第44話 美しく、寂しい世界の片隅で
どこまでいっても、どこまでいっても、世界は青白い石で出来ていた。
素足で踏む地面は、ひんやりと冷たい。
滑らかな肌触りだが、氷のように滑るというわけではない。
いまさら気づいたんですが、俺の手足の大きさがちょっとおかしい……ってゆーか、これってもしかして坂谷くんバージョンなの?と、広げた両手を見下ろしながら思う。
いや、でも、髪の毛はナジィカさんの銀髪だ。しかも、長い……あれ?これって女装してたときのカツラですかい?そして、なんか服が妙にひらひらしてんなー……でもサイズ的に、5歳の俺が着ていた服では無いようです。そもそも白いし。
「いててててっ」
「主、何をやっている?」
カツラなら外せるだろうと、髪の毛を引っ張ってみたが、物凄く痛いだけだった。
後を追ってきた炎王に、変な顔をされました。数分前に、俺よりも余程変な行動をしていたくせにね。
それはさておき、俺の現状なのですが……。
「……俺はいま、どんな顔をしてんの?」
俺はナジィカですかね、それとも坂谷くんですかね?
この体はどー見ても、5歳児の手足のパーツではないよな。
でも、髪の毛は天然のよーです。
ということは、坂谷くんの顔に銀髪&長髪スタイルですか。
それってどんなびじゅあるけいばんど。
ビジュアル系の認識が間違ってる自覚はあるから放っといて。
いや、俺の顔に銀髪だと、コメディアン系になるですかね?なんて思い直していると、炎王が俺の顔を見下ろしながらいいました。
「人族の美醜に興味はないが、主の見目は麗しいと思うぞ」
はい、どうやら外見はナジィカさんらしいです。
坂谷くんの顔を見て、麗しいなんて言葉が出てくるはずねぇですからね。どーせ、俺の顔面偏差値は平均値だったよ、ケッ。イケメンマジ爆ぜろ。
「あー……さよーで」
褒められても別に嬉しくない。
「それに、主は魂も美しいぞ」
「へー」
それもいまいちピンとこないが、じっと見下ろしてくる目力が強烈過ぎて、適当な返事を返した後、ふいっと顔を逸らした。
俺の守護精霊はホストに転職するつもりでしょうか?
ぺたぺたと、ひんやりした地面を歩きながら、ここって何処なのでしょうねー?と、今さらな疑問を抱く。
あてもなく歩きまわる前に、それを確認すべきじゃ無かっただろうか。
ちらりと空を見上げる。
うすい青色の空の果てを知ることは出来ない。
遠くに見える山のようなモノも、地面と同じ青色の石で出来ているようだった。
木々の一本も、草花の一つも、家も無ければ鳥や獣の存在も感じられない。
ただ、風は吹く。
そして【りーん】と、か細い音が鳴った。
美しくて、寂しい、静寂の薄青色の世界に、俺と炎王だけがぽつんと存在していた。
「な?俺って、もしかして死んじゃったんですかね?」
「俺が守護をしながらそんなハズがあるか」
「ほぉー。そのわりに俺は放置されてたみたいですけどねー」
ちょっぴし意地の悪いことを言ってみる。
だって来なかったじゃん。俺、呼んだのに。
毒を盛られた時も、巨大狼に踏み潰されかけた時も、ひとりぼっちにされた時も、俺は呼んだのに、来なかったじゃん……。
「……いや。ごめん、いまのやっぱ無し」
落ち着こう坂谷くん。
いまの言い分だと、なんだか放っとかれて拗ねてる子どものワガママみたいじゃん。
俺の精神は一応高校生だろう。最近ちょっと自分でも怪しくなってる気がするけど、ピチピチ15歳の能天気な坂谷くんがベースだろ。いやだよ、悲愴家で人嫌いで精神病んでるバッドエンドが約束された王子さまとか、ホント勘弁してください。
落ち着けーと念じていると、きゅっと手を握られた。
「主の側に行こうとした……けれど飛べなかったのだ」
ばつが悪そうに、炎王はそう言った。
「来ようとは、したんだ?」
「当然だ」
なんだ……主従関係が無くなって、もう帰ってこないのかと思いもしたけれど……違ったみたい。
そっかと安堵の息を吐き出した。
でも、呼んでも来れないなら、もしかして向こうに戻ったら、炎王にはまた会えなくなるのか?そして、二回目ですがここはどこなんでしょう。
そして、現実の俺は……。
「……あれ」
そーいや、俺、谷底に落ちたんだよね。
ルフナードはどーなったんですか?
「え?え?ちょっと待て!ちょっと待て!」
記憶!どこまで記憶がある?
えーと、馬車から飛び降りたことは、何となく覚えてるぞ。それから、左手が熱くなって背中も熱くなって?
やべぇ、そっから先の記憶がない。
無事に着地した自信もない。
あれ。これ、死んだ?
「も、ももももしかしてルフナードは死んじゃったの!俺の数少ないお友だち候補がぁぁ!状況が原作より悪化してんじゃん!!」
いや諦めんな坂谷くん!この目で確認するまで決まってねぇーでしょ。ちょっぱやで向こうに戻ろう!
「そっこー戻るぞ炎王!ルフナードが超心配!」
「む……。なんだ、そいつは。今度はどこの精霊に名を与えた」
「名を……?えっと、よくわからないけどルフナードは人間だからね?俺の未来のお友だち」
「人族だと?ふん、愚かなヒトの身を案じる必要があるのか?放っておけば良い。人族は掃いて捨てるほどに多いのだ。そのうちの千や二千が消えたところで箱庭の継続に影響はない。些細なことだ」
さ、些細なこと……?
千人、二千人が消えても、気にするな?
ちょっと、炎王……そんなんだから、お前はナジィカさんに拒絶されるんだよ。
それに俺だって。
「お前のそーゆーとこ、好きじゃない」
「なんだと」
思わず声に出してそう言ってしまった。
炎王の声音が、めちゃ怖かったです。
いや、でもさ、俺、悪くない、よね?
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