第十章 新しき日々

10-1 王と王妃の結婚

 鮮やかに、晴れた日だった。


 ルゼロス特有の瑠璃のような蒼穹が、どこまでも広がっていた。


 魔法式の花火が上がり、スフェイバの街はどこもかしこも、鮮やかに飾り付けられていた。

 重厚で雅な街並みのそこここに季節の花、そして繁華街には出店が軒を連ねている。

 メイダルとの交流が始まって、そして六英雄たちの間から異なる世界の調理法が伝えられ広まった新しい料理の匂いが街に流れ、屋台でも構えの店舗でも、特別メニューが飛び交っていた。

 うきうきしたお祭り騒ぎに誰もが参加し、国を挙げた祝い事を喜んでいる。


 街角のTV画面には、城の広間前、王と王妃に似せたウェルカムドールが大映しに……



 ◇ ◆ ◇


「綺麗だ、レルシェ」


 オディラギアスは、今から正式な「妻」になろうとしている彼女の頬に、そっと手を伸ばした。

 王宮の広間の手前、新郎と新婦の控えの間。


「本当に綺麗だ……」


 もっと色々褒めてあげようとしていたのに、いざ花嫁衣裳のレルシェの姿を見ると、そんな月並みな言葉しか出て来なくて、オディラギアスは自分が何となく情けなくなった。

 それでも、レルシェントが頬を染め、嬉しそうにしているのが胸温まる。


「……あなたも素敵、オディラギアス」


 レルシェントがそっと囁いた。


「何だか初めて会った人みたいに思えるの。あんなによく知り合ったはずなのに」


 オディラギアスとレルシェント、今日この日、新郎と新婦、正式な夫婦になる二人が身に着けているのは、星暦時代のルゼロスに当たる地域での結婚衣装の復刻だ。

 白を基調とし、様々な色彩で刺繍が施されたそれは、龍震族にはどこか懐かしく思えながらも、優雅にして珍しい。

 勇壮な曲線を多用した活き活きしたデザインの大ぶりのアクセサリーが、互いを今までと違う人物のように見せていた。


 これらを始め、星暦時代の、霊宝族と龍震族が事実上影響を与え合っていた文化文物がリバイバルしつつある。

 かつての差別的色彩は、慎重に取り除いた上で、だ。

 オディラギアスとしては、新しいルゼロスの文化の雛型として、この星暦時代の独特の雄々しさと優雅さを兼ね備えた文化を利用できればと思っている。


「……ある意味、我らの生活はこれからが始まりなのだ。我らは、夫と妻としては、今初めて出会ったのだ、レルシェ」


 前から宮廷には、レルシェントを王妃として遇するように命令し、そういう生活をしていたはずなのに。

 やはり、何かが違う。

 自分たちの関係も、そしてこの国の歴史も。

 今から新しく始まるのだ。


 オディラギアスとレルシェントは、どちらからともなく抱きしめ合い。

 軽く唇を重ねた。


「さあ、行こう」


 控えていた従僕が、広間への扉を開けた。

 歓声に包まれた広間に、オディラギアスとレルシェントは歩みを進めた。


 奥の祭壇には、世界龍バイドレルと星宝神オルストゥーラの司祭の男女が待ち受けていた。

 政治的配慮、そして新たな文化の模範とするため、新郎新婦、双方の祭神の司祭を招き、結婚式の宣誓を行ってもらう手筈となっている。


 参列者の中には、この後間もなく結婚する予定の仲間たち――ゼーベルとマイリーヤ、ジーニックとイティキラの姿も見える。

 空中に浮かんでいる球体は、元の世界で言うならTV中継のためのカメラであり、音声機器だ。

 このロイヤルウェディングの様子は、ルゼロス全土ばかりか、後を追うようにメイダルの文明を採り入れ始めたニレッティアにも中継されている。もちろん、メイダルにも、巫女姫が異国に嫁ぐ様子は大きな注目をもって伝えられている。


 華麗な絨毯の上を新郎新婦が進むと、歓声が大きくなる。

 仲間たちの他、オディラギアスの母と義父、そしてレルシェントの家族たち、メイダル女王、並びにニレッティア王室の面々の顔も見えた。


 地元の大手礼拝所の司祭を務める、それぞれバイドレル、オルストゥーラの司祭は、それぞれが交互に、その神の司る結婚の誓いの言葉を読み上げた。


「世界の力たる、世界龍バイドレルの名において。汝はかの神の名の元に、この世界に参加し、その力と愛とを捧げ、結婚の誓いをなすか?」


「至聖なる女神オルストゥーラの名の元に。汝は女神の法に則り、神聖なる誓いをなすべし。女神の指先となり、汝がつまとの間に愛を満たし、その家を女神の休息所となすべし。この誓文を承諾するや?」


 オディラギアス、レルシェントはそれぞれと互いの神の結婚の誓約にだくと返し、ここにルゼロス王国の王と王妃の結婚はなされた。


 歓声が最高潮に高まる中、オディラギアスとレルシェントは互いに向き合い、誓いの口づけを交わした。

 潤んだ目を見つめ合う二人の間に、特別な時間が流れた。

 永遠の、一瞬だった。



 やがて披露宴となった。

 衣装を着替えた新郎新婦が奥の席に並んで座り、周囲にルゼロスの美味を並べた宴席が用意され、招待客たちはサーヴァントにかしずかれ、それぞれに席に着いた。


 にぎやかな宴の間、ちょっとしたサプライズが起こった。

 すでに司会進行のルゼロス王国側の者には伝えてあったようだが、ニレッティア女帝、アンネリーゼが、ニレッティアで人気の歌劇で謳われる、結婚を寿ぐ歌を披露したのである。

 自らも文化に親しむ女帝の喉は見事で、宴は盛り上がった。


 ――祝われし男女よ、今宵、聖なる誓いをなしたまえ。

 ――楽園の扉は、汝らの前に開かれる。

 ――この世界の全ては今、汝らのもの、神々は汝らのために扉を開く。

 ――苦痛も不幸も、恐れおののき、遠くへと逃げ去る。

 ――汝らにあるはただこの輝かしき幸福のみ。

 ――互いの手を離さぬ限り、永遠の栄誉は汝らと共に……

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