6-4 熱情のひととき

「尊さん……」

 熱い吐息が、オディラギアスの耳をくすぐった。

「尊さん、尊さんっ……!!」


 オディラギアスは動きながらも上体を起こし、自らと繋がっているレルシェントのしどけない姿を見下ろした。

 白い肌はバラ色に紅潮し、目の周りは涙で濡れてはいるが、子供のように泣きじゃくっていた先ほどと比べると、大分落ち着いたように見える。

 きらめくその姿は、さながら星の女神を抱くようだ。


「ソウの庭園」の客室の一つ、奥まった寝室に、二人はいた。

 舞台のように豪奢な、大きな寝台に、二人のための舞台にうってつけだった。


 レルシェントの地獄に落ちていた心を救うには、罪悪感の除去、そして混乱して高ぶった心を別の高揚で上書きして軟着陸させる必要があった。


 そして、選んだのが、肌を合わせるという選択肢。


 少し荒っぽくして、レルシェントに体を差し出させている風に思わせれば、贖罪にも似た感情を抱かせることが可能だった。

 混乱した心は性の興奮にシフトし、二人は何の障害もなく、何度も繋がった。


 すぐには、落ち着かせられなかった。

 だから、繰り返し快感を与えて鉛のような罪悪感を揮発させる必要があった。


 ――オディラギアスが、ここぞとばかりに欲望に負けたと、仲間たちは思うであろうが。


「レルシェ……」

 再び覆いかぶさりながら、オディラギアスはレルシェントの耳元に囁きかけた。

「レルシェ。私を見ろ」

 レルシェントが涙で濡れた目で、オディラギアスを見上げた。

 太陽の金色と星の青が交錯する。

 そこに込められた、狂おしい熱情も。


「私は死んでいない、ここにいる。そなたとこうしている……」

 ぐい、と揺すり上げる。

「過去は過去でしかない……そこに捕らわれるな……すでにいない『中原尊』ではなく……そなたとここでこうしている『オディラギアス』を見てくれ……」


 唇を重ね、抱きしめる。

「尊さ……」

「オディラギアスと。そう呼んでくれ。その方が好きだ。こうしていられるからな……」


 高まりの乗じるように、オディラギアスは彼女を追いかけた。

 ずっとこのままがいいと、オディラギアスはその瞬間に願った。



 ◇ ◆ ◇


「……前の世界で、私を知って……?」

「知っていたというほどではない。コンビニでよく見かける美人だったというだけでな。名前も知らなかった」

「……もしかして、気にかけてくださっていたんですの?」

「……気持ち悪いと思われるかも知れないが、正直そうだ。だが、声をかけるきっかけも掴めなくてな。深夜のコンビニでナンパなど、非常識極まるだろう? 悶々としているしかなかったな」

「……気付かなかったですわ、まさか……」

「そなたを救った英雄として死に、そしてこの世界でこうして出会えた。私にとっては、どちらも悪くない……。どの世界でも何があるか分からぬな、人生は」

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