全力を出せる。競い合う仲間がいる。そして何より、なんの心配もなくぶっ飛ばしてしまえる!
そんなの面白いに決まってる――それがこの作品における戦いです。
鋭一くんも彼の友人も、みんな本当に楽しそうで、読めば憧れてしまうこと請け合い。いいなあ。自分もこのゲームを遊びたい。戦いたい!
幸運にもそれを叶えた人間が、ヒロインの一色葵ちゃんです。
彼女がまたたいへん可愛い。さらに加えてメチャクチャ強い!
それもそのはず、彼女は一子相伝の暗殺拳を伝える家系の末。とは言え太平の世にあって、その技は振るわれることもなく燻るのみ……でした。
仕方のないこと? いいや、違う。かつての昔ならいざ知らず、今は戦いの良い面だけを、明るく楽しく体感できるのですから!
文章の確かな構成力、王道のボーイミーツガールの魅力をも備えつつ、暗いところのないゲームとしての戦闘を描く本作。
「電気のヒモに対してシャドーボクシングするくらいの気軽さで、人を殴れる時代がやってきた。」
なんと清々しいことでしょう。活力に溢れる登場人物たちが、どのような立ち回りを披露してくれるのか、この先楽しみでなりません。
VRゲームモノの作品は数あれど、この作品ほどその意義を肯定的に描いているものも少ないのではないでしょうか。
拡張された現実。それは、本来の世界では成し得ない様々なことを可能にします。
それはたとえば、命のやり取りを爽やかなスポーツに昇華すること。
それはたとえば、平凡な高校生がゼロコンマの鎬を削るサドンデスバトルの王座に君臨すること。
それはたとえば、現実には許されない、一子相伝の暗殺古武術を存分に振るうこと。
主人公・鋭一は、偶然目撃してしまった同級生・葵の圧倒的格闘技能に惚れ込み、彼女をVR格闘ゲームの世界に誘います。
おずおずと、しかし確実に、少女が嬉々として格闘世界にのめり込んでいく様子の微笑ましさは、友人が自分の薦めたゲームにどハマりしていくのを見たことがある人間には「それな!」と頷けること請け合いです。
葵ちゃんの、一語一句・一挙手一投足が可愛いんだなあーーこれが。
また、この作品、着替えを覗いてしまったり胸を触ってしまったりなど、所謂「お約束」描写も完備しているのですが(ありがとうごさいます!)、それらのことごとくが、サービスシーンのためのサービスシーンではなく、論理的要請によって配置された必要不可欠の描写なのです。
どこかで見たり聞いたりしたことある展開の、そのあまりにも美しすぎる流れの中にある様は、あたかも達人による武術演舞の如くです。
そして、演舞に魅せられるうちに訪れるBattle3は、まさに珠玉の出来。
鋭一と葵の、本気のぶつかり合い。
二人の武芸、思い、それらをひっくるめた「生き様」の交錯には、思わず涙ぐんでしまうような熱さが込められています。
この先の展開も、早く読みたくて仕方がないです。
レビューの結びとして、葵ちゃんを知ってしまった者は考えずにいられない命題を投げかけたいと思います。
「自分なら、どの人体部位を破壊されたい?」
当方はやはり眼球です。よろしくお願いします。