第30話:封印のダンジョン

 俺たちはいま、あるダンジョンへと向かって山道を歩いていた。

 妹のモニカは俺の横を歩いている。その隣には、ちょっとしゃべり方が固い女性の冒険者で、名前はクリスティーナ。


 もう少し前を歩いているのが、7人。


 訓練場にいたグループが2組(初心者の5人)がいた。


 男が3人集まっているグループと男女2人のグループだ。


 あと他には、指導を担当するB級の冒険者が2人の男女だ。


 合計で10人が目的のダンジョンを目指していた。



 指導員がそれぞれのグループについて、


 男3人がAグループで男の指導員(坊主頭が特徴)。

 男女ペアがBグループが女の指導員(背がめっちゃ低い)。

 俺たちがCグループはクリスティーナが指導員(固い?)。


 にわかれることになった。



 まあ、細かいことはいいや。

 俺はモニカを含めて、二人が強くなれればそれでいいのだから。


 俺たちはクリスティーナについていき、ダンジョン探索するのだ。

 そこで指導員の彼女にいろいろ聞けばいいということのようだ。




「よし、到着したな。これからダンジョンに行って魔物の倒し方を実践してもらう」


 少し緊張しているモニカが俺の手をぎゅっと握ってきた。

 俺はそれを横目で見た後、クリスティーナにダンジョンの詳細を聞いた。


「ここは?」

「ああそうだな、ここは『封印のダンジョン』だ」

「封印?」

「ああ、白竜(ホワイトドラゴン)を最下層に封印しているらしい。まあ、そんなに心配しなくてもいい」

「あまり初心者向けじゃない気もするが……」

「封印の魔法陣が働いているから、住み着いている魔物はすごく弱いんだ。生態系も大体わかっているから、出てくる魔物もわかっているんだ」

「そうか……具体的には?」

「そうだな……グレートトカゲやドラゴンバードといったところが多いようだ。初心者でも時間をかければ十分に倒せる魔物だよ」



 ダンジョンの入り口は茂みの中にある洞窟のような場所だった。

 ここから奥につながっているらしい。

 10人くらいなら横に並んでもいいくらいに洞窟の中は広かった。ここがもうダンジョンの最上階らしい。


 薄暗い洞窟を進んでいくと、前の方を進んでいたAとBの2グループが騒がしくなった。

 魔物が現れたらしい。

 先の様子が見えるところまで俺たちも歩いていくと、灰色の数メートルほどある巨大なトカゲが2体、前方をふさいでいた。


「出たな」


 すでに1体は、AとBのグループが戦い始めているようだ。

 それをみてクリスティーナが俺たちに声をかけた。


「仕方ない。こちらは二人だが……よし、じゃあ、早速実践だな。グレートトカゲと戦ってみるといい。私もいるから安心してくれ」


 そういってクリスティーナは俺たちの背中を押した。


 まあ、たかだかトカゲだ。

 爬虫類だ。俺の敵じゃない。

 が、今日は能力でどうこうせずに武器を試してみるか。


 しかしデカいな。

 モニカはハルバードを構えて、突撃した。


「やあああああああああああ!」


 トカゲの胴体部分に周り込んで、ハルバードで一撃を加えた。

 それなのに、グレートトカゲはピンピンしていた。


 モニカは刃が効いていないことにすぐ気付く。


「え? あれ……」


 戸惑っているところを尻尾が襲った。

 

「きゃあ!!」


 洞窟の側面に叩きつけられそうになるモニカ。

 俺は直前に空気の塊をクッションになるように操作した。


「あれ痛くない?」

「大丈夫か?」


 俺はモニカの手を取って立ち上がらせる。


 トカゲのくせに妹に手を出したな?

 こいつは俺が確実に始末する。

 だれにも邪魔はさせない。


 試しにこの妖刀の切れ味を試すか。

 刀を腰から抜いて俺もモニカが攻撃したポイントへと切りかかった。


「はああああああああああ!」


 ところが、少し表面が切れただけで大きなダメージを与えている感じではなかった。


 武器の優劣以上に、刃物が効きにくいのかもしれない。


 ぎろっと俺の方を睨んだグレートトカゲは、大きく口を開いた。


 ん?


 口の間に空気が赤熱していくのがわかる。


 ブレスか?


 グレートトカゲはモニカと俺をまとめて焼き払おうとしているらしい。


 おいおい、これ初心者が倒せるレベルなのか?

 能力使わないと倒せる気がしないぞ。

 向こうも苦戦しているのか、まだ5人がかりでの総攻撃が続いていた。


 しかし、目の前に現れたのは洞窟を包み込むほどの大きさではなく、人間が放つ程度の火球だった。


 俺はそれを横にステップして避ける。

 大技の隙を窺って、モニカが例の霧影でグレートトカゲの背後に回ったのだ。


「えいっ!」


 ハルバードをお尻のあたりへと叩きつけた。

 打撃を加えるつもりだったのだろう。

 確かにいま、グレートトカゲの表情が歪んだ。


 そういうことか。

 物理耐性の種類が違うんだな。


 俺は刀で戦うのをやめて、手に大槌(おおづち)を換装した。

 身体能力を強化したうえで、グレートトカゲの腹部へと潜り込んだ。

 大きく槌を振り上げると悲鳴のような鳴き声がグレートトカゲから漏れ出た。


 いける、いけるぞ!


 さらに武器を換装して、鉄球へと変えた。


 頭上で大きく回転させて、顔面へと叩きつけてやった。


 き~~~~~~という鳴き声を残して、地面へとトカゲは倒れ伏せた。


 やったか。


 

 そこで拍手する音が聞こえた俺とモニカは、そちらを振り向いた。

 クリスティーナが嬉しそうに手を叩いていたのだ。

 

「すごい。この感覚は……有望な冒険者を見つけたというべきか」


 それに照れているモニカはあえて否定した。


「そんなことはありませんよ……。私はあまり役に立ちませんでしたから」


「いや、二人ともだよ。まだまだ戦い慣れていない感じがあるとはいえ、この短時間で、しかもたった二人でグレートトカゲを倒せたんだ。なかなかできることじゃない。見たことのない移動技を使えるのもそうだ」


「他の初心者とそんなに違うのか?」


 能力は攻撃に使っていないのだが。


「ああ、もちろんだよ」


「あっちを見てみるといい」


 前方では5人がかりでまだ戦っていた。

 

 しばらくして、なんとかグレートトカゲを倒せたようだ。

 

 クリスティーナは指導員の事を思い出したように、付け加える。


「じゃあ、ここでアドバイスだ。まずはモニカから。一撃が軽いからもっと手だけじゃなくて、身体全体でハルバードを振ってみてくれ。次に、コウセイ。君は武器をたくさん使えるようだな。もう少し一つ一つの性能を引き出せるように武器を使い慣れていく必要がありそうだ」


「はい」

「そうか……」


 なるほど。俺の場合、能力を攻撃に応用して使わないとそう見えるわけか。

 性能をより発揮できる使い方をしたほうが効率がいいってことだな。

 もう少し性能について知って、使いどころを見極められるようになるのがいいかもしれない。



 俺たち一行は、さらに奥へと進み、螺旋(らせん)状に下る道から階を下りることにした。

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