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  • 第六章 眠る遺跡メロネリと前世の思い出
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6-13 再会と再生

 表で働かされていた村人を一時匿っていた「ソウの庭園」を一旦回収し、レルシェントとオディラギアス、そしてゼーベルの三人は、村人を率いて遺跡に帰還した。


 遺跡では、森王龍フンババの術が解除され、植物の繭から解き放たれた居残りの村人たちが待っていた。


 別々に監禁されていた家族同士が、ゆっくりと再会を喜べた訳ではない。

 彼らはこれきり弱っていた。

 回復魔法を浴びせて一時的に活力を付与、その間に本格的な体力回復のための食事。

 そして健康に危害があるくらいに汚れてしまった肉体を風呂場で洗浄し、衣服も洗濯して、通常の生活を送れる程度に調子を戻さなければならない。


 数百人を収容できる規模の宿泊施設「ソウの庭園」だが、遺跡内部に改めて設置され、フル稼働の状態になった。

 世帯ごとに一部屋――人数が多かったり、年齢的性別的その他の諸条件でプライバシーを重んじる必要のある場合は複数の部屋――が宛がわれ、村人たちはそこでへろへろになった体を休めた。


「ソウの庭園」に駆使されている、霊宝族最新鋭の魔法科学技術の数々は、辺境の民フォーリューンの人々を仰天させた。

 いくら汚しても、いつの間にか綺麗に整えられている室内の各設備。

 元の世界の記憶がある者なら懐かしさを覚える部分もある全自動洗濯乾燥機は、初めて接する者には、恐怖を覚えるくらいの未知の機構だった。

 ベッドは特殊な回復系魔法がかけられ、通常の眠りに比べ、疲労回復効果が数倍になっている。しかも、使用する人物の意思を感知して、眠ろうと思うと、いくら神経が高ぶっていようと、スムーズに眠れる補助効果付きだ。


 過酷な奴隷生活の中で受けた傷病の類を回復し、十分な食事を摂ってから風呂に入って清潔さを取り戻すと、フォーリューンの民人は、ベッドに倒れ込んで、泥のように眠った。

 大部分の民が半日以上も眠り続け、目覚めたのは翌日、日が傾く頃だった。



 ◇ ◆ ◇


「皆様、この度はお助けいただき、誠にありがとうございます」

 ランプの灯り始めた中庭の長テーブルで、マイリーヤの父・フォーリューン村長、ソベルト・ロレンガッハ・サジェネルは、娘と共に自分たちを救出してくれた一行に、深々と頭を下げた。

 少し離れた木陰で子供をあやしている、セリエール夫妻の穏やかな姿が、彼の視界の片隅にある。そのことは、本当に良かったと思っているのだが。


「いえ。犠牲が出てしまわれる前にお救いできなかったのは残念ですが、皆さまだけでもご無事でようございました」

 気持ちを和らげるように、レルシェントが口にすると、ソベルトは短い息を吐いてうつむいた。

「犠牲が出たのは、何もかも私の判断ミス故です。森鬼どもに、結局いいようにされる隙を作ってしまった。死んでいった者たちは、みな、私の愚かしさの犠牲になったようなものだ」

 輝く黒アゲハの翅が回復しても、ソベルトの心に落ちる影は消えない。彼は溜息をついた。


「父さん……父さん、違うよ」

 ソベルトの隣に座ったマイリーヤが、父の腕を揺する。

 その隣では、マイリーヤと面差しが似通ったきらきらしたカゲロウ翅の女性がおろおろしている。マイリーヤの母でソベルトの妻であるシェイリーテだと、ここに居合わせた者は知っていた。

森鬼あいつらは、妙な術を使ってまで、他の生き物が自分たちに逆らえないように仕向けるんだ。それに、術を使われなくても、あんなやり方されたら、普通どうしようもないよ!!」

 ソベルトは力なく笑った。

「……お前はこの旅で強くなって、余裕のある子になってくれたのだな、マイリーヤ。そのことは嬉しい……あんな風に、妙なことばかり言って勝手にしろと放り出したようなこの私にまで」


「……ソベルト殿。犠牲者の方々の数がかなりに上り、長として悔いても悔いきれないそのお気持ち、お察しする」

 ふと、口を挟んだのはオディラギアス。

「しかし、後悔という感傷に浸るのはおすすめできない。あなた方はこれから、生活を立て直して村を復興していかなければならないお立場にある。そういう時に、村長が痛みにうずくまっていれば、村全体の士気にも関わる」

 あなたは村のために、前を向かねばならない、とオディラギアスは忠告した。


「太守さんの言う通りだよ、村長さん」

 更に向こうの席に座っていたイティキラが口を挟んだ。

「マイリーヤやあたいが見た夢を信用していなかったこととか、後悔してるのかも知れないけど、マイリーヤが村長さんやみんなを、それで非難してるの聞いたことない。あたいも気にしてないよ。だって、ここにいる同じ夢を見たみんな、まわりのほとんどの奴に信じてもらえなかったんだって」

 他の奴を見れば、分かるよ。

 普通、こんなこと信じてもらえないって。

 イティキラはふうっと溜息をついた。


 マイリーヤの両親であるソベルトとシェイリーテ、そしてイティキラの両親である、黒豹のレドアビンとジャガーのミユクーンは、それぞれ顔を見合せた。

「……マイリーヤや魔法使い殿ばかりか、こちらの皆さま全員が、うちの娘と同じ記憶をお持ちだとは……まさか、あれが妄想ではなかったとは」

 黒髪の壮年男性、レドアビンが一行の顔を見渡した。

「間違っていたのは、あたしたちだったのね……」

 悲し気な顔で溜息をつき、娘を、そして自分と同じように困惑の表情を浮かべる友人でもあるシェイリーテの顔を見やって、きらきらした金髪のミユクーンは静かに自分の間違いを受け入れた。

「……ごめんね、マイリーヤもイティキラも。私たちも村のみんなも後悔してるの。許してちょうだい」

 母のシェイリーテにそう言われて、マイリーヤはふるふると首を横に振った。


「もう気にしてないよ。それに母さんたちの気持ちも分かる。ボクたちが、何か病気なんじゃないかって怖くて、何とか治って欲しくて厳しいこと言ってたんでしょ? 村を放り出すように送り出したのだって、ボクたちが世間の厳しさを知れば、夢から覚めて正気になると思ったからだよね?」


 まっすぐ見つめられて、シェイリーテはまじまじと娘を見返した。


「心配してくれて、ありがとう。でも、ボクは大丈夫。この旅がどこに行き着くのか分からないけど、必ずみんなも納得する結果を持って帰ってくるよ」


 きっぱり言い切る娘を、ソベルトは目を細めて見つめた。

「……本当に、大きくなったな、マイリーヤ」

「ボクだって妖精族の英雄、カルカランの直系の子孫なんだよ」

 えへんと胸を張った娘の言葉に、ソベルト、そして彼の妻も、レドアビン夫妻も、はっとした顔を見せた。


「もしかして」

 うふふっと軽やかに笑いながら、レルシェントが口を挟んだ。

「あたくしの先祖と、ソベルト様の御先祖が対立していたことを気にしておられます? ねえ、皆さま、よく考えていただきたいのです。もう三千年も前の話ですのよ?」


 それは、そうだ、という空気と共に、主に男性陣二人が微妙な表情を見せた。


「色々、お気持ちもお考えもおありかと思いますわ。でも、今回、皆さんをお助け申し上げた見返りと申し上げてはなんですが、少しだけ、霊宝族でもあるあたくしを信用していただきたいのです。我ら種族の技術、少しはお役に立ちましたでしょう?」


 柔らかい声でそう語り掛けるレルシェントに、ソベルトもレドアビンも恐縮した。


「もちろんだ、レルシェント殿!! 信用はとっくにしている!! 命の恩人を信用できないなどということがあろうか!?」

 レドアビンが強い口調で言い切る。

「……我が先祖、英雄カルカランがここにいたら」

 静かな、しかし強い口調で、ソベルトは告げた。

「即座に霊宝族の方々に関する考えを改めると、私は信じる。そして私は、彼の子孫に相応しい行動と考えをするのみだ、レルシェント殿」


 レルシェントは嬉し気に微笑んだ。

 同時に、側で聞いていたゼーベルが口を開く。

「実際さ、村長さん方。一緒にこうして旅してると、種族の違いなんか、全く気にならねえよ」

「そうそう」

 うんうんと、ジーニックもうなずく。

「レルシェちゃんに会う前は、漠然と、霊宝族のイメージ悪かったでやすけど。こうして人として向かい合って話してみると、こんなに信用できて頼りになる人はいないでやすよ。そんなに怯えなくてもいいでやす」

「あたいらが異種族だからって、レルシェに冷たくされたこととか意地悪されたこととかないよ? みんなに一番いいように、今回だってちゃんと考えてくれたんだからさ」

 イティキラは、砂糖入りの茶をすする。勿論、「魔法のテーブルクロス」で出したものだ。

「さっき聞いたけど、村を復興するに当たって、遺跡を使って何かしてくれることを考えてくれてるんだってさ。期待していいんじゃない?」

 つんつんと父母をつつくマイリーヤの言葉に、彼らはきょとんとした顔を返し。


「ほう? 我が愛しの軍師殿に、今回の作戦を詳しく伺いたいものだな?」

 オディラギアスの言葉に、レルシェントは含みのある微笑みを返し。

 そして、口を開いたのだった。

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