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  • 第六章 眠る遺跡メロネリと前世の思い出
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6-7 少年少女の魔導武器

 激しい光条の嵐が、斑に木漏れ日の落ちるその森の空気を貫いた。


 じりじりと迫って来ていたドルス鳥の群れに、散弾よろしく光の筋が襲い掛かる。

 まさに中型恐竜じみた体躯の、鮮やかな緑の羽毛に包まれた二つ頭の魔物の群れは、全身を貫かれて、あれよという間に絶命した。

 光条の嵐が収まった向こうには、風変わりな弓を構えたミルクティー色の髪の、妖精族の娘。

 先ほどまでの弱々しい表情は影が失せ、溌剌とした自信に満ちた表情を見せている。

「やったぁ!! やったよ、マイリーヤ、あたしがやった!!」

 まるでその成果を報告するように、その娘、ミニアは幼馴染を振り返った。

 マイリーヤがうんうんとうなずく。


「らぁあっ!!」

 その脇を、激しく輝く金色のものが二つ、通り過ぎた。

 それを放ったのは、白い狼の半身を持つ獣佳族少年、テレルズだ。

 ドルス鳥の群れが消えた背後には、肉体の背面から大量の鋭い蔓草を生やした、巨大な猿型の魔物がそびえている。

 その背中の緑は、無数の蛇のように蠢き、一気に膨れ上がって一行に殺到しようとする。鋭い剣型の葉の縁や、蔓の先端が、本物の刃物のような硬さ鋭さで、彼らに迫った。

 しかし、阻止したのは、テレルズが投げた金色の光。

 円形の輝きを見せるそれは、生き物のように自在に飛翔して、緑をした刃の濁流を刈り取った。

 まとめてぶった切られた緑の刃が、無造作な音と共に湿った地面に降り注ぐ。

 鋭い弧を描いて戻って来た「その武器」を、テレルズは前進しつつ受け取り。

 巨猿型の魔物の間合いに踏み込むなり、一閃。

 斜め十文字に振り下ろされた刃が通り過ぎた時、体を四つに寸断された魔物が、汚らしいあれこれをまき散らしながら倒れる。

 その前に堂々と立つテレルズの両手にそれぞれ輝く金色の武器は、太陽、そして新月を二つ組み合わせて円形にした、いわゆる手裏剣型の武器。



「ふわぁああぁ……すっごい……御伽噺でしか知らなかったけど、霊宝族の人たちの武器って、凄いんですね……!!」

 緑の迷宮ともいうべき鬱蒼とした森の中、一行の先頭に立って道なき道を進むのはミニア。

 背中の翅で低く浮遊している彼女だが、その華奢な手の中に握られているのは、上端と下端に、それぞれ雲を纏いつけ、巡る太陽と月の幻が浮かび上がる不思議な弓だ。

聖弓せいきゅう・天空の祝奏しゅくそう」。

 その淡い金色の魔導武器は、そういう名前を与えられていた。

 ミニアは大事そうに、その弓を胸に抱えて進む。


「すっごいでしょ? まあ、戦闘能力的には、二人とももう、滅多な魔物に苦戦はしないよ。真正面から戦うなら、だけど」

 マイリーヤも、背中の蝶の翅を広げて、ふわふわ妖精族特有の浮遊感で進む。

 彼女の体は、深い森特有の薄暗さの中で、ぼんやり発光しているように見える。


「でも……これ、ええと、オルストゥーラさんって神様が、星霊石と引き換えに、俺たちにくれたんですよね……いいのかな、俺ら、霊宝族でもないのに」

 緋色の目をぱちぱちさせているのは、手の中の鋭い輝きの虹色の魔導武器を油断なく構えたテレルズだった。

 右手には、ゆらめく紅炎プロミネンスが周囲を取り巻くかたちの刃を持った、太陽型の大型手裏剣。

 左手には、鋭い新月型の刃が交差した形を持つ、月を象徴するような大型手裏剣。

 これは持ち主であるテレルズの意思に反応して自在に飛び回る、同時に手に持って近接戦闘も可能な、遠近両対応武器。

日想月思にっそうげっし」というのが、その魔導武器な名称だった。


「ふふふ、我が神は、相応しくない方や許しがたい方に、魔導武器を下し置かれたりはなさいませんわ」

 軽く笑って答えたのは、この武器を彼らに手渡す「星償の儀」を執り行ったレルシェントその人。

 足場を考えて「浮遊」の魔法を自らにかけて進む彼女の足取りは優雅だった。

「あなた方がまさにその魔導武器を手になさっているということは、あなた方も確かにオルストゥーラ女神に認められた戦士ということですわ。あたくしが予測した通りですわ、だって、我が身の危険を顧みず、同郷の人々のために最善手を打とうとする方を、我が神がお見捨てになる訳ないですもの」


 レルシェントは、テレルズとミニアの二人に、それぞれ魔導武器を与えていた。

 これから先、実際に森鬼たちの本拠に乗り込むのに、ほぼ丸腰では不安に過ぎるというのがその理由だ。上手く行けば、彼らも戦力になる。


 テレルズとミニアが顔を見合せる。

「れ、霊宝族の神様って、あたしたちのこと嫌いなのかと思ったけど……そうでもないのかな、えへへ……」

 頬を赤らめてもじもじするミニアは、弓を大事そうに抱きしめた。

 この少女は元来内気でナイーブらしいというのが、一行の受けた印象だったが、意外にも戦いに際して怖気づくということがない。だからこそ、マイリーヤの父に村の運命を託されたのだろうが。

「んっと、神様だって、そんなに昔のことをいつまでも根に持ったりは、しないってことじゃねえかな? 正直、ほっとした……」

 花のような雰囲気のミニアと対照的に、溌剌とした気迫を周囲に発散するテレルズは、いかにも村の純朴な少年だった。気性がまっすぐで、勇気があり、揺らがない。いじけた部分のない彼に、村の命運を託したマイリーヤの父は慧眼というべきだ。


「さて、そなたら。そなたらの同郷の者たちが捕まっている場所まで、まだ遠いのか?」

 オディラギアスが、周囲を観察しながらそう問いかけた。槍の石突の部分で、何気なく足元の藪を払う。


「もう、少し、です。大きな、トヤンの木のある、遺跡……っぽいところだったんですけど」

 ミニアが、訥々と説明する。


「この森を管理しているメロネリ遺跡の本来の目的は、魔法薬などの材料になる、魔力を帯びた植物の栽培管理だったのですわ。元々、このフォーリューンの森は、霊宝族が魔法樹を大量に栽培する大規模植物園だったのです」

 レルシェントが、静かに説明する。

「メロネリ遺跡自体は研究施設のようなもので、森のあちこちにそれとは別に、実地観察をする霊宝族のための居住施設が設置されていたはずです。恐らく、村人の方々が捕まっておいでなのは、その居住地跡の一つでしょう」


 あ、と何かに気付いたのは、イティキラ。

「もしかして、そういう場所だと、遺跡が生み出した機獣や古魔獣に襲われないから、とかある訳?」

 レルシェントは難しい顔でうなずいた。

「恐らくそういうことを認識しているのでしょうね、森鬼なる魔物は。もしかして、以前に似たような仕組みの、別の遺跡の周辺にでも住んでいたのかも知れないわ」


 その言葉の意味するところに思い至って、イティキラはぞっとする。

 では、

 おぞましい想像しか浮かばない。


「そろそろ、例の作戦、準備した方がいいんじゃねえのか? なんか空気変わって来たぞ?」

 まるで悪臭を嗅いだように、ゼーベルが鼻の付け根に皺を寄せた。

 実際には濃密な緑の匂いがするだけだが、彼の魔力にぴりぴり来るものがあるようだ。


「もう一度、作戦を確認しませんかい?」

 拳を握ったり開いたりしながら、ジーニックが声をひそめた。珍しく緊張しているようである。


「そうですわね。集まって下さいませ、皆さん。ミニアさんもテレルズさんも」

 レルシェントがどこからともなく、元の世界で言うならタブレットのようなものを取り出して起動させた。

 全員が彼女の手元を覗き込み、そこに示された図と、彼女の説明に注目した。

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