8-19 クジャバリ防衛戦

「一時の方向!! 飛行型古魔獣二十二体接近!!」

「引き付けろ……撃てぇーーーー!!」


 号令一下、台座に据え付けられた機銃が火を噴いた。


 嵐の前の風に押し流される雲のように近付いて来た、非行型古魔獣が、機獣の集中砲火を受けて飛び散った。

 恐怖という感情を搭載していない古魔獣の群れは、数体仲間が吹き飛ばされても、取り立てて警戒し行動を変更するということはない。

 相変わらず押し寄せる青く輝くゲル状の空飛ぶヒトデ、といった風情のものに、再度機銃が掃射された。

 爆竹を仕掛けられた粘土細工のように、それらは飛び散りばらばらになって地面に落下した。煙を立てて、前の世界で言うならドライアイスのように溶け消える。


 それは、クジャバリの街を瞬く間に襲った「予想されていた悪夢」だった。


 恐らくは遺跡への突撃部隊が、遺跡のロックを解除するのと同時に、あらかじめプログラムされていたのであろう機獣と古魔獣の群れが、最も近い敵対種族の集落――この場合はクジャバリの街――に押し寄せたのだ。


 空中からは、奇妙な魔法を使う古魔獣が。

 そして、地上からは、魔導兵器を搭載した機獣が、不気味な駆動恩と共に迫る。


 それを迎え撃つのは、クジャバリの太守であるサイクゥゼルスに率いられた、クジャバリ防衛部隊である。

 実際に戦術を授けている、もしくは火力の中心になっているのは、もちろん魔導武器を持つゼーベルとマイリーヤだが、ここは、サイクゥゼルス始めクジャバリの面々に、「自分たちの手で勝利を掴んだ」という実感を抱いてもらわねばならない。

 従って、二人は援護という形に徹し、指揮権をサイクゥゼルスに委ねてある。


 流石にさほど大きくないながらも、重要な国境警備の任も兼ねる太守だけあって、サイクゥゼルスはかなり有能だった。

 ゼーベルとマイリーヤから事前に遺跡突撃時の様子を丁寧に訊きだし、入念に対策を立てた。

 一般に龍震族が蔑みがちな「銃」の有効性を認識しており、飛行型古魔獣への対策として配備。

 効果的に使用して、先制することに成功した。


「さあ、おめえら!! 来るぞ、ぬかるな!!」


 ゼーベルが黒く低い津波のように押し寄せる機獣の群れを前に、その真紅の太刀・殷応想牙を構えた。


 それは巨大な蠍とラクダを掛け合わせたかのような、奇怪な姿。

 機械の体のそこここに、様々な兵器が搭載され、ぎらりと輝きながらカメラアイが周囲を睥睨している。


 空を切る音と共に、殷応想牙が水平に打ち振られた。

 同時に、その剣閃に乗るかのように、奇妙な魔力が広がる。


 突如、整然と移動していた機獣たちの間に、奇天烈で不規則な動きが混じる。

 ある機獣はその場で延々と回り続けたり、別の機獣は隣の機獣を攻撃し始めたり。


 ゼーベルが送り込んだのは、魔導機械の駆動用魔力にすら干渉する「狂気」の魔力だ。

 プログラムを書き換え錯乱させ、完全に行動の制御のタガを外してしまう。


 だが。


 いきなりの無数の銃撃が、機獣の群れから敵対する龍震族のいる方角、すなわちクジャバリの街めがけて放たれた。

 狂気に侵されていないいないものばかりか、狂気に侵された機獣の中にも、偶発的にそちらの方面への攻撃を選んだものがいたのだ。


 ぞっとする閃光はしかし、突如空中に咲いた、巨大な花とも言えるようなものに呑み込まれた。


「お前らなんかに、負けないぞぉーーー!!」


 マイリーヤのその声が聞こえていた者が少数だとしても、影響は大部分の者に及んだ。


 魔導銃ダウズールから放たれた巨大なエネルギーの塊は、宙に浮かんだマイリーヤを中心に、巨大な無数の花弁を持つ花のように散開した。


 まるであらかじめ敵の銃撃コースを知っていたかのように、それは無数のエネルギー弾を飲み込み迎撃した。

 大きな花の周りで小さな花が咲くように、無数の爆発が起こる。


 更にそれだけでは収まらず、残った花弁の先端は、機獣の群れにまで届いた。


 地上でも、コデマリのような、形は愛らしい花が咲く。

 爆発音が地を震わせた。


 残骸となった機獣の群れを、生き残りの機獣の群れが乗り越え――


「総員突撃!! 一気に押し切れ!!」


 サイクゥゼルスの指示と共に、雄たけびがきな臭い大気を震わせた。


 翼を広げた龍の血を引く者たちが、それぞれの武器を手に、四方八方から突っ込んだ。

 すでに大破した機体の多かった機獣たちに、その勢いに対抗する術は、残っていなかった。

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