第10話:モキュ
朝になると俺は湖を出発した。
そして、
もちろん、モフモフな背中に乗って。
「キュッ、キュキュ」
空を飛んでいることに驚いたのか、鳴き声をあげているらしい。
空かけるハムスターと一緒に、俺は西へと向かう。
「そういえば、ペットにするなら名前をつけてやらないとな」
俺はこのハムスターに名前をつけてやることにした。
「ん~~~、『ハム子』とかどうだろうか? よし、今日からお前はハム子だ!」
そう告げた途端、ハムスターは身体を揺らして、首を振った。
「キュッ! キュキュッ!」
悲しそうな鳴き声と、その大きな目が涙でうるうるしているような気がした。
「駄目だったか?」
ハムスターでメスだからと、ちょっと安直過ぎたらしい。(♀であることは湖で確認済み)
「じゃあ、モフモフでキュッと鳴くから『モキュ』でどうだ?」
「キューキュー」
すると、うんうんと首を振った。
気にいったらしい。
これからこいつの名前は『モキュ』だ。
木がぽつぽつと生えている場所から荒野がしばらく続くと、その先には草原地帯がありその中心には一つの村があった。
空から見る限り、そんなに規模は大きくなさそうだ。
集落が点々としていて、人がいるのがかろうじてわかるくらい。
さてまず最初はどうすればいいか……。
とりあえず、普通に挨拶するか?
よしそうしよう。
この村で、この辺のこととか国(まともそうな王国)の
あの国王軍の奴ら、俺たちを捨て駒にするつもりだったから、王国の城からダンジョンのある周辺のことしか情報を与えなかった。
確かに魔王退治に必要はなかったが、今にして思えばわざと情報を制限していたのだろう。
気流を操作して、モキュを村のそばへと着地させた。
俺はモフモフの名残惜しさを
「や、やあ、こんにちは……」
すると振り返った少女はちゃんと挨拶を返してくれた。
「はい、こんにちは……」
見た感じまだ子どもで、日本だと12~3歳くらいになるだろうか?
黒いロングの髪と陽に焼けた肌、細い体つき。
どこかのアジアン民族風衣装のような麦色のワンピースを着ていた。
手には籠を持っていて、その中には草みたいなのが入っていた。薬草かもしれない
挨拶はしたものの、少女は誰この人?という視線を向けている。
そして、隣に視線を向けてギョッとした。
籠を落としてしまい、ぱらぱらと草が地面に散らばる。
それを必死でかき集めて、どこかへ逃げ出そうとしていた。
モキュは、ハムスターとしては大きすぎるし、他の大型動物と比べてもデカい。
だから、見た目で本物の『魔物』と間違えてしまったのだろう。
「一応言っとくが、魔物じゃないぞ? こいつは、モキュだ」
「そ、そうですか……」
しゃがんだ状態で、じ~、とモキュに視線を送った後、「はぁ」と息を吐き出した。
よく観察してみたら魔物じゃないことがわかって安心、といった感じだ。
てか、魔物ってみんなドス黒いから、わかると思うんだが。
どこをどうやって、魔物じゃないと判断したんだろうか?
ああ、そうか。普通はわからないのか。
色の類型ができるのは、たくさんの魔物をダンジョンで血祭りに上げてきた俺だからわかるんだな。
それなら納得だ。
草を拾いようやく立ち上がった少女に、今回の目的を告げた。
「それでなんだけど、この辺のことをよく知っている人って村に誰かいないかな?」
「え、ええ。大人の方なら……」
「じゃあ、案内してもらってもいいかな?」
「……私がですか?」
すると少女は、嫌悪感を
そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか……。
「モキュのことが魔物じゃないって知っているの君だけだから……と思ったんだけど、駄目か?」
「それでは……。一応、お名前をうかがっても?」
「俺はコウセイだ」
「コウセイさんですか。私はディビナといいます」
俺は横を歩いているモキュへと視線を送った。
「そうか。ちなみに改めて紹介するとこいつは俺のペット、モキュだ」
「そ、そうですか……」
なんか、ペットという説明に微妙な顔をしていた。
やっぱ、ちょっとサイズが大きすぎただろうか?
いや、モフモフなんだからオッケーだ。
そんな自己紹介を終え、俺は人のほとんどいない村の様子を眺めながら「過疎化が進んでるのかな?」とか枯れた畑を見て「村の農家はなにしてんだろう?」とか思いながら、俺たちはの村の中央へとたどり着く。
「ここは?」
木で建造さされた、いかにもな村の一軒家がそこにはあった。
「長老の住む家です」
「長老?」
「一番この辺のことを知っている方です。ちょっと事情を話してきます」
先にディビナという子がモキュの事情を説明してから、案内するということらしい。
外に置いてっても、魔物と間違えられるかもしれないし、中に入るにも長老だと『ぎっくり腰』とかになりかねないと判断したのかもな、たぶんだが。
幼そうなのに、意外にしっかりしてるようだ。
「それに、長老から何を聞くか整理しておかないとな」
そう呟いて、頭の中で質問を浮かべながら、モキュの毛並みをそっとなでた。
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