5-5 魔導武器と将軍

「これは……」

 手の中の輝く槍を眺めながら、パイラッテ将軍は、何度目になるか分からない感嘆の溜息をこぼしていた。

「素晴らしい……こうしているだけで魔力をびりびり感じる……」


 そこは、パイラッテ将軍に割り当てられた執務室だった。

 宮殿の他の場所と等しい緋色の絨毯、年月を感じさせる、重厚な家具。

 獣佳族用に設えられた、丈の低い幅広の座面の椅子に虎の四肢を折り曲げ、モアゼ・ジュクル・パイラッテ将軍は、目の前の机に積まれたを鑑賞していた。


「霊宝族の武器」を見たことがない訳ではない。

 それらは、時折だが、遺跡やその周辺で発掘される場合もある。

 しかし、それらはとっくの昔に主を失い、「役割」を終えており、例え所持したとしても「起動」させることはできない。

 そもそも、「霊宝族の武器」――あの地下牢に入れた者らは「魔導武器」と呼んでいたが――は、特定の所有者とシンクロしており、その所有者でない限りは装備すらできないのだ。

 無理に装備しようとすれば――


「くかッ!!」

 日輪白華を構えようとしたパイラッテ将軍は、その瞬間、両腕を走り抜けた電流のようなエネルギーに打たれて、槍を放り出した。

「くふぅ……やはり無駄か」

 唸るような口調で、パイラッテ将軍は椅子に四肢を投げ出した。

 しばしあって、のろのろと白く輝く槍を拾い上げる。単純に持ち上げるだけなら、魔導武器からは攻撃されなかった。


「惜しい……誠に惜しい。これだけのものを前に……むぅ」

 納得いかなげに、パイラッテ将軍は目の前に積まれた宝の山――魔導武器を見下ろした。


 太陽のように輝く槍は、に繊細華麗な紋様を刻み付けられている。

 それが単なる装飾ではなく、絶妙な滑り止めであるというのは、手にしてみて初めて分かる。

 一見過剰な装飾に見えた太陽型の突起は、むしろ攻撃力を増すための魔導器だということも、これだけ近付けば判別できるというもの。


 それは、他の魔導武器にしても同じだ。


 玄妙な夜空を切り取ったかのような双刀が漂わせる魔力は、いい加減魔法戦にも慣れたパイラッテをして、心胆寒からしめるものがあった。

 それがそこにあるだけで、放つ魔力から空気が変わる。

 違う世界を垣間見せられるような、奇妙な浮遊感と高揚感。

 その威力、まさに神器。

 あの、霊宝族の女が所持しているだけのことはあった。


 その隣には、銃……らしきものもある。

 いや、確かに銃だろう。

 だが、どこにも弾丸を装填するための開口部がない。

 造りから想像するに、内部に仕込まれた魔導機関を介して、所有者の魔力を弾丸にするものであろうか。似たタイプの発掘品や、文献上の記録なら見たことがある。

 軍人として、嫉妬に似たものすら感じる武器ではあった。


 それと重なるようにして禍々しく輝く深紅の太刀は、今すぐどこかへ放り出したくなるような、総毛だつような気配を漂わせている。

 並の人間族の身の丈ほどもある刀身からは、肌にびりびりするような魔力が放出されている。

 獣佳族のパイラッテだからこそ分かる、これは生命そのものを蝕む種類の魔力だ。

 斬りつけられた者は、毒に侵されよう。

 そう簡単には解毒のきかぬ、死毒に。


 不思議な紋用の走り回る材質不明な長い鞭は、未知の機構で、宙空に魔法陣を描いていた。

 これは、魔法技術担当官に依頼して、解析を進めるべきだろうか。

 確か、あの召喚術を心得た商人の小倅の得物だったはずだ。

 早とちりは危険だが、しかし、かなり高度な――「召喚獣」というより「召喚魔神」レベルの存在を、あの小倅は入手している可能性もある。

 かつての、霊宝族たちに関する記録にあること。

 その辺りも含め、調べねばなるまい。


 最後に取り上げたのが、自分と同じ獣佳族の娘が纏っていた、格闘術用の籠手と脚甲。

 正直、「我が物にできるとしたら、どの魔導武具を選ぶか」と問われれば、真っ先にこれを挙げるだろう。

 情報局からの断片的な情報によれば、この武器は近接格闘ばかりか、不思議な力で打撃を遠方に飛ばして、まるで魔法や銃器のように遠隔攻撃ができるという。

 格闘術の良いところは敵の動きをコントロールしやすいことだが、これは遠隔でそのコントロールができるらしい。

 あの槍にもそそられたが、獣佳族として、軍人として、そして何より一人の武器マニアとして、この武器は……


「……いかんな」

 ともすれば突っ走りそうになる己の心を、パイラッテは無理矢理抑え付けた。苦笑が浮かぶ。


 これは、仕事だ。

 自分の仕事は、この武器をかすめ取ることではなく、製法を突き止めて量産できるようにすること。


「……あの霊宝族の女化け物。製法を吐かせねばならん」

 なんなら古の時代のように、拷問に頼ってもいいだろう。


 男臭い顔を凶暴に歪めたパイラッテの頭上の電気灯が、まるで幽霊の手に触れられたかのように、点滅して消えた。

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