第7話 階級

「いろいろ悪いな。早く済ませて帰してやろう」


 彼のその一言で、嘘みたいに落ち着いた。

 見た目はどうあれ、彼は神様。その言葉はとってもありがたいので、深く頭を下げておく。けれどそのあと、とんでもない言葉が僕の口から出た。そして、とんでもない会話が続いた。


「あなたは神様ですよね?」

「神に見えぬか?」

「失礼ながら」


 止めようとしても口は勝手にしゃべる。もしかしたら、彼がそうさせているのかもしれない。


「紛れもなく俺は神で、お前を創った者だが?」

「あ、ありがとうございます」


   本当に失礼だが、何がありがたいんだか……。


「神といっても、階級でいったら私は下から二番目だがな」


   はっ? 神様に階級? 何だそりゃ?


 彼の左眉がまたピクリと上下に動く。とっさに僕は身構えた。


   来るぞ、目力!



 彼が言うには、神様には全部で五つの階級があるらしい。五番目の階級が、この星ではさらに四つの階級に分かれているそうだ。彼はその中の三番目。この星全体をまとめる神が上にいて、その上にこの星が属する星々のまとまりを司る神がいる。またその上に星のまとまりのまとまりを見守る神がいて、さらにその上に最上級の神がおられるとのこと。

 つまり、太陽にも月にも神がいて、この星には大陸ごとの神や国ごとの神もいる。さらに分けられた、地域ごとの神が彼の階級。そして、四番目として神候補の階級まであるという。全部で何人の神がいるのかは、最上級の神しか把握できていないらしい。彼はお会いしたことがないそうなので、質問しても無駄だろう。


 彼はこの国の中の一つの地域を任されているわけだが、この星には人間がいるから、僕たち天使が生まれるのだそうだ。彼は『生まれる』と表現したけど、僕からすれば、やっぱり『創られる』が正しいと思う。

 彼の説明だけで判断すると、神様の世界もなんだか人間世界の会社みたいだ。僕や神候補は平社員で、彼は主任というところか。その上に係長、部長、常務に専務に、社長、会長。無慈悲な移動や、リストラの心配がないだけましだ。なぜだか、虚しい気持ちになった。


   まさか、僕はリストラ勧告されるのか?


 うなだれてそのまま前のめりに倒れ込むと、でんぐり返しを二回した。


   えっ、これでさよなら……?



 体が安定して目を開けると、そこは僕の部屋。もとの椅子に座っている。湯気を立てるフライドエッグとベーコン、冷えたトマトが目の前にある。手には戻っていないが、トーストが二枚。それぞれお気に入りの皿に乗っている。トースターからの香ばしいにおいに鼻と胃袋が刺激された。


 きゅるる。

 おなかが鳴った。


 迷うことなくトーストをつかんで口に運んだ。この香りと味、至福の時だ。トマトは冷たく、たまごとベーコンは温かいまま。

 トースターから次のトーストを取り出して、僕は二千五百キロカロリーの朝食を平らげた。

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