ、そんな……。せっかく練習したッスのに。はじめて自分で努力して手に入れたスキルなのに、それが全部無駄だったっていうんスか……?」
衝撃的な事実を聞いたという顔のフィーは数歩後ろへ下がる。
なにかブツブツと呟いていた。
どうやら、フィーの持つスキルというのは、他の人とは違って特殊な傾向にあるようだ。
それが今ならなんとなくわかる。
人体実験の影響を受けているのも間違いないだろう。
そして、欲しいスキルを手に入れることができてしまったことも。
それが不発だった。
その尋常ではない驚き様からも察せられる。
だから俺はこう言ってやった。
「まあ今のは置いておこうか。それに俺はフィーが嫌いだと言っているわけではないんだ。俺のことをいいと言ってくれる人間はこの世界に一人いるだけでもう奇跡なんだ……」
「それって……」
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