6-9 フォーリューン解放作戦

 のうのうとしていた森鬼たちは、一体何があったのか、理解できなかった。


 異変は、まず、住居にしている遺跡を這い回る木の根や蔦がもたらした。

 まるで、無数の頭を持つ巨大な竜蛇のように、木の根と蔦が動き回り、遺跡のそこここで働いていた奴隷たち――元フォーリューン村の住人たち――を絡め取り、まるで巨大な繭のように雁字搦めにして封じ込めた。

 それは、屋外で立ち働いていた者に限らない。

 屋内で家事の類をやらされていた村人たちも、窓や扉、壁石や床の隙間などから侵入してきた植物に絡め取られてその場で繭玉にされた。

 大体は巨大な卵型のその繭は、植物が鋼鉄のワイヤーのように幾重にも複雑に絡みつき、到底自然にはほどけないだろうと確信できるほど、頑健な容器となっていた。


 無論、いきなりそんなものに閉じ込められた村人たちも仰天したが、更に驚いたのは、その村人たちを奴隷として働かせて安寧な生活を享受していた森鬼たちである。


 黒灰色の樹皮じみた皮膚を怒りで黒ずませ、そして細かい木の根じみた頭髪、更に曲がりくねった枝のような角を振り立てて、森鬼たちは、目の前のその「植物の繭」に挑みかかった。

 手近な武器で斬りかかり、折り重なった植物の壁を破壊しようとする。

 しかし、ごく普通の植物であったはずのそれらは、何故だか鋼のような硬度を手に入れていた。

 武器は硬い音と共に弾かれ、無理やり引きちぎろうと植物に指をかけても、鋼鉄の塊に触れたかのような感触が返ってくるだけだった。


 何が起こったのか分からず、森鬼たちは混乱した。

 が、流石に魔物の中では頭の回る種族。

 人質として閉じ込めている、村人の監禁場所に確認に走った者がいた。

 そこで、彼らは見た。

 人質として監禁してある村人を押し込めた、石造りの家屋。

 そこは、一面びっしり鉄のような植物に覆われ、外壁も屋根も、扉も見えなくなっている状態だった。もちろん、外から一切、内部に侵入できない。


 森鬼たちは戦慄と共に、あることを理解した。

 何者が「これ」をやっているのか分からない。

 しかし、その「何者か」は、確実に自分たちの寄生先の人類種族の群れを、救い出そうとしている。

 そのために、自分たちと「宿主」を切り離そうとしているのだ。


 一体、誰が。


 そう思う暇もなかった。


「おい、お前ら!! うちの村の仲間を、返してもらうぞっ!!」

 若い、というよりまだいくばくかの幼さの残滓を纏わりつかせた声が浴びせられた。

 金色の光が、遺跡の入口近くに駆け寄った森鬼二匹を薙ぎ払う。


 悲鳴すら、上がらなかった。


 飛来した一対の手裏剣は、自在な軌道を描いて飛びまわり、そこにいた二匹の首を、あっさり刈り取った。

 腐敗した泥にも似た、臭い血が雨のように降り注いだ。


 重い音と共に倒れた森鬼の死骸を、白い影がひらりと飛び越えた。


「やい、森鬼ども!! このテレルズ様が、貴様らを倒しに来たぞ!! 降参するなら、今のうちだぞ!!」


 天空を司る神のように、両手に日月の形の武器を携えて名乗りを上げるのは、まさしくテレルズだった。


「ミニアもいるもん!! おっ、お前らなんか、もう、目じゃないんだからね!!」


 背後のミニアは、壮麗な弓を構えつつ、同時に奇怪な生き物を従えていた。

 それは、大まかな形を言えば、竜種だろうか。

 深く滴るような緑の鱗を持つ巨躯は20m以上もある。

 背中一面、いや、首の後ろ側、太く長い尾、曲がりくねった角にまで、びっしり様々な植物が生い茂っている。

 その三対の翼は、若い羊歯のように丸められて背中に収まっていた。

 逞しい四肢にも植物の蔓が巻き付き、ところどころで花を咲かせ、背中の蔓は無数の蛇のようにうねうねと周囲を威嚇している。


「フンババ!! やっちゃえー!!」

 ミニアが、己の召喚竜に向けて叫ぶ。

 それに応じて吼えたフンババの咆哮が呼び水となり、更に殺到しようとしていた森鬼の一団が、足元から噴き上がった植物の奔流に呑み込まれた。

 巨人の手で持ち上げられた雑巾のように、森鬼たちの肉体は捻じられ絞られ潰された。くぐもった、不気味な音が響く。相変わらずの臭い血が、緑の表面を伝って流れ落ちた。


 森鬼たちは、パニックに陥った。

 目の前にいるのが、昨日逃げ出した子供二人だということは識別できる。

 しかし、あの無力もいいところだった子供が、何故いきなりこんな強力な存在となって戻って来たのか。見たこともない武器、見たこともないドラゴン。

 もしや、この村の外に仲間でもいたのか。

 いや、万が一村の外に仲間がいたからといって、こんな子供がたった一日でこんなに強力になるのは説明がつかない。

 それに、この子供二人の他に、周囲に人影はない。


 落ち着け、とリーダー格の森鬼が仲間をどやしつけた。

 所詮、子供二人だ、挟み撃ちして捕えよう。


 リーダー格の目配せで、数匹の森鬼が、遺跡を取り囲む塀を乗り越えて外周に……


 ばしん!!

 と激しい音、悲鳴が聞こえて、リーダー格と取り巻きはぎょっとしてそちらを見た。


 ひゅるん――と、何か炎を帯びた紐のようなものが、一瞬視界をよぎった。

 塀の上に駆け上がった者が、飛来したそれに頭を砕かれてどしゃりと地面に落下した。


 ――外にも、仲間がいる。


 戦慄と共に、森鬼たちは理解した。


 この子供をこんなに強化した恐るべき「何者か」が、やはりいるのだ。

 どんな奴かはわからないが、奴らはこの遺跡のすぐそばにいる。

 あの子供と連携しているのだろう。


 まずい。


 じわじわと迫りくる恐怖の中。

 森鬼たちの視界に、見慣れぬ姿が入ってきた。

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