5-4 真相と電話機

「なかなかそそる表情でしたよ。あなたは、故郷ではさぞや男たらしなのでしょうね?」


 クックッと笑うミーカルに、さしものオディラギアスの理性も再度ブチ切れかける。

 事実上、性的な拷問までしておいて、その下劣な言いぐさ。

 よくもそんなことが言える。

 だが、レルシェントが目を開いて自分を見つめてきてはっとする。

 ここで彼女の忍耐を無にしてはならない。


「さて、あなたの実力も分かったところで、本題と行きましょうか。それだけの力がありながらご自分を抑えることがおできになるのは、交渉相手としては嬉しいですね。確かに霊宝族というのは賢い方々のようだ」

 余裕を見せて、ミーカルが笑う。

「しかしです。我らとて進歩しているのですよ。我ら地上種族も科学というものを手に入れた。理性的かつ理論的にものを考えるようになっているのですよ……さて、尋問の続きと参りましょう」


 ふう、とレルシェントは溜息をこぼした。

 ミーカルの無駄口の間に気持ちを持ち直したようだ。


「何をお訊きになりたいんですの? 遺跡に何のために潜ったか、でしたかしら?」

 ミーカルは再び部下から受け取った鞭を鳴らした。

「そういうことです。あなた方は何かを探して、最初はルゼロス王国のスフェイバ遺跡に、次いでこのニレッティア帝国のラグゼイ遺跡に来られた。一体、探しておいでなのです?」


 ちらり、とレルシェントはオディラギアスと目を見交わした。

 こういう時のための答えは、すでに取っておいてある。


「……あたくしどもの探しているのは、霊宝族の記録にある、星暦時代に作られたという秘宝ですわ。何でも、神に近付けるくらいの凄まじい魔導具らしいのですが」

 さらっと当たり前のように口にすると、ミーカルが目を細めた。

「魔導具?」

「あたくしども霊宝族が使う、魔導技術で造られた道具のことですわ。定義は日用品から神器と言えるようなものまで幅広いですけれども、あたくしどもの探しているのは、もちろん後者ですの」


 ミーカルがちらっと後ろに視線を投げかけた。

 革表紙のノートらしきものを持つ書記官らしい男が、恐らく速記術を使って発言を記録しているようだ。


「……その秘宝とやらは、具体的にどういうものです? 隠し立てすると、あなたにもお仲間にも、ためになりませんが?」

 ミーカルはなおも責め立てる。

「隠し立てしようもありませんわ。何となれば、その秘宝というのが、具体的にどういうものか、記録からは一切抜けてるんですの」

 レルシェントの溜息混じりの言葉に、ミーカルの目が光った。

「ただ、凄まじい力を与えてくれる、扱いに気を付けねばならない魔導具だということしか。あまりにあやふやな記録なので、逆に気になって、あたくしは故郷で調べていたのですわ」


 再度、ミーカルが鞭を鳴らした。


「調べたことを出来得る限りに詳しく教えて下さい。誤魔化していると判断したら、地下牢のお仲間とこちらの王子殿下が……」

 再々度、ピシリ。

 レルシェントは溜息を洩らした。

「ですから、誤魔化せるほど、あたくしも詳しくは分からないんですの。一般的には『神々の秘宝』と呼ばれていおりますが、その呼称が本当に神々の力を借りたものであるからなのか、それともものの例えなのか、それも判断できないほどですわ」


 ふむふむと聞き入っているミーカルを横目に見ながら、オディラギアスは舌を巻いた。

 レルシェントは

 しかも、あんな目に遭った直後に。

 いや、この交渉術も、それのしっぺ返しの一種か。

 この女は敵に回したくないものだと、改めて思う。


「しかし、確かに地上に残された遺跡の中に存在し、そして凄まじい力を与える魔導具だということは分かっておりますの。調べた記録を元に、あたくしは最初スフェイバへ、そしてそこで得た情報を元に、次にラグゼイの遺跡に向かったんですの」

「で? ラグゼイでは?」

 鋭くミーカルが迫る。

 レルシェントは、問いに首を横に振る。

「見つかりませんでしたわ。ラグゼイが、頑張れば一般人でも入り込めるほど、セキュリティのゆるい遺跡だとご存知でしょうに。多分、大昔に盗掘されたのではないかと、仲間と話し合っていたのですが」


 これも、嘘はつかずに肝心な情報を敵に渡していない。

 ラグゼイでものが見つからなかったのは事実だし、仲間たちと「盗掘されたのでは」と推測しあったのも事実だ。

 ただ、だけだ。


 じっと、ミーカルがレルシェントを見詰めた。

「何か、まだ隠しておりますか?」

「隠せるほどの情報はございません!! 我らがまた振り出しだというところで、あなた方に捕まったんですのよ。むしろ、あなた方が何か隠しておいでではないかと疑っていたところでしたわ、ニレッティア帝国の中枢の方々が」

 疲れたようなレルシェントを見て、ミーカルが不審な表情を浮かべた。

「我らが? どういうことです?」

「もし、ラグゼイの遺跡から盗掘されたなら、最終的に辿り着いた先は、こちらの王宮ではないかと、疑っておりましたが。そういう訳でもないのですわね?」

 レルシェが、今度は立場が入れ替わったように、ミーカルを探るような目で見る。

 ミーカルはその視線を憮然と受け止めると、背後の書記官を振り返り、うなずいた。


 そして、くるりと振り返り、部屋の隅に設置された棚へと向かう。

 棚には、地上種族にとっては最新鋭の電話機が取り付けられていた。


 そこで呼ばれた名前に、レルシェントも、そしてオディラギアスも、ぎょっとした顔を見合せた。

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